Eastern Fleet(以下、本作)は、Avalanch Press社が2001年に発表したシミュレーションゲームである。同社のSecond World War at Sea(SWWAS)シリーズの1作で、テーマは1942年におけるインド洋における日米海軍同士の対決である。スケールやシステムはSWWASシリーズと共通であり、1スクエア36海里、1Turn=4時間、1ユニット=1隻(駆逐艦以上)、航空機1個中隊(約12機)である。
今回、作戦シナリオNo.4「South of Ceylon」をプレイしてみた。これは日本軍の南雲機動部隊によるセイロン島攻撃を再現するヒストリカルシナリオである。下名は連合軍を担当した。
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感想
この時点で時間的にもキリの良い時間だったので、いったんお開きにした。ここまでで全48Turn中10Turnまで終了。所要時間はセットアップを含めて6~7時間であった。この時点で日本軍の獲得したVPは、輸送船撃沈35隻(70VP)、飛行場1ヵ所無力化(10VP)で合計80VP。対する英軍は、航空機4ステップ撃破(24VP)、軽空母「龍驤」撃沈(122x2=244VP)の合計268VP。日本軍が勝利するためには、VPで英軍よりも少なくとも50VP上回る必要があるので、日本軍勝利のためにはさらに約250VPの獲得が必要になる。ただし「龍驤」のVP値=122VPは、「翔鶴」「瑞鶴」と並んで日本空母の中では最高値。いくらなんでも過大なので、ひょっとしたら誤記かもしれない。ちなみに同じシリーズ作品のMidwayでは、「龍驤」のVP値は63VPになっていた。この数値を採用すると、この時点での英軍の獲得VPは(63x2+24=150VPとなる。これなら日本軍はあと120VPを獲得すれば勝利できる。120VPは輸送船60隻撃沈で達成可能であり、残り期間(計34Turn)を考えれば、決して困難な数値ではない。
とりあえず感想を書いてみる。まずコンポーネントの不備が目立つ。先に書いた「龍驤」のVPもそうだが、潜水艦の搭載魚雷数についての記載がないのも痛い。今回は暫定的に「1隻あたり3発」としてプレイしたが、Midwayのデータを見ると、伊号潜水艦で1隻あたり4発、呂号潜水艦で1隻あたり2発が正しい数値であった。惜しい。またも航空基地の対空火力についての記載がない。これも困った。
システム的にはSWWASシリーズ共通なので、改めて述べる事はあまりない。少し残念だったのは、例えばMidway等に比べるとチャートの枚数が増えた(ルールが増えたことによる)ので、お目当てのチャートを見つけるのに時間がかかった。チャートのデザインも色使いが拙いので見づらい。
Eastern Fleetについていえば、大半のシナリオが南雲機動部隊によるセイロン島空襲に関連するものになっており、それ以外は全て仮想戦である。結局史実のセイロン攻撃しか楽しめるシナリオはないということになる。
そのセイロン攻撃シナリオだが、圧倒的な破壊力を持つ南雲機動部隊に対し、兵力に劣る英艦隊がまともに挑戦するのは困難だ。うまく奇襲に成功すれば良いが、そうでなければ質量両面で優位に立つ南雲機動部隊の独壇場になる。そもそも足の短い英軍機の場合、敵艦隊を4スクエア(約150海里)以内に捉えない限り、攻撃隊を発進させることすらできないのだ。それに対して南雲機動部隊はその2倍にあたる8スクエアから攻撃が可能だ。普通に戦えば、南雲機動部隊と英機動部隊の直接対決が後者の一方的な敗北に終わることが容易に予想できる。
上記に鑑み、英艦隊としては南雲機動部隊との直接対決は回避して逃げ回る他ない。雷撃機も母艦から下ろして基地に展開させた方が良いかもしれない。後に述べる機会があるとは思うが、本作では基地に籠った敵機を排除するのが非常に困難なのだ。英軍の強みは戦艦戦力の優位だが(隻数で1隻勝っている上、技量や性能でも勝っている)、巡洋艦以下で日本軍が有利なので、戦艦の優位性は怪しくなる。航空戦力の差をも加味すると、艦隊決戦を挑む英艦隊は「漸減作戦」の餌食になる他ない。
[RAF_Hurri1]英軍の頼みは基地航空兵力である。このゲームに限らずSWWASシリーズでは航空基地の防御力が大きい。対艦攻撃では無類の強さを発揮する空母艦載機も、対基地攻撃では1ユニットあたり僅か1火力。火力分だけダイスを振って6の目が出た分だけ命中というシステム。さらに飛行場を使用不能にするためには10回分の命中が必要になる。南雲機動部隊が保有する艦載機ユニット計26.5ユニットの全力攻撃2~3回で漸く達成できるかもしれない数値だ。しかもその間対空砲火による損害は増えるし、自艦隊の守りも手薄になる。この点を逆手にとって、英艦隊はダミーを使って南雲機動部隊に対して嫌がらせを仕掛けることで基地を間接的に援護できる。
このように基地は頑強なので、英軍としては航空基地を積極的に活用したい。基地の弱点は動けないこと。従って航続距離圏外の敵艦に対しては手出しができない。しかし本作には「裏技」があり、航空機による片道攻撃が認められている。無論、片道攻撃を行った攻撃機は帰ってこないし、道義的にも片道攻撃は「如何なものか」と思ってしまう。しかし敢えて片道攻撃の意思を示すことで相手の動きを掣肘することができると考えれば、「脅し」としての片道攻撃には意味がありそうだ。
そして基地航空部隊の目標は、南雲機動部隊ではなく別動隊となる。特に大型艦を数多く持つ小沢部隊が狙い目になるだろう。
もう1点、今回英軍が積極的に実施しなかったのが航空対潜哨戒だ。これは成功率こそ低いが、上手く成功すれば敵潜水艦を1隻始末できる。特に船団攻撃を仕掛けて港に近づいてくる敵潜水艦に対して一矢を報いることができることは大きい。
それに対して日本軍は、史実通りセイロン島周辺に逃げ遅れた英艦がいるので、それを一掃したい。空母「ハーミーズ」、重巡「ドーセットシャー」「コーンウォール」、軽巡1、駆逐艦6、その他2がその対象だ。全てを撃沈できれば100VP以上の価値がある。航空機よりも撃破が容易な目標なので、そちらを優先した方が得策のように思える。
シナリオに対する評価だが、インド洋作戦というゲーム化するのが難しいテーマに果敢に挑戦したこと自体は評価したい。しかし今回プレイしたシナリオが成功作かといえば、残念ながらそこまでの評価は難しい。先にも述べた通り両軍の海上兵力について優劣があまりに明白であるため、劣勢側である英軍が艦隊決戦に応じる必然性が乏しい。従って英艦隊は単に逃げ回るだけの存在であり、それ以外の存在意義は殆どないと言える。ゲーム展開としては、日本軍がベンガル湾で通商破壊戦を行い、セイロン島近海でげ遅れた英艦を南雲機動部隊が叩く。英軍としては潜水艦や基地航空隊によって日本軍の弱点を狙うといった展開になる。このような展開では作戦的な選択肢に乏しく、相手のミスを待つだけの消極的なプレイになってしまう。実際、今回のプレイでも途中で「飽き」が来てしまい、「もう良いでしょう」という気分になったのは否めない。
そもそもインド洋作戦自体がゲーム化し辛いテーマなので、仕方がないが、さて自分ならどのように料理しようかな、と傲岸不遜なことを考えてしまった。