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サピエンス全史(上下)

ユヴァル・ノア・ハラリ/柴田裕之訳 河出書房

書店に行けば山積みになっているベストセラー本なので既に読んだ人も多いと思う。本書は一言で言えば人類史の著作だが、単純な歴史書とは全く異なる。本書では、人類(サピエンス)が他の生物に比べてどのような特徴があり、なぜ世界を支配することができたか。人類の歴史を形作っていたものは一体何だったのか。そういった観点に対して独特の史観を示してくれる。
筆者は言う。なぜ人類(サピエンス)が世界の覇者たり得たのか。なぜネアンデルタール人ではなくサピエンスが支配者となったのか。その理由は「想像力」にあると筆者は言う。想像力とは架空の物語だ。例えば神の存在である。神はサピエンス達による想像の産物だが、サピエンスが共通の神話を共有できたからこそサピエンスは協力できた。協力できたから協力できない他の動物を圧倒できたのだ。神が本当にいるかいないかの問題ではない。神がいて世界の秩序が築かれていると「多くの人が信じる」からこそ、サピエンスは他の動物を圧倒できたのだ。筆者はこれを「認知革命」と呼ぶ。
神というと我々にはうさん臭く感じるが、神という言葉を自由、平等、人権等に変えてみると良い。自由も平等も人権も想像上の産物だ。例えば「死」は現実だが、「自由」は概念であって現実ではない。にも関わらず我々は自由、平等、人権を至高のものと考え、時には自らの死をも厭わずにこれらを守ろうとする。これこそ現在と宗教だとする筆者の主張は鋭い。
認知革命を成し遂げた人類は、次に統一に向かう。その際に力を発揮したのが、宗教、貨幣、そして帝国である。宗教は言わずもがなで、サピエンスに共通の指針を与えた。また貨幣は見知らぬ人同士が互いに協力できる基盤となった。そして帝国は人類統一のために必要な力の源泉になった。その結果、今や世界は1つになり、全ての人類が共通の価値観の下で生きていくことになる。
最後は科学革命である。科学革命は、「我々は何も知らない」という無知の自覚が出発点となった。これまで人類は神や賢人が「すべてを知っている」という前提に立っており、無知であることを自覚しなかった。「私はなぜ雨が降るか知らないが、あの人に聞けばわかるだろう」が人類共通の認識だったのだ。科学革命はそのような意識を変えた。
「我々は何も知らない」
「だから我々は進歩できる」
これによってはじめて人類は進歩を手に入れた。これまで人類は「過去の方が良かった」「今は暗黒の時代」と考えていた。しかし科学革命は人類にとって「未来は現在よりもより良いもの」という希望を与えた。そしてそれに拍車をかけたのが資本主義と帝国主義で、ここで初めて「投資」と「配当」という概念が生まれる。そして核兵器の発明は人類を破滅の淵に追い込む一方で人類に対してこれまでにない平和な時代をもたらした。
それでは人類による世界の支配は果たして良いことばかりかというと、筆者は必ずしもそうは考えていない。農業革命や科学革命は人類の幸福に必ずしも寄与しなかったし、人類以外の動植物にとっては猶更だ。
最後に筆者は未来の人類像に触れている。未来の姿はSF作品に描かれているような「我々と同じような思考をする人々が光速宇宙船やレーザーガンで武装した世界ではないかもしれない」と筆者は言う。このあたり本書の最後で面白い所なので、是非読んでみて頂きたい。23世紀初頭の地球にはアナライザーはいる可能性が高いが、ひょっとしたら古代進も森雪もいないかもしれない。

お奨め度★★★★★

サピエンス全史(上下)