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British Aircraft Carrier - Desgin, Development and Service Histories

David Hobbs Seaforth

タイトル通り英国の空母について設計、発展及び戦暦を紹介した著作である。[@@ 前回読んだヒッパー級重巡]が期待外れであったのと比較すると、こちらは期待を裏切らない素晴らしい内容であった。
まず本書の優れている点は、英文が平易で読みやすいことにある。難解な言い回しや難しい単語が殆ど使われておらず、我々のような「英語アレルギー」を持つ異国人でも比較的素直に読むことができた。
また内容的にも非常に興味深い。英国空母といえば、我が国では比較的低く見られがちだが、本書を読めばそのような偏見は払しょくされるはずだ。日本が「鳳翔」を就役させる遥か以前、具体的には第1次世界大戦の頃から英国の母艦航空部隊(その大半は水上機母艦だが)は整備され、そして実戦で活躍してきたのだ。世界初の本格的空母と呼ばれる「アーガス」の就役は1918年で、「鳳翔」が就役する4年も前のことだ。
第2次世界大戦中の英空母は、主に艦載機の性能不足に祟られて米日空母艦隊の後塵を拝する結果になったが、それでも戦争後半は米国製掩英機や米国製護衛空母の大量投入によって持ち直し、戦争末期には米国に次いで世界第2位の空母機動部隊を有するに至った。
戦後もアングルドデッキやミラーランディングシステム等の革新的なアイデアで空母の発展に貢献した英国空母だが、米国のミッドウェー級に相当するマルタ級やより大型のCVA-01級を主に財政的な制約により完成させることができなかった。そのため戦後の英空母群は、コロッサス級以下戦時設計の軽空母(約1.5万トン)と戦後完成のオーディシャス級大型空母(約4.5万トン)、そして戦前型空母を大幅改良した正規空母「ヴィクトリアス」によって構成されることになる。それでも複数の空母を運用できる国は、米国を除けば多くはなく、英国海軍は事実上世界第2位の位置を戦後長らく続けることになる。本書ではそれらの経緯も詳しく述べられている。
1978年のオーディシャス級空母「アークロイヤル」の退役によって英国の通常型空母は一旦その歴史を閉じたが、新たな武器、VSTOL戦闘機「シーハリアー」を得た彼らは不死鳥の如く蘇る。そして「シーハリアー」搭載する軽空母「インヴィンシブル」はフォークランド紛争を戦い抜き、さらに同型艦3隻は冷戦時代末期及びポスト冷戦時代の英国海軍の中核として活躍することになる。彼女らの活躍は現在残る様々なウォーゲームで検証することができるが、本書でもフォークランドや湾岸戦争、コソボ紛争でのインヴィンシブル級軽空母の活躍を回顧できる。そして本書はインヴィンシブル級亡きあと、新造空母「クィーンエリザベス」の就役遅れに触れ、空母を持たない現状における英海軍の姿を著した所で幕を閉じている。
先にも書いたとおり本書は比較的平易な英文で書かれているが、とにかくボリュームが多い。よほど英語の流し読みに慣れた御仁なら兎に角、普通に読めば10時間以上はかかるぐらい濃密な内容になっている。無論、それだけ内容が豊富ということなので、英国空母に興味がある向きには、是非読んでいただきたい作品だ。