興味深い史料を見つけました。
タイトルは「BATTLE EXPERIENCE - BATTLE FOR LEYTE GULF」。訳すると「レイテ湾海戦における戦闘経験」とでもなるのでしょうか?。レイテ戦における米軍の戦訓をまとめた資料だと解釈できるように思います。日付は1945年4月1日ですから、レイテ海戦から半年以内にまとめた資料ということになるのでしょう。そういった意味からは極めて史料性の高い内容だと理解することができます。
過去のバックナンバー
米海軍の公式レポートに見るレイテ沖海戦(1)
米海軍の公式レポートに見るレイテ沖海戦(2)
米海軍の公式レポートに見るレイテ沖海戦(3)
米海軍の公式レポートに見るレイテ沖海戦(4)
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米海軍の公式レポートに見るレイテ沖海戦(8)
10年近く前の記事の続編です。今回は戦闘機誘導についてです。
<空母ホーネット>
1.CICにおいて、戦闘機方向誘導は、艦と火器管制に必要な情報の流れに対する深刻な妨げとなった。プロット要員は戦闘機の誘導と、さらに増え続ける通信業務によって忙殺されている。さらに夜間においてVFN(夜間艦上戦闘機)の価値に疑問がある時に、戦闘機誘導に夢中になって艦と火器管制に必要な情報を食い潰すことは深刻な問題である。とりわけ敵機が低空から接近してきてレーダースクリーン上に殆ど弱々しい表示しか出さない場合は尚更である。
2.10月13日夜間における我が部隊に対する低空からの攻撃では、CICとレーダーが明確な警告を希望するVFNの誘導に夢中になって。目標が距離12マイル以下になるまで探知されなかった。
3.この問題は、特に戦闘機誘導に特化するように指定された空母において顕著であった。解決するためには、艦と火器管制に使用する2つめのCICとその目的に特化した1乃至2の対空捜索レーダーと、1つの対水上レーダーの装備が必要である。
<CTG 38.1>2.10月13日夜間における我が部隊に対する低空からの攻撃では、CICとレーダーが明確な警告を希望するVFNの誘導に夢中になって。目標が距離12マイル以下になるまで探知されなかった。
3.この問題は、特に戦闘機誘導に特化するように指定された空母において顕著であった。解決するためには、艦と火器管制に使用する2つめのCICとその目的に特化した1乃至2の対空捜索レーダーと、1つの対水上レーダーの装備が必要である。
10月2日から29日までの作戦行動期間において、敵は彼らの本国近くで戦い、かねてから予想されていたことではあるが、数ケ月前に比べるとより巧妙で残忍にかつ決定的に戦った。その結果、戦闘機誘導は広範囲に渡る艦隊防衛と敵偵察機の排除に忙殺された。我々は昼間においては状況を掌握していたものの、夕暮から夜明までや極めて視程が短い場合は多くの戦闘機を敵の攻撃部隊に差し向けることができないために比較的脆弱である。
と書かれた後、1944年10月2日~29日の要約として以下の事例が示されています。以下はその抜粋です。 昼間戦闘では、9回の攻撃と13機の単独機を要撃した。9回の攻撃に対しては、1機の彗星艦爆を除く全機を撃墜又は撃退した。13機の単独機についても7機をCAP機が撃墜し、3機を他の戦闘機や対空砲火で撃墜した。残り3機は天候又は技術上の問題によって取り逃がしたと考えられる。トータルでは推定132機の攻撃を受け、撃墜確実80機、不確実11機であった。
夜間戦闘では5回の攻撃と19機の単独機を要撃した。そのうち夜間戦闘機が1機を撃墜し、他数機を他部隊の戦闘機乃至は対空砲火で撃墜した。

10月15日は高度3000~10000ftに雲量7の雲があるという攻撃側にとって理想的な環境で、総計7回の攻撃が仕掛けられた。(中略)低空から侵入してきた雷撃機の1隊は20マイルまで迎撃されず、他の1隊は35マイルで、残りは50マイル又はそれ以遠で迎撃を受けた。戦闘機の迎撃を受けた攻撃隊は分散させられ追い散らされたが、天候の影響により壊滅する攻撃隊は稀だった。(後略)
この襲撃で敵は捜索レーダ、ウィドウ(今で言うチャフ)を伴う良く計画され調整された攻撃を繰り返した。「Raid 7」(第7襲撃)の襲撃図を以下に示す。

「Raid 7」では敵の欺瞞行動に対して十分な数の戦闘機で対応できた。しかし敵は数多くの猟犬に追われる狐の立場にあり、もし我々に1~2個の戦闘機グループしか利用できなかった場合、敵の攻撃隊が迎撃を受けずに目標に接近することは十分に有り得ることである。
ここで強調されているのは、日本軍の攻撃が巧妙化してきていること。また巧妙化した攻撃に数的な優勢が加わることでCAP網が突破される危険を示唆しています。そしてその事は後の沖縄戦において、部分的にですが顕在化することになります。
レーダーの信頼性は不十分で発展する余地が大きい。とりわけ複数目標追跡とプロットへの完全なレーダー映像表示という面では尚更である。
戦闘機誘導については多くの面で通信は十分な信頼性を有しているとは言えない。夜間においては通信は一般的に不十分である。(中略)通信規範の重要性は強調し過ぎることはない。(中略)大規模な航空作戦において増大し続ける通信要請に対して十分な通信機材が供給されていない。通信機材の供給が滞り、さらに熟練した通信要員が不足すると、通信システムの崩壊とそれに伴う戦闘機による迎撃失敗という事態にも発展しかねない。それは多くの艦船の損失を引き起こすであろう。たとえ通信規範が確立された所で、1000もの通信ステーションが1つの回線に接続されているのなら、それは単に多くの混乱を引き起こす結果になることは明らかだ。
IFFの不満足な動作が戦闘機による防衛に悪影響を与えている。要員教育と航空機及び艦船に搭載された機材のチェックによって友軍未確認機に対する意味のない追跡を防止するだろう
と書かれた後、上司らしい人のコメント
いくつかの部隊で機材の不調を報告し、その原因追究とより信頼性の高い機材への更新を要求している。重量と安定性の関係から機材の更新が必要な場合もあるが、もし新しい機材がより重たい場合はいくつかの機材を取り外す必要もある。通信チャンネルの増加、良好なレーダー、良好なIFFは目下研究中である。「我々は彼らの訓練のために専門家を使っているのだろうか(ARE WE USING TECHNICIANS FOR WHAT THEY ARE TRAINED?)」
さらにCTG38.1のコメントを続けます。
敵側によるVHF妨害及び10月22日におけるIFFモード1(あるいはモード2又は3)の明らかな実施は注目に値する。(後略)
IFFについては、空母を護衛していた重巡Wichitaが面白いレポートを残しています。
<CTU 38.4.2>
以下に述べるWitchitaの報告は一般に同意できるものである。Franklin、BellowWoodに対する最初の攻撃は明らかに警告されていたにも関わらず多くの面で奇襲的要素を含むものだった。未確認機が西方で探知されたのは約35マイルの距離で、攻撃の15分前であった。直ちにCAP機が迎撃機向かったが、その後しばらくしてSKレーダーが「マージプロット」(merged plot)を起こし、敵機を見失ってしまう。原因としては、敵機がSKレーダーの「不感知領域」に入ったためなのか、あるいはCAP機と混合してしまったためなのか、は明らかではない。多くの場合、Franklin、BellowWoodを攻撃した敵機に対して射撃できたのは、Witchitaと駆逐艦1隻だけだった。他の護衛艦艇も射撃可能な位置にいたにもかかわらずだ。Witchitaのが射撃した目標は目視確認によって発見されたものだったが、太陽を利用して接近する敵機を目視発見するのは困難だった。
この事件は敵機がCAP圏内に侵入したことが明らかな状況下における最大限の警戒の必要性を明らかにした。経験によれば、敵機が友軍機に接近した時、機材の限界からIFFを全面的に信頼する事はできない。(中略)
見張と操作要員による最大限の警戒と迅速な敵味方識別は対空防御成功の鍵となる。失敗経験や数多くの指示にも関わらず、レーダーやCAPに対する殆ど盲目的な信仰と呼べるものが明らかに存在している。過去におけるいくつかの事例が示す所に依れば、例え両者がしばしば驚嘆すべき成果を示したとしても、これらは決して信仰の対象ではない。
これら一連のコメントを読んで感じることは、日本側から見て「無敵」に近い存在と思われた米空母群の防空網について、米側の方ではかなり問題意識を抱いていた事。特に通信機材については課題が多い事。また夜間や悪天候時の戦闘機指揮に課題を感じていた事等が伺えます。またウィドウや電子妨害といった電子戦に関して、初歩的なレベルながらも日本側に実施の形跡があり、その事を米軍側も着目していたことは注目に値するでしょう。
被爆して炎上する軽空母「プリンストン」。「プリンストン」の被爆と損失は、米機動部隊の防空網が必ずしも完璧なものではないことを示していた。
他にも78-65のUSS Fanshaw Bayの事例や78-66のUSS Suwanneeの事例も紹介したかったのですが、紙面の関係上省略します。
(おわり)