(写真)米軽巡「コロンビア」。スリガオ海峡海戦では大いに活躍した。
興味深い史料を見つけました。
タイトルは「BATTLE EXPERIENCE - BATTLE FOR LEYTE GULF」。訳すると「レイテ湾海戦における戦闘経験」とでもなるのでしょうか?。レイテ戦における米軍の戦訓をまとめた資料だと解釈できるように思います。日付は1945年4月1日ですから、レイテ海戦から半年以内にまとめた資料ということになるのでしょう。そういった意味からは極めて史料性の高い内容だと理解することができます。
前回は、米軍の砲撃用弾薬に関する戦訓を追ってみました。今回はもう少し射撃技術に近い話を追ってみましょう。
前回は、米軍の砲撃用弾薬に関する戦訓を追ってみました。今回はもう少し射撃技術に近い話を追ってみましょう。
タイトルは「Gunnery」(砲術)。砲撃技術そのものを扱った部分です。
第13巡洋艦戦隊(CruDiv13)のコメントを紹介しましょう。この部隊は10月25日の海戦の際に軽巡2隻(「サンタフェ」「モービル」)で追撃戦を実施し、追撃途中に日本軽空母「千代田」と駆逐艦「初月」を他艦と共同で撃沈しています。
1.弾薬の効果は結果より明らかである。その空母は多数の全力一斉射撃を浴びせられ、重大かつ急激な損害を被った。斉射散布界のいくつかは過度に大きいことが観測された。
2.我々の火器と装備の性能は満足できるものであった。しかし適度な距離において敵巡洋艦に速やかに打撃を与えなかったことは失望的であった。その目標は極めて狡賢い運動を行い、砲弾回避(salvo chasing)を行なって完全レーダー管制射撃を不満足なものにした。
2.我々の火器と装備の性能は満足できるものであった。しかし適度な距離において敵巡洋艦に速やかに打撃を与えなかったことは失望的であった。その目標は極めて狡賢い運動を行い、砲弾回避(salvo chasing)を行なって完全レーダー管制射撃を不満足なものにした。
同部隊に所属する軽巡「モービル」(USS Mobile)は、以下のようなコメントを残しています。
長距離で複数の命中弾が目標上で観測された。しかしこれらの命中弾は目標の運動性能、速度、火力に殆ど影響なかた。顕著な結果は距離が10000yard以下になるまで認められなかった。戦闘終了間際になって距離が10000yardから7500yardに近づいたとき、敵は未だに6分間ほど運動性能を持続し、いくつかの砲火を返し、今までの速度を維持した。沈没前に8インチ、6インチ及び5インチ砲弾によって文字通り切り刻まれた。
これらのコメントから、米軍の散布界が一部において過大であったこと、長距離射撃では日本艦の回避運動に阻まれて有効打を与えられなかったこと、等が読み取れます。ちなみにこの時「狡賢い」運動を行ったのは、大型駆逐艦「初月」だと思われます。
次に第14巡洋艦戦隊(CruDiv14)のコメントを紹介します。第14巡洋艦戦隊は米第7艦隊に所属し、スリガオ海峡で日本艦隊と交戦した部隊です。その編成恐らく2隻の軽巡(「コロンビア」「デンバー」)とその他数隻だと思います。
1.この件に関しては駆逐隊指揮官のコメントが興味深い。「砲列から十分に離れた位置から巡洋艦の射撃を観測できることは第56駆逐隊指揮官の特権であった。この射撃における破壊的な正確さは私が今まで見てきた景色の中で最も美しい光景であった。夜空に弧を描く曳光弾は、丘の上を走る列車のようであった。次に私は3隻の敵艦が次々と破壊されるのを目撃した。(中略) このような射撃は、確かに我が海軍の優れた射撃管制設備と要員の技量を証明するものであった」
2.(略)
3.観測された結果とそれらの結果が比較的少量の弾薬と魚雷で達成されたことを考慮する時、我々の射撃が極めて効果的であったことは疑問の余地がない。
2.(略)
3.観測された結果とそれらの結果が比較的少量の弾薬と魚雷で達成されたことを考慮する時、我々の射撃が極めて効果的であったことは疑問の余地がない。
スリガオ海峡における砲撃についてのコメントです。彼らが彼ら自身の射撃について「極めて効果的である」と評価しています。それでも砲撃で全ての日本艦を沈められなかったという事実は、その砲撃の有効性に些かの疑問を投げかけます。
最初に米護衛駆逐艦「レイモンド」(USS Raymond)のコメントを紹介します。この艦はサマール島沖で日本艦隊と戦い、日本重巡「鳥海」に数発の命中弾を与えました。
1.小型の測距儀(range finder)は取り外されるべきである。そして主砲用方位盤(Mk.51)をこの場所におき、よりよい視界を確保すべきである。
2.(略)
3.空母と共に作戦行動を行うすべての艦は、速やかに主砲用のMk.52方位盤を供給されるべきである。
2.(略)
3.空母と共に作戦行動を行うすべての艦は、速やかに主砲用のMk.52方位盤を供給されるべきである。
ここで言うMk.51とは何でしょうか?。ちょっと調べてみると以下のようなページが見つかりました。
これはどうやら40mm機関砲用のGFCS(射撃指揮装置)のようです。「レイモンド」はこのMk.51を「主砲用射撃指揮装置」(main battery director)としていますが、近距離ならば5in砲の射撃指揮を実施できたのでしょうか?。その後もしきりに"main battery"という言葉を連発しているので、Mk.51にせよMk.52にせよ、「レイモンド」は主砲射撃用として使うつもりのようです。
Mk.51については、上記以外に以下のようなページもありました。
Mk.51については、上記以外に以下のようなページもありました。
最初に紹介したページがMk.51の機構そのものに焦点を当てた内容になっているのに対し、これはどちらかといえば「射撃指揮装置」全般についての記述が中心のようです。これも機会を見つけてじっくり読んでみたいと思います。
ところで「レイモンド」がMk.51の搭載を要求した理由は、対水上戦なのか対空戦なのかどちらなのでしょうね?。サマール沖で日本艦に追いかけ回された「レイモンド」だから対水上戦用という可能性もありますが、一方で僚艦が特攻機によって叩かれたのも目撃しています。Mk.51の性能から考えると対空戦闘が主目的のようにも思われますが、本当の目的は明確に特定できませんでした。
ところで「レイモンド」がMk.51の搭載を要求した理由は、対水上戦なのか対空戦なのかどちらなのでしょうね?。サマール沖で日本艦に追いかけ回された「レイモンド」だから対水上戦用という可能性もありますが、一方で僚艦が特攻機によって叩かれたのも目撃しています。Mk.51の性能から考えると対空戦闘が主目的のようにも思われますが、本当の目的は明確に特定できませんでした。
次に重巡「ミネアポリス」(USS Minneapolis)のコメントです。「ミネアポリス」はスリガオ海峡に参加し、日本艦隊に砲火を浴びせています。
1.射撃統制?(Fire discipline)と砲撃通信?(gunnery communications)は全期間を通して優秀であった。敵グループの先導艦は最初にSGレーダーによって捕捉され、追跡された。前部のMk.4は33,400yardから測距を開始した。Mk.3主砲用レーダーは32,200yardから測距を開始した。射撃開始は15,800yardからで、完全レーダー管制射撃、分割斉射(第1、第3が第2砲塔に先立って)、方位盤1が方位角?(train)を制御し、方位盤3が仰角と射撃を制御した。砲塔の仰角は「300yardロッキングラダー方式」(300-yard rocking ladder)で自動制御された。この目標(戦艦)は他の戦艦及び巡洋艦によって連続的な砲火にさらされていたので、レーダーによる距離計測は実行できなくなった。目標上に火災が発生してからは方位精度は正確になり、距離誤差も小さくなった。237発が距離15,850yardから13,600yardの間にて発射された。その砲撃目標はやがてレーダースクリーンから消失した。
2.2番目の目標(艦首のない駆逐艦)に対しては、部分的なレーダー管制(partial radar control)による射撃を行なった。距離14,600yardから14,750yardの間で54発が発射された。
3.3番目の目標は、20ktで後退中の艦首不詳目標である。この目標に対しては距離22,250tardで部分的なレーダー管制射撃(partial radar control)による射撃を行なった。距離22,250yardで9発が発射された。
2.2番目の目標(艦首のない駆逐艦)に対しては、部分的なレーダー管制(partial radar control)による射撃を行なった。距離14,600yardから14,750yardの間で54発が発射された。
3.3番目の目標は、20ktで後退中の艦首不詳目標である。この目標に対しては距離22,250tardで部分的なレーダー管制射撃(partial radar control)による射撃を行なった。距離22,250yardで9発が発射された。
米艦隊の砲撃実態を示す貴重な史料です。一部に砲術専門用語が使われているので(300-yard rocking ladderって何?)、大意を掴むのに少し苦労しました。
レーダーを使った観測について、私は以前に「Mk.8を使えばレーダーによる弾着観測が可能である」と主張したことがあります。その主張は今でも間違っていないと確信していますが、旧式のMk.3の場合はそう簡単にはいかなかったみたいですね。
レーダーを使った観測について、私は以前に「Mk.8を使えばレーダーによる弾着観測が可能である」と主張したことがあります。その主張は今でも間違っていないと確信していますが、旧式のMk.3の場合はそう簡単にはいかなかったみたいですね。
以下のコメントはTG 77.2が提出したものです。非常に興味深いことが書かれています。
1.大きな部隊がT字体勢でより小さな部隊と相対する際、射撃配分の問題は難しい。3隻以上の艦船が同一目標を射撃した場合、弾着観測の困難さはレーダーを使った場合でも顕在化する。
2.レーダーを用いた火力配分についてはかつて何度も議論され、そのことは太平洋艦隊巡洋艦司令部(Commander Cruisers, Pacific Fleet)でも取り上げられたが、明確な結論には到達しなかった。
3.レーダーによる弾着観測は、昼間に無着色砲弾を使った場合に良く似た制約に支配される。それによると、3隻以上の艦船が昼間に無着色砲弾で同一目標を射撃した場合は、射撃の過度な集中が射撃の効果を徐々に減少させる。
4.今回の戦闘はレーダー観測についても同様になることを明瞭に示した。多数の艦船が、目標に対して水柱が集中したために弾着観測を実施できなかった、と報告している。彼らはそのジレンマを他の目標へ射撃をシフトすることによって解決した。
5.今回の戦闘における射撃配分は困難であった。なぜなら左翼の艦船がT字を描くとき、多かれ少なかれ共通の目標を射撃しているたためである。その一方で右翼の艦船は鮮明に目標を識別することができた。それゆえ火力配分は個々の指揮官や艦船に残され、概して比較的良く機能した。
6.大半の艦船は、先頭を走る2隻の大型艦=疑いもなく戦艦にそれぞれ独立して射撃を行なった。彼らはしばらくの間目標を追尾する機会を得た。そして彼らは合理的に目標へ接近してから砲火を開き、命中弾を得るべきであった。戦闘の初期段階で先導艦が破壊されたという事実は、この観測の正確性を示している。
7.大部隊におけるレーダーを用いた射撃配分は困難な課題であり、早急な注意が必要である。
2.レーダーを用いた火力配分についてはかつて何度も議論され、そのことは太平洋艦隊巡洋艦司令部(Commander Cruisers, Pacific Fleet)でも取り上げられたが、明確な結論には到達しなかった。
3.レーダーによる弾着観測は、昼間に無着色砲弾を使った場合に良く似た制約に支配される。それによると、3隻以上の艦船が昼間に無着色砲弾で同一目標を射撃した場合は、射撃の過度な集中が射撃の効果を徐々に減少させる。
4.今回の戦闘はレーダー観測についても同様になることを明瞭に示した。多数の艦船が、目標に対して水柱が集中したために弾着観測を実施できなかった、と報告している。彼らはそのジレンマを他の目標へ射撃をシフトすることによって解決した。
5.今回の戦闘における射撃配分は困難であった。なぜなら左翼の艦船がT字を描くとき、多かれ少なかれ共通の目標を射撃しているたためである。その一方で右翼の艦船は鮮明に目標を識別することができた。それゆえ火力配分は個々の指揮官や艦船に残され、概して比較的良く機能した。
6.大半の艦船は、先頭を走る2隻の大型艦=疑いもなく戦艦にそれぞれ独立して射撃を行なった。彼らはしばらくの間目標を追尾する機会を得た。そして彼らは合理的に目標へ接近してから砲火を開き、命中弾を得るべきであった。戦闘の初期段階で先導艦が破壊されたという事実は、この観測の正確性を示している。
7.大部隊におけるレーダーを用いた射撃配分は困難な課題であり、早急な注意が必要である。
レーダーを用いた弾着観測について、同一目標に複数艦の砲火が集中した場合、困難になるということを示唆しています。これはレーダー射撃が必ずしも「魔法の手段」ではないことを示していますが、その一方でレーダーによる弾着観測をかなりのレベルで実現していることも示しています。
次回は米国のレーダーについて触れます。