GMT「Panzer」(以下、本作)は、WW2東部戦線における戦車同士の戦闘を扱った戦術級ゲームである。スケールは1ユニット=戦闘車両1両、1Hex=100m、1Turn=15秒~15分である。時間スケールにかなり幅があるのが特徴である。
テーマはWW2東部戦線と書いたが、基本セットでは1943~44年の東部戦線に焦点を絞ったつくりになっている。戦車戦的には両軍の新型戦車が登場してくる「美味しい」時期を扱っている。また拡張キットには、1942年や45年の東部戦線、1944~45年の西部戦線を扱った作品も存在している。
今回、本作を久しぶりにプレイしてみた。いずれも基本セットのシナリオである。
シナリオ1.The Crossings: Ukraine, late 1943
1943年後半における独ソ戦車隊同士の典型的な遭遇戦である。戦場の中央付近に小川が流れており、その橋梁と浅瀬の確保が両軍の目的になるが、結局は戦車戦での勝敗がシナリオ自体の勝敗を決すると言っても良い。そういった意味で橋梁や浅瀬は「両軍を戦わせるための餌」といっても過言ではないだろう。登場兵力はソ連軍はT-34/76 M43が10両。ドイツ軍は4号戦車G型が11両である。ドイツ軍の方が1両多いが、戦車の性能や練度で極端な差がないので、両軍の間にゲームバランス上の有利不利は殆どない。
CMJ「Tanks」では、ドイツ製戦車とソ連製戦車の間で命中率(特に中距離以上)に極端な差を設定することで両者の質的な差異を際立たせようとしている。その点、本作ではそのような意図はあまり見られず、純粋にハードウェアの違いだけを評価しているように思える。どちらが正しいのか(あるいはどちらが好ましいのか)は人それぞれ評価が分かれると思うが、同じ戦車戦でもデザイナーによって視点が異なってくるのは興味深い。

まず火力だが、4号G型が装備する75mmL43は、T-34/76が装備する76.2mmL43と比較して射程距離と貫通力の両面で優越している。しかし装甲防御ではT-34/76の方が4号G型を凌駕しているので、4号戦車の火力面での優越はある程度相殺されている。具体的に言えば、4号G型はT-34の正面装甲を1200m(12Hex)以内で貫通可能だが、T-34/76は4号G型の正面装甲を1000~1700m以内で貫通可能(車体の方が砲塔よりも装甲が強い)である。実際の戦闘局面では、両者の装甲が敵の射弾に耐えうる可能性は余り高くない。そういった意味では射程距離に優れ、命中率でやや優越しているドイツ軍戦車が心持ち有利かもしれない。
一方の機動力では逆にT-34/76が有利で、クロスカントリーでの移動力が4対5である。
総合的には火力で4号戦車、防御力と機動力でT-34/76が有利という結果になり、総合的に両者は殆ど同等と評価できる。
本シナリオはほぼ同兵力の独ソ両軍が歩兵や砲兵を含まない純粋に戦車同士で撃ち合う内容である。そういった意味では本作のシステムと戦車戦の基本を学習する上では好適なシナリオと言える。実際の展開を見ても、制高点の制圧、兵力の集中、敵の側面への攻撃といった戦車戦の基本戦術を使いこなした側が有利に戦える。とはいえ戦車戦なので運の介在する要素も多く、戦術面での優越が必ずしも結果に結びつかない所がある。そのような場合「それが戦車戦」だと思って楽しめるかどうかが、本作を楽しめるか否かの岐路になると思われる。
このシナリオは計2回プレイし、お互いにルールを理解できた時点で次のシナリオに進んだ。
シナリオ2.The Village: Poland, late 1944
1944年後半における独ソ戦車同士の戦いである。シナリオ1と似ているが、時期が違うため両軍の戦車がバージョンアップしている。ドイツ軍の兵力は5号戦車「パンター」が6両、4号戦車H型が5両、3号突撃砲が1両の計12両。ソ連軍は85mm砲装備の新型T-34/85M44が10両、SU-85自走砲が2両、SU-100自走砲が1両の計13両である。シナリオ1と同様、兵力的には両者に殆ど差はない。
両軍戦車の比較に移る。ソ連軍の主力はT-34/85である。まず「軍馬」4号戦車H型との比較である。機動力ではT-34/85が圧倒的に有利。4号H型は機動力の面では最低クラスである。4号H型の75mmL48では、T-34/85の正面装甲を距離700~1300m以内で貫通可能。T-34/85の85mmL55は、1300~2100m以内で4号H型の正面装甲を貫通できる。4号H型は、G型に比べると装甲・火力共に強化されているが、それでも新型のT-34/85に比べると劣勢は否めない。


このシナリオは、様々な特性を持つ独ソ両軍の戦闘車両が登場する。戦車同士の遭遇戦なのでシナリオ1で述べた戦車戦の基本をマスターしておくのが望ましいが、それに加えて彼我の戦車の特性(パンターは正面を向けていれば中距離からのソ連戦車からの射撃に対してほぼ安全とか、SU-100が一番脅威になるとか)を理解しながら戦う必要がある。
このシナリオは2回プレイし、最初はソ連軍のSU-100が威力を発揮してパンターを次々と撃破。2回目は逆にドイツ軍が序盤でSU-100を潰した後、パンターの性能優位を利用してソ連軍を一方的に撃破していった。
シナリオ9.Hube's Pocket: Ukraine, April 1944

例によって登場戦車を見てみよう。ソ連軍はT-34/85M44が10両、SU-85自走砲が3両の計13両。ドイツ軍は4号戦車H型9両、6号戦車「ティーガー」2両、3号突撃砲2両の計13両である。これらの車両は先のシナリオ2で登場したものが殆どで、大物はティーガー重戦車である。

本シナリオは1回プレイした。本シナリオでドイツ軍を担当した筆者は、ティーガーの意外な脆さに愕然としながらも、高地効果を利用してソ連軍に対応。ソ連軍戦車の一部がドイツ歩兵と遊んでいる間を利用して兵力の優越を確保。「量で質を補う」作戦で優位に立ったドイツ軍が何とか勝利を掴んだ。
感想
戦車戦ゲームの常だが、戦闘結果がブラッディである。本作のように主導権によって射撃順が決まるゲーム(戦車戦ゲームではよくあるシステムだ)では、主導権ダイスの結果によってゲームの流れがかなり左右される。とはいえ「主導権ダイスが良ければ常に勝てる」という訳ではなく、結局は戦車運用に長けた側が有利に進めることになる。結局の所、
「Panzerは戦車好きのためのゲームである」
「Panzerは上級者向きゲームである」
「Panzerはプレイヤーを選ぶゲームである」
といった感想につきる。








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