NATO(以下、本作)は1983年に米国Voctory Games社から出版されたシミュレーションゲームだ。テーマは1980年代後半を想定したNATO(北大西洋条約機構)とWP(ワルシャワ条約機構)との欧州大陸における地上戦闘である。フルマップ1枚には東西ドイツとデンマーク、そしてオランダ、ベルギー、フランス、チェコ、ポーランドの一部が描かれている。1ユニットは連隊~師団で、基本的なユニット規模は師団である。海上部隊は登場せず、航空部隊は航空ポイントによって抽象化された形で登場する。
今回、一番バランスが良好と思われる「戦術奇襲」シナリオをソロプレイしてみた。
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第4Turn(X+4Day)
ウェーゼル川に到達したWP軍は、NATOの防衛ラインに対して総攻撃を仕掛けてきた。化学兵器を全面的に駆使してくるWP軍に対して、NATO軍は苦戦を強いられる。それでも要所を押さえたNATO軍は、圧倒的なWP軍攻撃を受けても引き下がらない。このTurnからNATO軍に攻勢支援マーカーが到着する。米第7軍団が攻勢支援マーカーを受けてフルダギャップ南部を守るチェコ軍機械化師団を攻撃する。10-1の包囲攻撃でチェコ軍2個師団が壊滅。NATO軍は最初の反撃を成功させた。しかし鉄道を使って全線へ移動中の英軍空挺部隊は、WPの航空攻撃を受けて悉く壊滅した。
第5Turn(X+6Day)
WP軍はウェーゼル川の南北から攻勢を仕掛けてきた。北からは第3打撃軍所属の4個機械化師団がウェーゼル川河口付近を守るNATO多国籍空挺部隊を攻撃。南からはフルダ峡谷を突破してきた第8親衛軍の5個機械化師団が西ドイツ軍2個師団が守るオスナブリュック付近を攻撃する。この攻撃が両方とも成功すれば、ウェーゼル川西岸を守るイギリス、ベルギー、オランダの連合軍が左右から包囲される危険にさらされることになる。この攻撃を成功させたいWP軍は、攻勢支援と化学兵器を総動員して遮二無二突破を狙ってきた。WP軍の攻撃によって両翼のNATO軍部隊は大損害を被り、後退を余儀なくされる。そして北海付近で遂にWP軍はウェーゼル川を渡った。ウェーゼル川から西の地区は、オランダ国境に至るまで平野部が広がり、守りに適した地形はない。
デンマーク方面ではユトランド半島を北進するWP軍第2親衛戦車軍の5個機械化師団がボロボロになりながらも西ドイツ軍の装甲師団を撃破して北上していった。デンマーク解放の日は近い。
NATO軍はWP第8親衛軍を攻撃したかったが、比率が立たない(最大で4-1)ので攻撃は諦める。またウェーザー川のラインは一旦放棄したものの、その背後に防衛ラインを再構築してWP軍を迎え撃つ。
このTurnからフランス軍が展開可能となったため、戦線南部の守備はフランス軍に託した。
このTurnからフランス軍が展開可能となったため、戦線南部の守備はフランス軍に託した。
第6Turn(X+8Day)
ウェーゼル川を渡河したWP軍は、オルデンブルク(2524)で西ドイツ軍の消耗した4個師団を包囲した。四方からWP軍による猛攻撃が実施され3個師団は壊滅したが、残り1個師団がオルデンブルクを守りきる。フルダ峡谷北部では、米軍4個機械化師団を動員した反撃が開始された。第5軍団司令部指揮の下で実施された攻勢作戦により、WP第8親衛軍の3個機械化師団が壊滅し、同軍は攻勢継続能力を失った。
このTurnの終了時にデンマークが降伏した。
第7Turn(X+10Day)
ウェーゼル川を渡河したWP軍は北ドイツ平原を突進する。第3打撃軍、第20親衛軍、第1親衛戦車軍が攻勢支援を受けて高比率攻撃を4箇所で実施。北ドイツ平原を守るNATO軍はほぼ一掃され、戦線はオランダ国境まで後退していった。デンマークでは、NATO守備隊を一掃したWP軍第2親衛戦車軍が、ユトランド半島から南下する姿勢を見せている。
NATO軍は北部戦線をオランダ領内まで後退。戦線中部ではオズナブルック(3122)付近で米第5軍団が6個師団を持って反撃に転じた。しかしダイス目振るわず、自軍の損害と同程度の戦果を挙げたに過ぎない。
第8Turn(X+12Day)
最終Turnである。WP軍は少しでもVPを稼いでおこうと北はオランダのフローニンゲン(2626)、中央ではオズナブルック(3122)、そして南方ではフランクフルト(4220)に対して攻勢を仕掛けてきた。各司令部に攻勢支援を与えたWP軍であったが、ここに至ってようやくNATO空軍が威力を発揮し、WP軍の司令部を悉く制圧した。WP軍は化学兵器を投入して強引に突破を図ってきたが、NATO軍も損害を度外視して都市を死守してきたため、WPの前進はなかった。感想
結果的には引き分けであったが、これは8Turnシナリオだったからだ。もし長期戦シナリオ(15Turnシナリオ)なら、NATOは恐らく戦線を支えきれなかっただろう。その結果、彼らは戦術核に頼るのか、あるいはあくまでも通常兵器で戦って華々しく散るのかは、神のみぞ知る。ルールは比較的簡単である。さすがに「ピーナッツとビールを片手に」プレイできるほどではないが、基本的には移動戦闘の繰り返し(オーバーランもない)なので、プレイ自体はサクサク進む。面倒なのは移動のタイプが色々あることと攻勢支援マーカーや化学兵器の扱いぐらいだが、これも慣れればたいしたことはない。
全般的なプレイの展開は、兵力に勝るWP側が化学兵器と攻勢支援マーカーを頼りにNATOの弱点部を攻撃することになる。NATO側は兵力が足りないので、消耗戦に持ち込まれたらかなり厳しい。地形を駆使し、攻勢支援マーカーを航空攻撃で制圧しつつ、可能な限り時間稼ぎをすることになるだろう。8Turnシナリオであれば、自軍の損害を度外視して土地を守ることも不可能ではない。ただし15Turnシナリオの場合、NATOがWP軍の攻勢を食い止めるのは相当至難の業だと思われる。
本作の出版された後、程なくして傑作として名高いGDW社の「The Third World War」(以下、TTWW)が出版された。本作とTTWWを比較すると、ユニットスケールは両方とも師団単位でほぼ同じだが、マップの広さが違っている。本作の方がヘクスの対向距離が小さいため(1Hex=15マイル(24km)、TTWWは45km)、師団の守備範囲が小さい。従ってTTWWよりも本作の方が守りにくい。また本作では抽象的に表現されている航空兵力が、TTWWでは機種名まで入ったユニットによって具体的に表現されている。そのあたりの「味付け」で、本作よりもTTWWの方が「受けた」ということは確かだろう。
兵器やメカの表現はウォーゲームにとって本質ではない。しかしながら兵器やメカの表現はウォーゲームにとって大きな魅力を秘めたアイテムであることは間違いない。そういった点が本作よりもTTWWの方が一般的に高い評価を受けた理由かもしれない。