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マネーボール

マイケルルイス 中山有訳 早川書房

セイバーメトリクスという言葉は、近年メジャーリーグやNPB(日本プロ野球)でも時々使われる言葉である。私も正確な意味を知っている訳ではないが、一言で言えば「野球選手の能力を今までよりも正確に評価しようとする際の指標」とでも言うだろうか。だからスタッツと呼ばれる従来の指標(打率、防御率等)が全く役に立たなくなった訳ではなく、これらの指標の価値を認めながらもこれらの指標では表現できていない選手の能力を表す指標(あるいはそのような指標を探し出す試み)と表現しても良いだろう。例えばセイバーメトリクスを代表するOPSという指標にしても、出塁率と長打率を合計しただけの数値だが、そのような数値で選手の能力全てを評価できるかというと、そうではない。結局の所セイバーメトリクスが万能なのではなく、「選手にとっての価値とは何か、それに最も寄与する能力は何か、その能力を端的に示す指標は何か」という問いかけがセイバーメトリクスなのではないかと思っている。
前置きが長くなった。本書「マネーボール」は、そのようなセイバーメトリクスを導入する立役者となったメジャーリーグ球団「オークランド・アスレチックス」とそのGMビリービーンの物語である。彼は自身のメジャーリーグ体験(彼自身前途を有望視されたメジャーリーガーだった)等から基づき、これまでのスカウト制度や選手の評価が全く実情に合っていないことに気づく。そこで彼は野球チームの役割とは何か、といった点から分析を始めていき、勝ために必要な人材とそのために投資効果の高い投資を求めて選手を探す。そしてその一方で投資に見合わない選手はどんどん切り捨てていき、チームを強化していく。
彼の考え方はユニークである。まず球団の役割とは勝つことと定義する。何だかんだ言っても強いチームには客が集まるし、弱ければ集まらない。次に勝敗に最も寄与するファクターは何かを定義する。それは得点と失点である。多くの得点を獲得し、失う失点を減らした球団が勝てるという論理だ。彼はそこで野球というゲームの仕組みに目を向けていく。野球とはつまりアウトを3つ取られる間に多くの走者をホームベースに迎え入れるゲームである。そこで彼が着目したのが出塁率。つまり何らかの形で塁に出る能力である。その一方で彼は犠牲バントや盗塁を嫌った。何故ならこれらの作戦は、相手にアウトを与える危険性がある(あるいはその必然性が高い)からだ。野球の本質を「アウトにならないこと」とした彼は、出塁率の高い選手を求めてチームを作っていく。
本書にはビーン以外にも多くの実在の人物が登場してくる。その多くはメジャーリーガーで、我々が知っている人物もいるが、多くの選手は我々の知らない選手たちであろう(メジャーリーグに詳しい人は別として・・・)。そういった面で残念ながら日本人の我々は本書の魅力を十分に味わうことはできない。
しかしそれでも本書は読者に対して新しい野球観を提供せずにはいられないだろう。

お奨め度★★★★