「ソロモン夜襲戦」は、私が自作した水上戦闘ゲームです。テーマは太平洋戦争における水上戦闘で、1ユニット=1艦、1Turn=5分、1Hex=1500mになります。
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移動ルール
移動ルールは、紙による速度決定と交互移動という比較的オーソドックスなルールを採用しています。毎ターンの速度決定が面倒と思われるかもしれませんが、本ゲームの場合、指揮ポイントの関係上頻繁な速度変更ができない仕組みになっているので、ルールから想像されるほど面倒ではありません。また、艦船の加速や減速範囲について無制限というのも本ゲームの特徴です。このルールは物理的にはやや違和感がありますが、実際のプレイでは違和感を感じることは少ないと思います。なぜなら指揮ポイントの制約により頻繁な加減速は自ずと制限されているからです。細かな加減速制限ルールはたしかに「より正確なシミュレーション」のためには有効かもしれません。しかし、艦隊規模の戦闘を再現する本ゲームでは、極端なリアリティの追求は不要だと考えます。ルール量増大というデメリットとリアリティの追求。この2つを秤にかけて、ここでは簡単なルールを優先しました。
移動を複数のインパルスに分けたのは、同時移動性を高めるためです。一部の水上戦ゲームが採用している隠密プロット方式よりもプレイアビリティが高く、また同時移動性の再現にも優れていると判断しました。 艦船の速度は最大でも6までとしています。速度6は実際の約30ノットに相当します。実艦のカタログスペックを見ると、最大速度が30ノットを越える艦船も数多く存在し、中には35ノットや40ノットといった高速を発揮する艦船もあります。しかし、実際の艦隊運動では、30ノットを越える速度を発揮する機会はあまり多くはありません。なぜなら極端な高速航行は自艦による射撃や雷撃の正確性を極端に損なうことになり、実際のところあまり実用的ではないのです。また、艦隊運動の見地からも極端な高速発揮は整然とした艦隊運動を著しく困難にします。さらに所謂「高速艦」の多くが巡洋艦以下の中小型艦であり、これらの艦船は風浪の影響により最大速力の発揮を容易に妨げられてしまうことにも留意する必要があります。これらの要因を考慮した上で、本ゲームでの最大速度は6以下にしたのです。
では35ノット、40ノットといった高速力が無意味なのか、というと、必ずしもそうではありません。損傷時の艦船の移動力を見て下さい。最大速度が同じ6の艦船であっても、小破時の速力を比較すれば、違いが見えてきます。例えば日本の「最上」型重巡は小破時の速度が6のままであり、一方、米英の巡洋艦の多くが小破時の最大速度が5以下になっています。つまりカタログ上での最大速度が大きい艦船は、損傷時においても最大速度の低下する割合が比較的小さいようになっているのです。
射撃戦ルール
従来の水上戦ゲームでは、射程距離や視界以外の要因によって射撃が制約を受けることは少なく、その結果「毎ターン全艦射撃」ということが当たり前のように行われていました。戦艦から駆逐艦まですべての全艦船が毎ターン毎ターン射撃解決のダイスを振る。そのことは、特に登場艦船数の多いシナリオでは、プレイアビリティを阻害する要因にもなっていました。ところで、実際の射撃戦、特にソロモン海における夜間戦闘について調べてみると、各艦の射撃時間が著しく短いことに気づきます。短い場合で数分、長くても十数分で射撃を終えているのです。本ゲームのスケールで言えば1~3ターン程度の連続射撃しか行っていないことになります。混乱を生じやすい夜間戦闘の場合、彼我の状況が不明のまま長時間の射撃を行うことは味方撃ちの危険があるなど得策ではありません。短時間の猛烈な射撃で敵に打撃を与え、いったん射撃を中止して状況を整理した上で事後の戦術を決定する。これがソロモン海における一般的な射撃戦の姿だったのです。
従来の水上戦ゲームでは、残念ながら上記のような射撃戦の実情についてほとんど考慮されていませんでした。ですから、如何に精緻な射撃戦ルールを持ったゲームでも、ゲームが再現する世界は実世界とはかけ離れたものになっていたのです。
本ゲームでは、指揮ポイントによって射撃回数を制限することにしました。両軍に与えられている指揮ポイントの量は決して十分ではなく、全艦が毎ターン全力射撃を行うことは不可能です。プレイヤーは十分とは言えない指揮ポイントの配分に留意しつつ、毎ターン最適な状況で射撃を行うように苦慮することになります。効果の乏しい射撃を行うことは指揮ポイントの無駄遣いでしかなく、結果的に無意味な射撃は抑制されます。それはシミュレーション性の向上とともに、プレイアビリティの向上にも寄与し、テンポの良いゲーム展開が期待できます。
次に、実際の射撃解決システムについてです。従来の水上戦ゲームの射撃解決システムは大きく分けて「比率方式」と「単発判定方式」に分類されます。前者は射撃艦船の射撃力と目標艦船の防御力を何らかの方法で比率化し、それに基づいて目標艦船への損害量を決定するというものです。サンセットゲームズの『聯合艦隊』、(株)国際通信社の『戦艦の戦い』等がこれに相当します。ゲームジャーナルの『幻のレイテ湾海戦』もやや趣向が異なりますが、類似の方式と言えるでしょう。後者は、実際に目標艦船に命中した砲弾の数を1発単位で判定し、それぞれ砲弾が与えた具体的な被害量を個別に判定するというものです。(株)国際通信社の『ロイヤルネービー』や『デストロイヤーキャプテン』、少し古いゲームですがツクダホビーの「グラフ・シュペー」等がこれに相当します。前者は比較的大きいスケールのゲーム、後者は精密なゲームが採用しているシステムと言えるでしょう。
本ゲームの場合は、「単発判定方式」に近い射撃解決手順を採用しています。比較的スケールの大きな本ゲームがなぜ「比率方式」ではなく「単発判定方式」を採用したのか。それは射撃戦の雰囲気を重視したからです。考えてみて下さい。射撃戦は本ゲームの山場です。それが1回のダイス判定だけで終わってしまうのはなんとも味気ないとは思いませんか?。
「夾叉したあー」
「何発当たったのか?」
「やった、3発命中!!」
「特殊損傷発生、げっ、機関室被弾、航行不能?」
という具合に、実際に何発の砲弾が命中したのか、1発1発の砲弾が具体的にどのような被害を目標艦船に与えたのか。このような再現はゲームの主題とするテーマから逸脱するものかもしれません。しかし、それでも私は1発単位に拘りたいと思っています。なぜな、それは「雰囲気を盛り上げる」という意味で重要であると考えるからです。そして、水上戦ゲームの魅力の1つである「個々の艦船のキャラクター性の再現」にも有益であると考えます。
実際にプレイしてみると、本ゲームの射撃解決システムは見た目の印象よりもプレイしやすいことに気づくと思います。よほどの近接戦闘ならともかく、中距離程度の射撃戦であれば、夾又判定で失敗するケースが多く、この場合ダイスひと振りで判定は終了します。また、夾又判定そのものは射撃艦船の火力を考慮する必要がなく、距離によって一意的に決まる成功値によって判定するだけなので、プレイアビリティは高いです。
無論、夾又に成功した場合は、それから後は数回のダイスチェックが待っています。しかし命中判定、損害判定共それぞれ1枚の表にまとめられ、必要以上に多種の図表を引っ張り回す必要はないし、また修正値等も最小限に留まっていて、必要以上にダイス目を足し算引き算する必要もありません。複数の命中弾が発生した場合でも、命中した個数分のダイス(D10)を振れば、結果が参照できるようになっています。2D10やD100ではないので同時に解決するのは容易です。損害の内容も一部の特殊損傷を除けばすべて「損害ポイント」に収斂されているので、損害適用時に悩むこともありません。
ところで1発単位ということについて一言。本ゲームの場合、1発命中が必ずしも実際の砲弾1発を意味するわけではないことに注意して下さい。特に6インチ以下の小口径砲弾の場合、ゲームにおける「命中1発」が実際の複数の命中弾を表している場合があります。
火砲についてもう一点付け加えると、ゲーム上の砲口径は必ずしも実際の砲の口径とは一致しません。例えば、戦艦「長門」の主砲について、本ゲームでは「40cm」砲としていますが、実際には41cm砲です。同じく日本駆逐艦の主砲は本ゲームではすべて「12cm砲」となっていますが、実際の口径は127mm。120mm、100mmと様々です。その点ご注意下さい。
雷撃戦ルール
魚雷は、艦砲と並んで水上戦闘における主要な打撃兵器です。特に夜間の戦闘では、接近戦が多くなることもあり、魚雷はしばしば艦砲以上の威力を示しました。従来のゲームを見てみると、魚雷に関するルールは、実際に「発射と同時に命中判定を行う方式」と「魚雷が航走して命中判定を行う方式」の2種類がありました。前者は(株)国際通信社の『戦艦の戦い』、後者は同じく(株)国際通信社の『デストロイヤーキャプテン』がこれに相当します。サンセットゲームズの『聯合艦隊』では、両方の方式の魚雷ルールが提案されていました。
まず「実際に魚雷が航走する方式」について考えてみましょう。この方式は、魚雷射点占位運動や魚雷回避運動を実際に盤上で再現できるというのが大きな利点です。そのためか、この方式を支持する人は今も少なくありません。しかし、この方式にはいくつかの欠点があります。1つはプレイアビリティを大きく阻害することです。両軍合わせて20隻前後の艦船が走り回る戦場において、各艦の発射した魚雷の位置管理を行うのは容易なことではありません。魚雷マーカーを使えば管理は比較的容易になりますが、今度は魚雷位置を隠匿できなくなり、相手側の魚雷回避を極めて容易にしてしまいます。
もう1つの欠点は魚雷の動きがヘクスの並びによって制限されることです。現実の世界で魚雷を発射する際には、目標艦船を包み込むような扇形に魚雷を発射するのが普通です。しかし、ヘクスを使ったボードゲームでそのような雷撃戦術を再現するのは困難で、そのためにゲーム上のプレイヤーは目標艦船の未来位置を読みきった上での魚雷発射が要求されますが、そのような能力は現実の世界で魚雷を発射する際に必要とされる技能ではありません。水上戦ゲームでプレイヤーが演じるのは艦隊指揮官です。艦隊指揮官に要求される能力は、指揮下艦船を魚雷発射位置に占位させること、あるいは敵が行うであろう魚雷発射運動を妨害することです。決して「相手の動きを読みきって魚雷を発射すること」ではないはずです。
それではもう一方の方式、すなわち「魚雷発射後即座に命中判定を行う方式」が優れているのか、といえば、こちらにもまた欠点があります。一番の欠点は「射点占位運動」が正しく再現できないことです。現実の世界では、魚雷発射を行う場合、敵艦の斜め前方から発射するのが最良とされています。斜め後方からの発射の場合、魚雷が目標艦船に追いつくまでに時間がかかってしまい、その分照準が不正確になり相手に回避の余裕を与えてしまいます。真正面からの発射では目標の被弾面積が小さくなります。後方からの発射が不利なことは説明するまでもないでしょう。しかし「発射即判定」方式のゲームでは、多くの場合、この非常に重要なテーマである魚雷射点占位の問題がほとんど考慮されていないのです。その他にも、魚雷回避運動が再現されないこと、遠距離発射した魚雷が即座に目標に到達してしまう不自然さなど、「発射即命中」方式にもいくつかの欠点が存在します。
本ゲームの場合では、魚雷マーカーを使用した「実際に魚雷が航行していく」方式を採用しました。しかし、従来のシステムとは異なるいくつかの特徴を備えています。その1つは「魚雷があたかも誘導魚雷のように目標を追尾していく」ということです。言うまでもないことですが、これは別に誘導魚雷を再現するためのルールではありません(ソロモン海の夜戦で誘導魚雷が使用された事実は、現在のところ確認されていません)。これは魚雷の命中可能範囲を抽象的に表現するためのルールなのです。このルールのおかげで、魚雷を発射するプレイヤーは、「相手艦の動きを読みきって発射する」という意味のない頭脳労働から解放されました。そして、艦隊指揮官を演じるプレイヤーが本来頭を使うべき問題、すなわち魚雷発射位置への占位やその妨害に思考を集中できるようになったのです。さらに本ルールは、魚雷の隠密発射ルールを不要なものとし、それは結果的にプレイアビリティの向上に大きく貢献することになりました。その一方で「発射即命中判定」方式が持ついくつかの欠点、特に射点占位運動が無意味になるという欠点は、本ゲームにはありません。
本ゲームの雷撃戦ルールでは、いわゆる「フェイント発射」を比較的簡単なルールで表現できました。実際、英独海軍が戦ったバレンツ海海戦では、英駆逐艦の発射偽装運動が独艦隊を大いに悩ませました。また太平洋戦域でも、例えばサマール島沖海戦で米駆逐艦の行う発射偽装行動が日本艦隊を大いに悩ませたことが知られています。これを「発射即命中判定」方式で再現することはかなり困難を伴います。実際に魚雷が航走していく方式では偽装発射を再現することは可能ですが、そのためにはプレイアビリティを大きく犠牲にしなくてはなりません。
魚雷が味方艦の存在するヘクスへ優先的に進入しなければならないルールについて一言。これは魚雷戦にありがちな味方打ちを再現するためのルールです。実際の魚雷戦で味方打ちの事例はそれほど多く報告されてはいませんが(むしろ射撃戦における味方打ちの方が事例は遥かに多い)、乱戦では味方打ちを避ける意味で雷撃を控える傾向にあったのは事実です。本ルールは、乱戦時における魚雷の使いにくさを簡単なルールで再現しているのです。
最後に
この『ソロモン夜襲戦』は今までにはない水上戦ゲームです。特に指揮ポイントのルールは、従来ほとんど省みられなかった夜間水上戦闘における指揮統制問題について、初めて光を当てたルールです。しかも、プレイアビリティを大きく損なうことなしにです。新しい考え方に基づいてデザインされた本ゲーム。是非に一度プレイして頂きたく思います。