陸軍人事
藤井非三四 光人社文庫
米海軍のニミッツ大将は真珠湾攻撃当時は一介の少将に過ぎなかった。それがルーズベルト大統領の意向を受けて太平洋艦隊司令長官に就任すると中将を飛び越えて大将へ昇進。まさに「職務に階級が付いてくる」好例である。翻って我が帝国陸軍の人事はどうだっただろうか。戦時においても「階級に職務が付いてくる」という状況。前線で活躍した人材を生かせず(山下奉文)、あたら有為な人材を使い捨てにし(栗林忠道)、何度も失敗し人間性に問題ありと言わしめた人材が何故か栄達する(辻政信)という状況で、人事面ではお世辞にも上手くいっているとは言えない。本書ではそのような帝国陸軍の人事における問題点を鋭く問うた著作である。
本書を読むと帝国陸軍というテーマを扱いながらも、その実態が我々が普段関係している様々な組織の課題とダブって見えてくる。人事とは本来は組織の効率的な運用を進めるための施策であり、そこに私情の入り込む余地はない。しかし実際には私情によって人事施策が行われている事例は多くあり、そのことが如何に組織の効率的な活動を妨げていることか・・・。「あいつは頑張っているから俺が引き立ててやる」的な人事によって無能な者が責任ある地位に就いたとき、その下で働く者こそ哀れである。
本書は帝国陸軍の人事問題を扱いながらも、極めて現代的な問題を扱った好著である。
お奨め度★★★★