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失われた勝利(上)(下)

E.V.マンシュタイン 中央公論新社

第2次大戦当時のドイツ軍にあって、最も優れた将軍と言われたエーリヒ・フォン・マンシュタイン将軍の自らの戦歴を記した戦記である。上巻ではポーランド戦役からフランス戦を経て独ソ戦初期におけるクリミア半島攻防戦と北方軍集団での戦いを扱ている。下巻ではスターリングラード攻防戦からクルスク戦、ドニエプル川を巡る攻防戦と1944年序盤の西部ウクライナでの戦いを描いている。
上巻での見どころはフランス戦役で、アルデンヌを突破したドイツ軍がフランス軍を圧倒する様は圧巻である。またクリミア半島での戦いも興味深い。下巻では次第に悪化する戦況の中で、ヒトラーの不合理な干渉に苛立ち乍らも自らの職責を全うしようとするマンシュタイン将軍の苦闘が興味深い。
本書は戦史として読んでも面白いが、それ以上に危機的状況における人間のあり方という観点から見ても興味深い。圧倒的な敵軍、無理解な上官、そのような絶望的な状況下で彼はどのようにして職責を全うしたのか。あるいは自らが同じ立場に置かれた時にどうするのか。あるいは自らが同じ立場に置かれないためにはどうすればよいのか。対人折衝、リスク管理、危機管理等、本書から学ぶ点は多い。

お奨め度★★★★