「大東亜共栄圏」 (以下、本作)は、2017年にボンサイゲームズから発売されたシミュレーションゲームだ。テーマはアジア・太平洋戦争で、1939~1944年までの期間を扱っている。今回、本作をソロプレイしてみた。
本作のシステム等は、 以前の記事 で説明したので、そちらをご参照頂きたい。では早速プレイに入っていこう。
1939年
日本軍はベテラン師団を動員し、中国戦線に投入。航空兵力も上海へ投入して重慶攻略を伺う。しかし中国軍は桂林の1個軍を重慶へ再配置したため、重慶攻略は事実上不可能となった(日本陸軍が1度の攻撃で与えるヒット数は最大4ヒット。それに対して重慶守備隊は5ステップになった)。しかし重慶を攻撃することで中国政府に脅威を与えることはできる。当初の予定通り重慶攻撃を実施。中国軍に2ステップの被害を与えた。中国軍は撃破するよりもステップロスさせた方が回復が面倒になるので、2ユニットをステップロスさせた。中国軍は損耗した歩兵のうち1つを回復させ、さらに航空兵力を昆明に展開させた。また太平洋方面では海兵隊1個師団を生産し、ハワイ防衛に任じた。
1940年
日本軍は来るべき対米戦争に備えて兵力整備に入る。空母、戦艦、航空部隊を生産して内地や沖縄に配備する。連合軍は重慶の防衛を固める一方、米太平洋艦隊は3ユニット目の空母を建造して対日戦に備える。また真珠湾にはわざとらしく戦艦2ユニットを配置。まるで日本軍の開戦奇襲を誘うかのような構えである。1941年
「帝国陸海軍は西太平洋に於いて米英両国と戦闘状態に入れり」太平洋戦争が始まった。日本は米英両国に宣戦を布告する。ちなみに本作では日本が米英に宣戦する必要はなく、米のみ、あるいは英のみへの宣戦や、米英いずれにも宣戦しないという選択もある。このことについては後に改めて触れることにしよう。
ともかく日本は戦争を開始した。開戦劈頭空母3ユニットよりなる南雲機動部隊は真珠湾に配置された米太平洋艦隊主力を奇襲。戦艦2ユニットを撃破した。さらに水上部隊は南方ボルネオに侵攻し、油田地帯を手中に収める。
ボルネオ支配によって資源を確保した日本軍。その資源を利用して作戦を継続する。まずはシンガポール攻略。戦艦2ユニットと海軍陸戦隊を以てシンガポールに攻め込んだ日本軍は、シンガポール攻略に成功した。慌てた英連邦は地上部隊を急遽増設し、カルカッタに配備する。
しかし米軍も黙っていない。サモアに集結した空母3ユニットがボルネオに強襲攻撃を仕掛けてきた。出目が良ければ日本戦艦2ユニットを一方的に撃沈出来た所だが、出目は悪く戦艦1ステップロスのみ。逆に戦艦群の反撃によって空母1ユニットが沈んでしまう。
日本軍は蘭印地域防衛のための緩衝地帯を得るためにポートモレスピーに侵攻。同地を占領する。
1942年
日本軍はさらに占領地を広げるべく作戦を行う。シンガポールを基点としてラングーンを目指すビルマ作戦。しかしラングーンを守る英連邦軍の防衛によって作戦は頓挫してしまう。海軍はポートモレスピーを基点としてオーストラリアに侵攻する。しかし米空母2ユニットがリアクションを実行。戦力的には日本軍が有利であったが、出目に恵まれず米空母1ステップに対して日本空母3ステップを失い、まるで史実におけるミッドウェー海戦のような結果になった。
1943年
日本軍は再びラングーンに侵攻し、今度は攻略した。連合軍のCBI戦線は危機に陥った。中国軍は昆明に地上部隊を配備し日本軍の侵攻に備える。太平洋正面では、兵力を回復した米機動部隊が空母を中心とした戦力でトラック環礁を襲った。トラック環礁の日本艦隊は兵力的に劣勢ながらもそれを迎え撃つ。しかし日本側の勇敢な対応は裏目に出た。米軍の損害は僅かに空母1ステップのみであったのに対し、日本軍はほぼ全滅。この日、聯合艦隊は作戦能力を失った。
1944年
米軍による本格的な反攻が始まる。序盤はトラック環礁攻略。3個海兵師団を投入して万全を期した攻略作戦であったが、なんと攻略に失敗。海兵隊1個師団が壊滅し、しかも日本軍の守備隊を排除できなかった。連合軍は態勢を立て直して再びトラック環礁に侵攻。今度は攻略に成功したものの、またもや海兵隊1個師団が壊滅。残る海兵師団は僅か1個になってしまう。
連合軍は海兵隊を再建し、今度はマリアナ諸島に攻めかかった。マリアナ攻略作戦は成功。その後連合軍はフィリピン、サイゴンに侵攻し、Turn終了を迎える。
ゲーム終了時、日本軍は日本、旅順、上海、沖縄、ボルネオ、シンガポール、ラングーンの計7個所を支配した。勝利条件的には連合軍がギリギリで勝利した。しかし最終Turnについていえば、連合軍はカードの「引き直し」(組み合わせが最適になるように途中でデッキを作り直した)というズルをしているので、それがなければ日本軍が勝利していた可能性が高い。
連合軍としては、航空兵力をもう1個整備しておけば楽勝であった可能性が高い。ただし航空兵力を整備するためには他を犠牲にしなければならず、痛し痒しだ。
感想
面白い。記録を付けながらのソロプレイ(しかもやり直しあり)でも3時間弱でプレイできた。対人戦であれば公称値の60~90分でプレイできると思う。意外と細かいルールが多いので最初の2~3回はルール間違いを覚悟した方が良いかもしれない(特に英連邦軍が開戦まで動けないというルールは結構重要)。このゲームの特徴の1つに「日本側が戦争開始について選択肢がある」点。戦争開始時期だけではなく、米英相手に戦争をしないとか、英のみ開戦する、といった選択肢がある。歴史を振り返った時、我々はよく「対米戦は無謀だった」とか「なぜアメリカを怒らせるようなことをしたのか」とか「米抜きで英蘭のみに開戦する選択肢はなかったのか」とか、言いたいことを言っている(私も言っています)。それはそれで傾聴すべき点はあるのだが、逆に「日本はなぜあの時期に米英相手に戦端を開くという選択を行ったのか」という点についての合理的な説明にはなっていない。この問題は多くの場合日本型組織の非合理性が合理的な決断を阻害した、的な説明に陥ることが多い。
本作の素晴らしい点は、ゲームとして面白いだけではなく、上記の疑問に対して一つの回答を提示している点である。無論ゲームはあくまでもゲームであって、現実ではない。従って本作の示したモデルが現実を完全に説明しているわけではない。しかしシミュレーションゲームが現実に対するある種のモデルだと解釈すれば、そのモデルは現実世界の原理原則を抽象化して表現している筈である。
そう考えると、本作をプレイすることでプレイヤーは当時の指導者たちが感じた葛藤や決断を追体験できるだろう。