単独行
加藤文太郎 山と渓谷社
加藤文太郎は、日本の登山界で傑出した業績を残しながらも、30歳の若さで槍ヶ岳北鎌で命を落とした登山家である。「単独行」はそんな加藤が残した記録集だ。とはいっても加藤自身は自らを市井の1登山家に過ぎないと考えており、自らが日本の登山界に大きな足跡を残すことなどは考えてもいなかったと思われる。「単独行」は、加藤の死後、加藤の業績を惜しんだ周囲の人々が加藤の残した文書記録を整理して発行した書籍である。「単独行」を読むと、加藤文太郎という人物が決して人並外れた超人でも変人でもなく、ごく普通の青年であったことがわかる。彼は数多くの登山をこなしながらも、その頭の中にあったのは「明日汽車に乗らないと会社に間に合わない」とか「スキーや岩登りが下手なのでパートナーの足を引っ張っていないか」等という現在の我々と同じような悩みなのである。彼は限られた休暇を最大限に利用し、その中で登山を楽しんでいた登山者に過ぎない。確かに彼の業績は常人には及びもつかない偉大なものであったかもしれない。しかしそんな彼自身は我々と同じようなレベルの悩みやメンタリティを持ったごく普通の青年であった。そんなことが本書「単独行」を読むと感じることができる。
加藤文太郎という人物について、その生身の姿を知ることができる著作である。
リンク