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このブログで何度か紹介している現在戦車戦ゲームMBT(以下、本作)は、1980年代後半における戦術レベルでの陸上戦闘を再現するシミュレーション・ゲームだ。1Hex=100m、1ユニット=1両、1機、1分隊/班のスケールで1987年西ドイツにおける東西両陣営の通常戦闘を再現する。

この度、本作について複数のプレイヤ―が参加する多人数プレイの機会を得たのでその記録を紹介する。


シナリオ3:The Gap

イメージ 5SPI社のセントラルフロントシリーズをご存知だろうか。その第1作「Fifth Corps」の舞台となったフルダギャップ。このシナリオはそのフルダギャップにおける米ソ両軍の激突を扱ったシナリオである。米軍の登場兵力は第11機甲騎兵連隊に所属する騎兵中隊で、M1IPエイブラムス5両、M3A1ブラッドレー5両と、その支援部隊からなる。M1IPとは、M1エイブラムスの装甲強化版で、主砲は105mmライフル砲のままだが、装甲厚は後のM1A1並に強化されている。その分機動力はオリジナルよりもやや劣る。

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イメージ 6対するソ連軍は第79親衛戦車師団に所属する半個大隊程度の兵力で、戦車中隊、自動車化歩兵中隊各1個を主力としている。兵力は、T-80BV戦車13両、BMP-2歩兵戦闘車9両、BTR-70兵員輸送車3両、その乗車歩兵、そして支援部隊である。
兵力を見ればソ連軍が優勢だが、米軍は性能に勝っているのに加え、クルーの練度がベテラン扱いであり、その点でソ連軍に勝っている。とはいえ、兵力の劣勢を覆す程ではないので、そこは勝利条件でバランスを取ってあり、米軍はソ連軍ユニットによる突破阻止によってVPが得られるようになっている。
米ソ両陣営を2名ずつで担当し、下名はソ連軍の戦車中隊を担当した。
ルールは上級ルールに加えて以下の選択ルールを採用した。

7.8 Turrets
7.9 Smoke Dischargers
7.22 Infantry Smoke
7.29 Bogging Down



最初にソ連軍は戦車1個中隊計13両と、支援射撃を担当する自走砲1個小隊3両を盤内に進入させる。オーバーワッチ命令を受けて待ち構えていたM1IPエイブラムスは距離1000~2000mの距離から臨機射撃を実施。瞬く間に2両のT-80BVが撃破され、さらに1両のT-80BVが後に続く。戦闘開始後僅かな間に3両もの戦車を失ったソ連軍だった。

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ソ連軍にとって不利なミドルレンジを抜けて、何とか山裾の死角に戦車中隊が潜り込んだことで、一旦危機を脱した。またその間、山頂部でハルダウン姿勢を取っているエイブラムスに対し、ソ連軍自走砲3門が決死の直接射撃を実施。GP弾による射撃だったので戦車自体に被害はなかったが、衝撃によってエイブラムス1両を制圧状態にしたのは大きかった。

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制圧状態のペナルティは結構大きく、射撃の効果は事実上半減(又はそれ以下)、移動力も半減する。制圧状態からの回復には最低でも2Turnを必要とし、しかもその回復は自動ではない。
このプレイの後で考えたのだが、例えば相手がM1エイブラムスのような重装甲車両の場合、徹甲弾による有効打が期待できない場合はGP射撃による制圧を狙うのも手かもしれない。特に今回登場した2S1自走砲等は、GP火力値が大きいので、この種の制圧射撃には有益である。

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山裾の死角を取ったソ連軍戦車は、山裾を伝って敵の背後に回り込む。その間、後続の自動車化歩兵部隊も戦場に到着。エイブラムスの射撃を掻い潜って山裾に取り付く。

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イメージ 8山裾に取り付いたソ連軍は、自動車化歩兵が下車戦闘を開始。戦車部隊も山に向かって進撃する。ミドルレンジではエイブラムスに歯が立たないソ連軍戦車であったが、接近戦なら勝機はある。迎撃の為に進撃してきたエイブラムスに対して100mの至近距離からT-80BVが臨機射撃を実施。車体直撃を受けたエイブラムスは損傷する。後退を図るその敵戦車を4両のT-80BVが追撃。集中砲火によってこれを仕留めた。

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他のT-80BV小隊は、味方歩兵と共に山頂で制圧状態にあったエイブラムスに接近。エイブラムスは後退を図るも、間に合わずにT-80BV 4両からの集中攻撃を受けて撃破される。さらに別のT-80BVは森の中に潜んでいたM3A1ブラッドレーに接近。ブラッドレーから発射された対戦車ミサイルが2両のT-80BVに命中したものの、いずれも爆発反応装甲が正常に作動して(作動率70%)HEAT弾のメタルジェットを無力化し、車体への損傷を阻止した。そのブラッドレーは射撃後後退を図るも、接近してきたT-80BVによる主砲射撃と、ソ連歩兵部隊が放ったRPG-22対戦車ロケットの集中射撃を受けて爆発炎上する。

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その後の戦闘も含めて米軍は3両のエイブラムスと2両のブラッドレーを失い、事実上兵力の半数を失った。劣勢を悟った米軍プレイヤーが投了したのでゲーム終了となった。

感想

プレイ時間はシナリオ毎に異なるものの、3シナリオ全部での所要時間は8~9時間程度であった。ただしいずれのシナリオもフルターンプレイしていないので、フルターンプレイすれば、1日コースになるだろう。

システム的には、一見するとルールが多いのだが、基本システムがシンプルなので手順を理解すれば比較的すんなりプレイできる。命令発行、主導権判定、戦闘、移動という手順を繰り返すだけで、各ユニットができることも限られているので、それほど悩まずにプレイできる。システムを理解している人が1人いれば、他が初心者でも十分プレイ可能なレベルと思われる。

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射撃や近接突撃を実施する前に目標を発見する必要があるというルールがあるのだが、これが非常に上手く機能している。おかげで移動中に見つけた敵に対して片っ端からオーバーランを繰り返すという戦術が取れなくなっているので、同時進行性が高まっている。

イメージ 9戦車戦ゲームでありながら、歩兵や砲兵の重要性がさり気なく表現されている点も評価したい。対戦車戦闘では無敵の強さを誇るM1エイブラムスであっても、歩兵の近接突撃に対しては思いのほか脆い。また盤外砲兵による砲撃は、運に左右されることが大きいものの、上手く行けば複数のスタックに対して打撃を与えられる。それを警戒して戦車部隊が散開戦闘を強いられる等、歩戦砲の諸兵科連合効果が巧みに表現されている点もにくい。

また現代戦ゲームでは往々にして西側兵器の性能優越が効きすぎて「ゲームにならない」あるいは「ゲームとして面白くない」といった問題がある。その点本作はシミュレーションとしての精確さやディテールへのこだわりを感じさせるシステムながらも、ゲームとしての面白さも等閑視していない点が良い。現代戦の戦術級ゲームをプレイしていて、これほど面白いと感じたゲームは他にはなかった。無論空戦ゲームは別であるのだが・・・・。

とまあ褒める点は褒めてみたが、無論弱点もある。
一番気になる点は主導権ダイスの影響が大きすぎることだ。主導権を取った側が先に射撃できるので、至近距離で対峙した場合等は主導権ダイスによって有利・不利がかなり左右されてしまう。これに対する決定的な対策は難しいのだが、例えば地形を利用して布陣する等の対策を立てることで、ある程度はその影響を緩和できる。

あとコンポーネントにも工夫が欲しかった所がいくつかあり、特に地形効果表は凡例と諸元表が別々になっているので、どのマークがどの地形に該当しその効果がどの程度か、といった所が一目で把握できない点は頂けない。この点についてはGMT社に改善を望みたい所だ。

ともあれMBTは現在戦車戦という難しいテーマに挑戦した話題作であり、またプレイする価値のある作品なので、強くお奨めしたい作品の1つだ。

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MBT: The Game of tank-to-tank combat in 1987 Germany MBT-FRG MBT-BAOR JグランドEX世界の戦車全戦力ガイド

MBT: The Game of tank-to-tank combat in 1987 Germany
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