起床0400。今日は最終日である。休暇はあと2日残っているが、できれば最終日は自宅でノンビリしたい。そのためには今日は是が非でも山を降りておきたい。
今日のコースはかなり野心的である。双六岳を出発して稜線歩きで笠ヶ岳(2898m)山頂を制覇した後、笠新道を通って下山するというものである。標準コースタイムは11時間以上。朝6時に小屋を出発しても、新穂高温泉には夕方5時にようやく到着するというロングコースである。一昨年歩いた南アルプス登山の際にも最終日はかなり強行軍を強いられたが、今回はそれを上回る強行軍になりそうである。
朝食は弁当を頼んでおいたのでそれを食べて外に出る。山から見る日の出は美しい。テラスでご来光を見る。
出発は0515。稜線を歩いて笠ヶ岳を目指す。今日も良い天気になりそうだ、が、すぐ近くに見える槍ヶ岳に少しガスがかかっている。標高2588mの弓折岳に着いたのは0635。ここから小池新道への道が分かれている。小池新道は3日前に使ったコースだ。小池新道を使えば比較的楽に下山できるのだが、今回は笠ヶ岳制覇という目的があるので、そのまま稜線を進む。
弓折岳山頂から笠ヶ岳へ向かう登山路を見る
同じく弓折岳山頂から見る穂高連峰
弓折岳から先はかなり危ない稜線歩きになる。登山道の整備状況もあまり良くはなく、時折危なっかしいヤセ尾根を通過する。何度歩いてもヤセ尾根歩きは怖い。これも「慣れ」かなと思いつつ、場数を踏むしかないかとも思う。それでも今日のような晴天時はまだ良いが、悪天時に稜線歩きは危ない。
広い花畑のような秩父平に着いたのは0833。歩き始めてから約3時間が経過していた。ここまでは危なっかしい個所はあったものの、概ね標準コースタイム通りの時間配分でやってこれた。しかしここから先はそうは行かなくなる。
秩父平からは急な上り坂となる。花畑の間をS字状に歩いて稜線に出る。稜線からさらに高度を上げて行き、一番高い所が笠新道との分岐点になる。ここに荷物をデポし、笠ヶ岳山頂を目指す。笠ヶ岳までの標準コースタイムは70分。果たして・・・・。
秩父平からは急な上り坂となる。花畑の間をS字状に歩いて稜線に出る。稜線からさらに高度を上げて行き、一番高い所が笠新道との分岐点になる。ここに荷物をデポし、笠ヶ岳山頂を目指す。笠ヶ岳までの標準コースタイムは70分。果たして・・・・。
笠ヶ岳まではずーっと稜線歩きになる。その間アップダウンが何度かあり、いくつかの峰を越えなければならない。標準コースタイムは1時間少しになっているが、そんな楽な道だとは思えない。アップダウンを繰り返してようやく前方に笠ヶ岳の全貌が見えてきた。山頂部の右手に笠ヶ岳山荘が見える。標高差約200m。笠ヶ岳山頂に向けて最後の登りが始まる。
ガレ場の苦しいのぼりを約30分登り、ようやくの思いで笠ヶ岳山頂に取り付く。時刻は1140。山頂はガスがかかっていて、残念ながら眺望は効かなかった。
モタモタしている余裕はない。既に標準コースタイムから1時間近く遅れている。急いで山を降りる。帰りは元きたコースを戻ることになる。往路もアップダウンで苦しめられたが、復路もやはりアップダウンがある。しかも前方から来る登山者も多く、その度に待たなければならない。結局笠新道への分岐に戻ってきたのは1321。遅延は2時間近くに増大していた。
ここで荷物を整理し、笠新道へ向かう。笠新道はアルプス三大急登に数えられる登山道。ハシゴや鎖場が続く難路かと思っていたが、そういうものではなかった。危険度から言えば「一つ間違えれば一巻の終わり」というような個所なく、ただ急峻な登り道が続くだけである。そういった意味では先ほど感じたような緊張感はあまりない。ただダラダラ続く下り斜面を辛抱強く降りていくことになる。景観的には素晴しく、背後には笠ヶ岳周辺の山々、周囲には花畑が広がっている。時間があれば絶好の撮影ポイントとなるが、今回は時間がないのでノンビリ写真を撮っている暇はない。
標高2400mぐらいまで降りてきた所に杓子平と呼ばれる平地がある。一面が花畑になる絶好の休憩地だ。ここから先、笠新道は木々の中に入っていく。とにかく歩きにくい。巨石を敷き詰めたような場所が多く、浮石もあって神経を使う。しかも腹立たしいことに下り斜面と言いながらなかなか標高が下がらない。登山道が上がったり下がったりでなかなか素直な下り坂になってくれない。
悪路に苦労しながらようやく標高2000m地点まで降りてきた。その時の時刻は1600。既に笠新道に入ってから2時間以上が経過していた。しかも標高的にはようやく半分ぐらいである。しかしそこから先は比較的順調だった。眼下に左俣谷の流れが見え、その川音がだんだん近づいてくる。標高も1900、1800、1700、・・・・、と徐々に下がってくる。登山道は相変わらずの悪路だが、それでも確実に標高が下がってくるのは嬉しい。
笠新道の入口に降りてきたのは1723。辺りは既に薄暗くなってきた。あとは新穂高温泉まで平坦な道を降りていくだけである。危険や難路は去ったが、それでもゴールまではまだ歩かなければならない。4日間の山歩きによる影響は容赦なく体を襲う。足の裏が痛い。皮がめくれかかっている。後で見たら左右両足とも水泡が出来ていた。
歩くこと1時間でようやく新穂高温泉に降りてきた。時刻は1825。実に13時間以上に及ぶ山歩きは終わった。既に観光案内所は閉まっている。自販機でジュースをぐいっと一杯。ビールでないのが残念(この後車の運転があるので)だったが、まあそれはそれで仕方がない。
駐車場に戻り荷物を整理する。出発は1845。どこか温泉に行きたい。そう思っていくつか馴染みの温泉場所を探したが、いずれも入浴できなかった。もしその時手元にパソコンがあれば温泉を見つけることもできたかもしれないが、生憎今回はパソコンを持参していなかった。準備不足を後悔しても後の祭りである。結局温泉に入る事が出来たのは、翌日の朝になってからであった。
反省
下表が4日目の行程表である。秩父平までは概ね標準コースタイム通りであったが、その先はコースタイムから大きく外れてしまった。特に笠新道分岐と笠ヶ岳間の往復の際にロスタイムが大きい。これは稜線歩きの際に慎重になってしまい、予想以上に時間がかかってしまったことを示している。稜線歩きは「一つ間違えればあの世行き」という恐怖感があり、どうしても慎重になってしまう。特に北アルプスの山々は緊張を強いるヤセ尾根が多い。自動車の運転と同じで「慣れ」が全てといえばそれまで。特に一般登山ルートでザイルワークが必要になるほどの難路がある筈もないのだが、それでも左右に支えのないヤセ尾根は「綱渡り」に等しい緊張感を強いるもの。今回の登山でまだまだ修業が足りないな、と思わずにはいられなかった。つづく