先任士官物語
渡邉直 光人社NF文庫
架空の護衛艦「しののめ」を舞台にした新任砲雷長、結城武。本書は結城武と「しののめ」を主人公とした小説である。小説という形態を取っているが、本書で描かれているのは生の海上自衛官の姿で、遠洋航海、未知の人々との出会い、戦闘訓練、事故、司令との確執、同僚との絆、そして海上自衛官達を背後で支えている家族達が描かれている。護衛艦「しののめ」は「くも」クラスの護衛艦とされているが、これは1960年代から2000年前後まで活躍した「やまぐも」「みねぐも」クラスの護衛艦である。主兵装はアスロックとボフォース対潜ロケットで、現在の汎用護衛艦のようにSSMやCIWS、短SAM等は装備していない。あくまでも対潜戦に特化した護衛艦である。ちなみに「くも」クラスが遠洋航海に出たのは1970年~85年なので、本書の扱っている時期は1970年代であろう。ただし本書では「しののめ」が「くも」クラスだろうが、「ゆき」クラスだろうが、あまり関係ない。護衛艦は脇役で主役は海上自衛官達である。従ってメカニックな側面に期待する向きにとっては期待を裏切られるかもしれない。しかしその一方で海上自衛官達の生の生活を「わかったような気にさせてくれる」作品である。
お奨め度★★★