World at Warシリーズは、Lock'n Load社から発売されたゲームシリーズで、1985年前後における戦術レベルでの陸上戦闘を描いた作品群である。1Hexは実際の150m、1Turnは実際の5-15分に相当し、1ユニットは小隊規模の歩兵、戦車、装甲車両等を示している。
本作は複雑な現代戦を扱った作品で、砲兵、化学兵器、多目的誘導砲弾、攻撃ヘリ、航空支援、電子戦、指揮統制といった現代戦特有の様々な事象を再現しながら、基本システムやルールが驚く程シンプルなことに特徴がある。ゲームのエンジンはチットシステムで、フォーメーション(NATOは中隊、WPは大隊)を表すチットを引くと、フォーメーションに所属するユニットが活動(移動又は射撃)できる。射撃システムもシンプルで、攻撃側が射撃力に相当する数のダイスを振り、命中値以上の目を出した数がヒット数になる。撃たれた側はアーマーレベルの数だけダイスを振り、保護値以上の目が出た数だけヒット数を減少させられるというもの。射撃力と命中値、アーマーレベルと保護値の組み合わせでそれぞれの兵器の特徴を表現している。ちなみに歩兵や砲兵の場合、アーマーレベルは設定されておらず、地形別に設定された地形レベルで防御ダイスを振る。
カウンターパンチ(1)
今回、本作をプレイするに際し、プレイヤー3人でフォーメーションを分割してプレイしてみることにした。最初に選んだシナリオは、Compendium誌Vol.1に掲載されている「カウンターパンチ」。米英連合のNATO軍がソ連軍に対して反撃を行うというものである。登場兵力は、ソ連軍が戦車1個大隊(第1戦車大隊)と機械化1個大隊(第48親衛自動車化狙撃兵大隊)。NATO軍は米軍が戦車1個中隊(チームヤンキー)、英軍が戦車1個中隊(ロイヤル竜騎兵中隊)と機械化歩兵1個小隊(第3クィーンズ連隊の一部)の計3個小隊である、兵力量から言えばソ連軍はNATO軍の約2倍だが、兵器の性能、そして指揮統制でNATOが勝っている。特に指揮統制の違いは顕著で、ソ連軍は各大隊につきチットを1枚ずつなのに対し、NATO軍はそれぞれの中隊が2枚のチットを持っている。単純計算では、NATO軍はソ連軍の2倍動けることになる。
「通常の3倍、ならぬ通常の2倍のスピード」
が文字通り実現できることになる。
今回まずは下名はソ連軍を担当した。
序盤、遠距離射撃戦で英軍のチェレンジャーと米軍のエイブラムスの遠距離射撃を受けて自動車化狙撃兵のBMP小隊5個が瞬時に昇天してしまい、NATO戦車の遠距離射撃力に驚愕したソ連軍。慌てて残った部隊を物陰に後退させる。
その後NATO軍はソ連軍が立て篭もる市街地に接近。第5Turnの終盤にはチームヤンキーがアンハウゼン(Anhausen)に籠るソ連第1戦車大隊残存部隊を追い詰める。北のイリイチ(irlich)付近に籠るソ連自動車化狙撃兵大隊に対しては、英軍2個中隊がそれを圧迫する。
しかしそこでソ連軍の反撃が炸裂する。森に潜んでいた狙撃兵達が不用意に森に入ってきたチャレンジャー戦車の小隊に肉薄攻撃を仕掛ける。歩兵の伴わない戦車単独のスタックは、近接突撃に対して驚く程脆い。チャレンジャーは2ユニット撃破、1ユニット大損害という壊滅的な打撃を被り、英ロイヤル竜騎兵中隊は瞬時に壊滅した。
この段階で攻撃力を損失した英軍の投了でゲームは終了。第1戦はソ連軍の勝利に終わる。
この段階で攻撃力を損失した英軍の投了でゲームは終了。第1戦はソ連軍の勝利に終わる。
右翼からはイリイチに籠るソ連自動車化狙撃兵大隊を撃破せんと英軍2個中隊が接近する。エイブラムスよりも強力なチャレンジャー重戦車を英軍は装備している。
次第に距離を詰めていくNATO軍。しかしソ連軍もさるもの。BMP-2の対戦車ミサイルがNATOの重戦車を狙い撃つ。単独では左程脅威にならない対戦車ミサイルだが、指揮官修正がつくと結構脅威になる。「ダイスを6個振って4以上で命中」。出目が揃えばエイブラムスでもチャレンジャーでも無事では済まない。気が付くとチームヤンキーのエイブラムスはその大半が撃破され、英ロイヤル竜騎兵中隊のチャレンジャーも1/3以上の戦力を失っていた。
森に取り付いた英クィーンズ連隊の自動車化歩兵が下車戦闘に移る。小隊がスタックして森の中に潜むソ連兵を白兵戦で撃破していく。しかしどうしても数が足りない。英軍の戦車は強力だが、機械化歩兵はそれほどでもない。彼らの輸送車両たるFV432は兵員輸送車、つまり戦場のタクシーに過ぎない。米軍のブラッドレーのように歩兵と同等の近接戦闘能力があれば、歩兵を随伴して掃討戦に加われるのだが。そんなこんなで英機械化歩兵は少しずつソ連軍を食っていったが、その速度はもどかしいほど遅い。
結局、NATO軍はソ連軍を撃破し切れずに時間切れ。NATO側の敗北が決定した。
熊への挑戦
次に挑戦したのが、Blood and Bridgeのシナリオ7「チャレンジング・ザ・ベア」。毎度おなじみの英軍クィーンズ連隊所属の機械化歩兵中隊と竜騎兵中隊のチャレンジャー戦車がソ連軍1個大隊が守る市街地を奪取するというもの。今回はソ連軍を担当する。麾下の兵力は1個中隊相当のT-80戦車と、2個中隊相当の自動車化狙撃兵からなる混成機械化大隊である。ソ連軍の任務は4つある勝利条件ヘクスの過半数(3個を守り切ることである)。攻撃側たるNATO軍は、右翼に機械化歩兵、左翼に戦車を配して接近する。まずは右翼から機械化歩兵が接近してきてソ連軍を挑発するが、ソ連軍は応じない。狙いはあくまでも英重戦車1本。チャレンジャーを撃破して英軍の打撃力を殺げば、元々機械化歩兵が非力な英軍は撤退せざるを得ないはずだ。物陰に隠れて近づいてくるチャレンジャー戦車を狙撃する機会を待つ。
第4Turn。英戦車が遂に物陰から姿を現した。万を持して待機していたT-80戦車の125mm滑腔砲が火を噴いた。BMP-2からは対戦車ミサイル"AT-4 スピゴット"が飛び出していく。さらに歩兵部隊は"AT-5 スパンドレル"対戦車ミサイルを発射して追い打ちをかける。3個小隊あったチャレンジャー重戦車は十字砲火を浴びて忽ち保有戦車の半数を失った。いかなNATO軍とはいっても、十字砲火に身を晒すのは流石にリスクがやや大きすぎたか・・・・。
さらに追い打ちをかけるかのように空からは爆弾を満載したSu-25フロッグフットが飛来する。F-15の迎撃、さらにはレイピア地対空ミサイルの迎撃を掻い潜った戦闘爆撃機がチャレンジャー戦車の小隊を攻撃。1個小隊を完全に撃破した。この結果、英重戦車中隊は瞬時に壊滅。突破力を失った英軍は、この時点で作戦遂行を諦めて投了する。
感想
3シナリオを立て続けにプレイしたが、ここまでの所要時間は約6時間であった。1シナリオあたりのプレイ時間は約2時間。実質的には2時間弱でプレイできるだろう。もう少し大きなシナリオでも4時間もあれば終わるのではないだろうか。システムはシンプルでわかりやすい。チット引きと移動、射撃の組み合わせで、そこに突撃戦闘が加わる。基本はそれだけなのだが、他に間接射撃、毒ガス攻撃、攻撃ヘリコプター、航空支援など一通りルールが揃っている。登場する国籍も米、ソ、西独、英、仏と言った主要国以外に、オランダ、スウェーデンといった諸国もユニット化されている。簡単なルールながらユニットの特徴も上手くデータ化されており、先に述べたブラッドレー歩兵戦闘車の有効性やチャレンジャー戦車の頑丈さ等も無理なく表現されている。ちなみにエイブラムスは、火力、装甲ともチャレンジャーよりも見劣りする。
簡単なルールで複雑な現在戦を上手く再現した秀作だ。次はもう少し大規模なシナリオに挑戦してみたい。
P.S. 本作の姉妹編でWW2を扱った"Nations at War"も興味がある。