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単独行者

谷甲州 山と渓谷社

作家谷甲州といえば、我々の世界では航空宇宙軍史シリーズに代表されるSF作品や覇者の戦歴シリーズといった架空戦記が有名である。しかしこんな本格的な山岳小節を書けるとは、私にとっては予想外の喜びであった。
本書は単独登山の先駆者として名高い登山家加藤文太郎の登山人生を描いた作品である。加藤文太郎氏の作品といえば、新田次郎氏の「孤高の人」が有名だが、「孤高の人」があくまでも加藤文太郎を主人公とした小説の体を成しているのに対し、本書はかなり史実を意識したつくりになっている。とはいえ、加藤氏に関する記録は限られた登山記録しかなく、それ以外の心理描写や登山以外の私生活については筆者なりの解釈が入ってくる。そういった意味では本書も完全に史実をなぞった人物伝ではないのだが。
本書の魅力は多彩な登山シーンで、特に冬山登山の描き方は秀逸である。これは筆者が実際に冬山登山を経験し、冬山登山の何たるかを知っていることが大きいと考える。
私はこの作品を旅行中の空き時間に読んだが、「孤高の人」を読んだ人に対しても読まなかった人に対しても、万人にお奨めできる作品といえる。