戦史叢書-沖縄方面海軍作戦
朝雲新聞社
沖縄作戦は、太平洋戦争における最大の海空戦であった。片や米軍は史上最強の空母機動部隊を揃えて沖縄に侵攻し、片や日本軍も質こそ十分ではなかったものの開戦以来最大の航空兵力を本作戦に投入している。最終的に日本軍はこの戦いに敗れたが、米軍もまた多大な損害を被り、米軍にとって来るべき日本本土決戦が過酷なものになりことを予想させた。本書は、この沖縄海空戦を、主として日本海軍の立場から詳述したものである。先にも書いたとおり沖縄戦は余りに大規模な戦いであったため、その詳細を完全に追うことは難しいが、本書は戦死した特攻隊員1名1名の氏名を含めて可能な限り詳細にこの戦いを調査している。そう言った点からは、本書は沖縄海空戦についての研究書として無視できないものと言えよう。
本書を読むと、単に戦果・損害の大小だけではなく、何故沖縄戦に日本軍が敗れたかについても考察させている点興味深い。無論、煎じてしまえば詰まる所「物量の差」となるのだが、それでも菊水1号作戦の段階では「後ひと押し」の感は感じていた。それは例によって過大な戦果報告によってもたらされた間違った期待であったが、それでも従来の戦いとは違って米軍もそれなりに苦戦していた。ギルバート侵攻からレイテ沖海戦まで殆ど無傷に近い状態であった米機動部隊が、沖縄戦では日本の特攻機によって次々と正規空母撃破の損害を出している。空母以外の艦艇についても数百隻という単位で損傷艦を出しており、日本側の「後ひと押し」が必ずしも一方的な思い込みではなかったことが伺える。
日本の敗因は2つあり、1つは沖縄本島の飛行場を早い段階で米軍によって制圧されてしまったこと。そのために敵空母を沖縄近海に拘束できなくなっただけではなく、日本側の攻撃機が米陸上戦闘機の妨害を受けることを意味していた。もう1点は補充が続かなかったこと。元より特攻機主体の攻撃なので必然的に航空機及び搭乗員が消耗して行くが、当時の日本にはそれを補充すべき国力がなかったことにある。そもそも国力が米国に及ばないから始めた筈の特攻作戦だが、実の所特攻作戦が消耗を前提とした作戦であり、国力の乏しい日本にとっては必ずしも適切な作戦ではなかったことが伺える。
こうしてみると、沖縄戦の敗因は単に国力の違いという点に帰するべき問題ではなく、陸海統合作戦のあり方、特攻という異常手段でしか戦争を継続出来なかった日本海軍航空隊の航空行政の甘さ等にも言及すべきであろう。
あと沖縄戦といえば避けて通れないのが特攻隊の道義的意義についてだが、本書では特攻の事実を淡々と述べているが、その実施方法(志願だったのか、強制だったのか等)や道義的意義についてはややぼかした書き方をしている。本書が旧軍人による著作である以上仕方がない面もあるが、片手落ちの感は否めない。
最後に些細な点だが、特攻機の搭載爆弾が次々と大型化されている事情が伺える。レイテ戦では250kg爆弾が標準だったが、沖縄戦では零戦ですら500kg爆弾を搭載することが珍しくなくなり、彗星艦爆の最終型である彗星43型では800kg爆弾の搭載が標準となった。米軍機に比べると爆弾搭載量で劣ると言われる日本機だが、沖縄戦ではそのような中で搭載爆弾大型化へ努力している様が伺える。
お奨め度★★★★