台湾沖航空戦
神野正美 光人社
このブログを読んでいる人には改めて説明する必要もないと思うが、台湾沖航空戦といえば1944年10月に南西諸島、台湾、フィリピン近海を舞台に繰り広げられた日本陸海軍基地航空部隊と米空母機動部隊との航空戦闘である。この戦いで日本側は「空母19隻その他撃沈破」をいう途方もない大戦果を報じたが、実際の戦果は巡洋艦2隻撃破その他のみ。戦時期における日本軍のデタラメ戦果、デタラメ報告を象徴する事例となった。さらにこの架空の大戦果が後の日本側の作戦指導の齟齬を生み、悲惨なレイテ戦へとつながっていく。そういった意味では、この戦いの「架空の大戦果」は戦争指導上も極めて有害な結果を残したと言える。そのような極めて問題の多い台湾沖航空戦だが、本書ではそのような戦略レベルの問題点については殆ど触れられていない。それよりもこの戦いに参加したT攻撃部隊、陸海軍雷撃部隊の戦いそのものに焦点を当てている。本書では、台湾沖航空戦に参加した陸海軍航空部隊の編制から訓練、主要人物について触れ、運命の台湾沖航空戦に移っていく。本書の前半半分は訓練と人物紹介、後半は台湾沖航空戦での戦いを扱っており、後半部分では日本側の資料だけではなく、米側の資料にも触れている。
本書は冒頭に紹介した誤報問題について殆ど触れていないが、その代わりに台湾沖航空戦に参加した日本側搭乗員の素顔についてはかなりページ数を割いている。特に戦記としては珍しく搭乗員達と勤労女学生との淡い恋物語にも触れられており、そういった点からは興味深い。
とはいえ、誤報問題を等閑視している(としか思えない)書き方にはやや疑問を感じる。台湾沖航空戦というタイトルを掲げている以上、誤報問題についてはもう少し突っ込んだ記述が欲しかったというのが個人的な感想だ。
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