Wild Blue Yonder(以下、本作)は、1939~44年の欧州戦線における空中戦を戦術レベルで描いたシミュレーションゲームで、2017年に米GMT社から出版された。基本システムは、以前同社から発表された"Zero!"(2001年)とほぼ同一である。Zero!をご存じない方のためにシステムを簡単に説明すると、本作は通常の空戦ゲームのようにマップを使うゲームではなく、機体カードとアクションカードでゲームを進める。アクションカードには機動や射撃といった行動が書かれており、カードを使って敵機の背後を取ったり、射撃を実施したりする。機体の性能差は手元に保持できるカード枚数と補充できるカード枚数によって表現され、前者が機動性、後者がエンジンパワーに相当する。他に対地爆撃、対空戦闘、クルー、キャンペーンなどのルールがある。システムの基本概念はシンプルなのだが扱っている範囲が広いのでルール量は結構多い。
本作がZero!と異なる点はコンポーネントが全体的に豪華になっていること。新たなルール、カードが加わっていること。新機種、新航空機が加わっていること等である。
今回、この新作空戦ゲームをプレイすることにした。
ペデスタル作戦
1942年8月に行われたマルタ島への輸送作戦である。14隻の輸送船と、それを守る空母4隻、戦艦2隻等の英艦隊。それに対するイタリア水上部隊、独伊の航空部隊、潜水艦部隊、そしてイタリア魚雷艇部隊との戦いであった。史実では半数以上の輸送船を失った英軍であったが、マルタ島への輸送作戦を辛くも成功させている。このシナリオでは英輸送船団の1隻1隻が船名入で表現されている。航空攻撃によってそれぞれの輸送船が被った損害が記録され、許容度を上回る損害を被った船は沈没する。また沈没はしないまでも一定以上の損害を被ると落後し、落後船として扱われる。シナリオは8月11日から13日までの3日間の航空戦を再現し、枢軸軍による船団攻撃とそれを防ぐ英戦闘機の戦いを描く。下名は枢軸軍を担当した。
初日は8月11日。この日は序の口で攻撃は1回だけ。爆装したJu88A 4機による攻撃である。1機のJu88Aが損傷したものの生還。3機の爆撃機はMissed Targetによって目標発見に失敗した。
2日目は本格的な航空戦の始まりである。サルディニアとシシリーを発進した枢軸軍攻撃機が英船団を襲う。サルディニアを発進したSM-79による攻撃に始まり、Ju88A、Ju87D、SM-84、He111H等が次々と英船団を襲う。英空母のマートレット、フルマー、シーハリケーン等が迎撃に発進。枢軸軍を迎え撃つが、より性能に優れたBf109Fとの交戦で大損害を被ってしまう。輸送船団の方も、世界最大のタンカー「オハイオ」がJu88Aの集中攻撃を受けて沈没。他に大型輸送船「ブリスベーン・スター」等4隻が沈没して2隻が大中破。さらに夜半にはイタリア魚雷艇の攻撃で輸送船3隻が沈没してしまう。この段階で14隻中8隻が沈没して2隻が大中破。英軍に勝ち目はないかと思われていたが・・・。



3日目はマルタ島の制空権に入るので、英側の迎撃戦闘機はマルタ島からのスピットファイアMk.Vとボーファイターになる。しかも何故かこの日は攻撃隊の規模が小さくなり、小規模編隊で攻撃を実施する枢軸軍爆撃隊は、英戦闘機の迎撃によりまるで七面鳥撃ちのように落とされてしまう。しかもこの途中で前日までの戦闘で対空砲火適用に関するルールミスが発覚。かなり影響度の大きいミスであったため、両陣営とも戦意喪失。3日目の半ばでゲーム終了となった。ちなみにこの段階で勝利レベルは連合軍の「卓越した」勝利。史実よりも連合軍にとって一段階有利で、7段階の勝利レベルのうち、連合軍にとっては上から2番目のレベルであった。もう少し続けていれば「史実並み」(引き分け)又はそれよりも有利な条件に持って行ける可能性もあったが、続ける気力をなくしたこちらの負けである。
感想
ルールミスの件はとにかく、輸送船に対する攻撃をもう少しバラしても良かった。特に「オハイオ」に対する攻撃は明らかに過剰集中で、1隻づつ狙っていればあと1~2隻撃沈破できた可能性は高い。勝利条件を考えれば必ずしも完全撃沈を狙う必要はなく、沈没寸前まで追い込めばそれで良かったのだから。逆に連合軍側はBf109F相手にマトモに挑んだのは失敗で、Bf109Fはやり過ごし、その他のイタリア戦闘機や裸の爆撃機を狙うのが正解だったように思う。
第8航空軍の受難
「ペデスタル作戦」シナリオがやや中途半端に終わったので、引き続いて別のシナリオをプレイする。選んだのは「第8航空軍1943」。1943年に行われた米第8航空軍によるドイツ本土昼間爆撃を再現するキャンペーンシナリオである。このシナリオの特徴は両軍とも戦闘機の在空時間制限が課せられていること。特に足の短いスピットファイアは爆撃航程の前半しか護衛できない。さらに言えば、6回のミッションのうち前半3ミッションは、連合軍の護衛戦闘機はスピットファイアしか登場しないのだ。私は枢軸軍を担当する。第1回目のミッションはエムデンへの爆撃。スピットファイアMkIX 2機に護衛されたB-17F 3機による攻撃と、それを迎え撃つFw190A-4、Bf109G-4 各2機との戦いである。戦闘機同士の戦いではスピットファイアがFw190A-4に勝利し、1機のフォッケが失われた。しかしスピットファイアが燃料切れで離脱した後は、裸のB-17FをBf109G-4が一方的に攻撃し、対空砲火による戦果と相まって3機のB-17Fが全て撃墜されてしまう。エムデンの被害は軽微。最初の交戦は枢軸軍の圧勝であった。

第2回目のミッションは、サン・ナゼールの潜水艦基地。ここでもB-17F 3機とスピットファイア2機に対するドイツ戦闘機4機による迎撃であった。ここでも先ほどと似たような展開になり、B-17は2機を失い、サン・ナゼールの被害は軽微である。
第3回目のミッションを選んだ時点で連合軍側が士気喪失。この時点でキャンペーンを終了とした。第3波の迎撃には空対空ロケットを搭載したBf110G-2とかMe410等を用意していただけに、やや残念な所であった。
感想
連合軍護衛戦闘機が手薄であり、連合軍側に勝ち目が薄いのではないかと思った。初心者にドイツ軍を持たせてインストに用いるのが良い方法だとも思ったが、シナリオ自体がやや「重い」ので、初心者には荷が重そうだ。全般的な感想
この後、4人でドッグファイトをプレイした。枢軸軍がFw190A、Bf109F-4、連合軍がLa5FN、P-38Jという組み合わせ。結果はFw190A、La5FN、P-38J各1機が失われ、枢軸軍が勝利した。感想だが、まず気になった点から。ペデスタル作戦シナリオの一部のリソースについて、説明が欠落しているように思う。具体的には連合軍側の"Cork"、"Beurling"についてだ。
また機体カードについてやや曖昧な点がある。第8空軍シナリオでドイツ軍の戦闘機にBf109G-4が登場するが、Bf109G-4を表す機体カードが2種類ある。一方が"Bf109G -1 to -6/10/14 Gustav"と書かれてあり、もう一方には"Bf109G -2,-4 to -6/R2 Aufklarung"と書かれている。前者(Gustav)の方が後者(Aufklarung)よりも微妙に性能が良いので、私はGustavを使用したが、果たしてこれで良かったのか・・・。それ以外にも細かい機体別の性能差が別カードで表現されているが、このスケール/レベル/システムでこれほど細かい機種区分が必要かと思うこともある。その割にP-51DやMe262のような有名な機体がスポイルされているというのも解せないし・・・。むしろ以前にGMT社から出ていた"C3i DiF Squadron Pack"の方が価値が高いと思った。
また機体カードについてやや曖昧な点がある。第8空軍シナリオでドイツ軍の戦闘機にBf109G-4が登場するが、Bf109G-4を表す機体カードが2種類ある。一方が"Bf109G -1 to -6/10/14 Gustav"と書かれてあり、もう一方には"Bf109G -2,-4 to -6/R2 Aufklarung"と書かれている。前者(Gustav)の方が後者(Aufklarung)よりも微妙に性能が良いので、私はGustavを使用したが、果たしてこれで良かったのか・・・。それ以外にも細かい機体別の性能差が別カードで表現されているが、このスケール/レベル/システムでこれほど細かい機種区分が必要かと思うこともある。その割にP-51DやMe262のような有名な機体がスポイルされているというのも解せないし・・・。むしろ以前にGMT社から出ていた"C3i DiF Squadron Pack"の方が価値が高いと思った。

アクションカードについては、"Zero!"とは内容の一部が変わっている。数的な裏付けがあるわけではないが、攻撃系カードの割合が増えてより派手な展開になったように思えた。特に"1 Burst"の射撃カードが増えたようで、ケツを取らなくても射撃する機会が増えたように思えた。
全てのシナリオを精査した訳ではないのだが、キャンペーンシナリオは全般に「重い」。シナリオとしてはむしろ"Corsairs & Hellcats"("Zero!"の続編で1943~45年の太平洋戦線がテーマ)のキャンペーンの方が手軽で良かったようにも思った。ただし本作で追加されたカードやルールには興味深い点もあるので、"Corsairs & Hellcats"のシナリオを"Wild Blue Yonder"のアクションカードやルールでプレイするのが面白いように思った。
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