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「それぞれの関ヶ原」は、Game Journal誌第51号の付録ゲームである。
テーマは関ヶ原の合戦で、関ヶ原盆地における東西両軍の激突を扱う。このように書くと普通の合戦ゲームのようにも思えるが、本作はやや違ったアプローチで関ヶ原の合戦を描いている。

イメージ 6通常、関ヶ原の合戦といえば、プレイヤーは徳川家康又は石田三成の立場になり、それぞれ相手陣営の打倒を目指して戦う。
しかし本作は違う。
プレイヤーの立場は、小早川秀秋、島津義弘、吉川広家、長宗我部盛親の4名の中からランダムに1名を選択する。プレイヤーの目的は、勝てそうな陣営に着いて勝利を得ることは勿論だが、同時に相手プレイヤーを出し抜いて「関ヶ原第一の功労者」という立場を得なければならない。そのためには相手プレイヤーが誰なのかを見極め、相手よりもVPで上に立つように狙う必要がある。

プレイ

イメージ 4下名が引いてきたのは島津だ。最終的に西軍が勝利する方が望ましいが、途中で寝返って東軍につくことも可能である。島津の場合、陣営表明前に討ち取った東軍ユニットがボーナスVPなので、中立を装いつつさりげなく東軍部隊を包囲に追い込むようにする。しかし下名の努力も空しく東軍部隊は強く、盤面の状況はどう見ても東軍有利。島左近や大谷吉継が単身鬼神の如き働きを見せているが、全般の情勢を覆すような状況ではない。

イメージ 5このような状況を看過した対戦プレイヤーは自らの立場を明らかにした。
「金吾中納言殿、裏切りぃー」
そう。対戦相手は小早川秀秋だったのだ。まさに史実通りの展開。松尾山を駆け下りる小早川勢。これで状況は決定的に東軍有利となった。最早小細工を弄しても状況を逆転できそうにない。思い悩んだ島津義弘。最終Turnに
「故あって東軍にお味方申す」
と言うや否や、東軍の猛攻を受けて苦戦中の宇喜多秀家公の背後に回り込んだ。
「島津殿裏切りぃ・・・」
の叫びが戦場に響く。
前方に東軍主力。そして背後に精鋭島津勢に押さえられた宇喜多秀家公に勝ち目はなかった。秀家公討ち死に。その瞬間西軍主力は崩壊。敵の大将を討ち取ったことで島津義弘公は「関ヶ原第壱の功労者」となった。

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感想

イメージ 7プレイヤーの立場が曖昧である点については、本作の方が先に紹介した「武田遺領争奪戦争」よりもゲームの中で上手く活かしていると思う。本作ではプレイヤーが自らの立場を隠蔽する意義は十分にある。そして隠蔽することによって得られるメリットと、立場を明らかにすることによるメリットが微妙な所でバランスがとれている。従ってプレイヤーは相手が誰なのかを推論しつつ立場を表明するタイミングを見極めることになるだろう。

本作の問題点は、「これが関ヶ原のシミュレーションなのか?」という点である。それを端的に示しているのがシーケンスで、陣営を明らかにするまでは両プレイヤーが東西両軍を半々で指揮するが、いずれかが陣営を明らかにした後は、一方の陣営が他方の3倍以上の移動機会を得ることになる。当然ながらもう一方の陣営にとって勝機は薄くなる。これを「裏切りの影響」と言ってしまえばそれまでだが、やや影響が過剰なようにも思う。

まあ上記のことは些事として、もっと本質的な問題は、「ゲームプレイの労力の大半を勝敗とは全く関係ない作業に費やされる」ということだと思う。本作の主役は寝返り大名なので、関ヶ原主戦場における勝敗自体には余り執着がない。どちらが勝とうが「自分の属している陣営が勝てばよい」ということなのだ。むしろ合戦は「裏切るための場面作り」である、と考えるのがしっくりくる。
しかし問題なのは、そのような「場面づくり」がプレイ時間の大半を占めるということである。しかも戦闘を行う度に両プレイヤーがダイスを振りあうのは、戦闘回数が増えると結構苦痛に感じる。流動的な状況を作り出すためには仕方がない作業かもしれないが、それにしても毎Turn数十回ダイスを振り続けるのは辛い。

もしテーマを裏切りに絞るのであれば、盤面の戦闘自体はもっと簡略化しても良かったのではないかと思う。


激闘関ヶ原 Game Journal 64-シン関ヶ原 コマンドマガジン Vol.178『碧蹄館の戦い』
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