「翔ぶが如く」読み始めました
司馬遼太郎氏の長編小説「翔ぶが如く」を読み始めました。文庫本全10巻(約3000ページ)に及ぶ大作で、ようやく第2巻を終えた所です。主人公は西郷隆盛。彼が征韓論に敗れ、故郷に帰って私学校を創設し、やがて西南戦争に及び、最後は鹿児島の城山でその最期を迎えるまでを描いた長編小説です。登場人物は西郷隆盛、大久保利通、木戸孝允、伊藤博文、江藤新平、板垣退助、大隈重信、桐野利秋、西郷従道、谷干城、乃木希典、等等という錚々たる顔ぶれで、彼らが明治初期の日本を舞台に一大活劇を演じる訳です。
司馬遼太郎氏の小説の中では「坂の上の雲」に似たタイプだと言えます。特定の主人公を設定しながらもその人物だけに囚われず、当時活躍していた歴史上の人々を小説の舞台に登場させて氏独自の歴史観で描いていくという手法です。また小説と言いながらもある程度歴史的事実を踏まえた構成になっている点も「坂の上の雲」に似ています。
実は私がこの小説を読むのは今回で2度目です。だから細部は忘れていても大筋はかなり覚えているものです。しかし本書はそんなことは関係なしに楽しめました。今の所は征韓論を巡る政治的な駆け引きが主なテーマなのですが、司馬氏は言葉では表現し難い政治的哲学を実に巧みに表現します。政治をテーマにした小説で、これほど面白いものを私は未だに読んだことがありません。
少し苦言を呈すると、似たような話が何度も何度も繰り返し出てくる場面があります(例えば「頭が痛い時は桐野の話を聞け」とか「西郷が渡海部隊指揮官として推挙するのは、まず板垣退助、次に桐野利秋」等)。雑誌連載という関係なのかも知れませんが、やや興ざめしますね。まあ本書の面白さから比べれば、この程度の瑕は殆ど問題にならないのですけど・・・。
私の西郷隆盛感
私個人的には西郷隆盛タイプの人物をあまり好きではありません。何か「精神論」的な臭いを感じ、軽快さに欠けるような気がするのです。そういった意味からは西郷の取り巻き連中(桐野利秋、江藤新平等)にもあまり魅力を感じません。私的にはどちらかといえば西郷よりも(技術屋的雰囲気の強い)大山巌、バストーニュに包囲された第101空挺師団を思わせる谷干城、公廨ながらキナ臭さ満点の岩倉具視あたりに思い入れを感じてしまいます。西南戦争とウォーゲーム
本書の主要なテーマは言うまでもなく西南戦争ですが、ウォーゲームの世界で西南戦争をテーマにしたアイテムはあまり見かけませんね。かつて季刊時代のTacticsに「田原坂」という西南戦争をテーマにした戦術級?ゲームがついたことがありましたが、私の知る限りこれ以外に西南戦争をテーマにしたゲームを私は知りません。西南戦争でゲームをデザインする場合、戦術級、作戦級、戦略級というのが考えられますが、戦術級の場合「キャラクター性」という点でやや弱いので魅力には乏しく、作戦級の場合も史実における薩軍の作戦行動があまりに稚拙であったために「まともな」作戦級をデザインしても史実との乖離が気になってしまう展開になりそうにも思います。となると残るは戦略級ですね。これも単純に「明治政府vs薩軍」という図式でデザインしてしまうと、物量差がものを言うだけの一方的な展開になりそうなのでパス。それよりも西南戦争を明治時代初期における旧士族と新政府との激突として捉え、プレイヤーを新政府軍と西郷に代表される反政府勢力に設定します。新政府軍の目的は「富国強兵」。対する反政府勢力の目的は「新政府の軍事的打倒」とします。そのために両者は政論を戦わせ、世論を誘導し、軍事力を強化し、反乱の実施/鎮圧に努めます。この方式であれば様々なキャラクターをゲームに登場させることができるので、キャラゲーとしての魅力も期待できます。誰か作ってみませんか?。
評価★★★★