戦史叢書-比島捷号陸軍航空作戦
防衛庁防衛研修所戦史室著 朝雲新聞社
レイテ沖海戦を扱った著作は多いが、本書はレイテ作戦及びフィリピン戦全体の中でも陸軍航空に的を絞って書かれた著作である。レイテ作戦での航空戦といえば、敷島隊に代表される特攻攻撃、軽空母「プリンストン」を撃沈した彗星艦爆の活躍等、海軍機の活躍が知られているが、海軍機と同じく陸軍航空隊もレイテやその他フィリピン海域で激しく戦ったことは余り知られなていない。同方面での陸軍航空の主力となったのは第4航空軍で、指揮官は富永恭二中将。彼は上級司令部の許可を得ずして台湾へ無断で撤退し、後に問題を引き起こした張本人だが、本書ではその辺りの経緯も含めて淡淡とした筆致で描かれている。しかし本書を読むと、富永がレイテ決戦という重要局面において、航空戦力を率いて戦うには不向きな指揮官であったことが伺える。
本書を読むと、レイテ決戦における陸軍航空戦闘の実態がつかめる。しかし、なぜレイテでかくも一方的に負けたのかについては、本書を読んで益々わからなくなってくる。なるほど量的な面では米が有利であった。また空母部隊を掩護が得られ、かつ決戦場の至近距離に航空基地を有する点でも米軍が有利であった。しかし我が方も月平均で数百機レベルの増援を得ていた。レイテ戦以降のフィリピン戦で陸軍は2000機以上を失ったが、逆の言い方をすれば、少なくとも2000機前後の増援部隊が送られていたといって良い。そして増援機の殆どが戦闘その他で失われている。対する米軍機の損害は不明だが、100機前後と推測される。「疾風」「飛龍」等の期待の新鋭機を揃えながらもこの惨敗は、航空機材の質、後方支援能力の違い等に加えて、どうしても戦闘指揮の良否にも原因の一端があるように思えてならない。
いずれにしても本書を読めば、所謂「レイテ決戦」における陸軍航空の惨敗について、詳細を知ることができる。
お奨め度★★★★