昭和16年夏の敗戦
猪瀬直樹 中公文庫
太平洋開始前の昭和16年夏、この戦争で日本の敗北を予告していた者たちがいた。総力戦研究所の若手エリート達である。彼らの予測した戦争の流れは、原爆と真珠湾攻撃を除けばほぼ実際と同じだった。本書では総合戦研究所のシミュレーションを軸に戦争に至るまでの過程を描くノンフィクションである。
本書で一番興味深い部分はいわゆる「机上演習」の箇所である。これは従来の図上演習の延長線上にあるもので、図上演習が軍事面に限定した諸問題に限定しているのに対し、机上演習は軍事面だけではなく政治、経済、外交等も含めて総合的に実施するシミュレーションである。総合戦研究所で行われた机上演習の結果が、実際の戦争の流れに如何に酷似していたことは注目すべきであり、シミュレーションの持つ可能性の一端を示したといえよう。
本書は総合戦研究所について描いたほぼ唯一の作品であり、その点は評価したい。ただ肝心の総合戦研究所のシミュレーションについての記述がやや少なく(1/5以下)、その点がやや物足りない。もう少しシミュレーションの部分を詳しく描いて欲しかった。
お奨め度★★★