Naval Anti-Aircraft Guns and Gunnery
Norman Friedman Seaforth Publishing
以前にも紹介したことがあるが 、本書は主に第2次大戦期における火砲による艦隊防空の実態について記した著作である。本書は主に米英海軍における艦隊防空について触れており、それに付随する形で独伊日ソ等についても記している。本書は対空射撃について、主に射撃管制装置と火砲に焦点を当てて、その機能と実態を記している。射撃管制装置に関する解説はかなり詳細に渡っており、全貌を理解するのは難しい。ただしある程度の流し読みでも米英両海軍における対空射撃の課題や実態については概要を理解できる。
本書によれば、英海軍における対空射撃は終戦まで満足できるレベルに達しておらず、特に米海軍に比べると実戦的な装備や訓練が不足していた。彼らの射撃指揮装置は高速で飛来する枢軸軍機を追尾する能力に欠き、従って英海軍の対空射撃は概略位置に対する弾幕射撃に依存するしかなかった。
対する米海軍について、英海軍よりも数段マシだとは言え、その射撃指揮装置は高速目標や偏差角の大きな目標を追尾するのは決して十分な性能とは言えなかった。米海軍の射撃指揮装置は英海軍のそれよりも実戦的でかつ高性能であったため、弾幕射撃ではなく照準射撃が可能であった。しかしそれでも40mm以下の自動火器に比べて中口径砲の有効性は高いとは言えず、5インチ砲による撃墜率は40mm機関砲に比べると低かった。5インチ砲の撃墜率が逆転するのはVT信管が広く使われるようになった1944年以降である。またVT信管は射撃指揮装置の性能不足を補完する役割を果たした。そういった意味では米海軍であっても終戦までに完全な意味で満足できる対空射撃用の射撃指揮装置を持つには至らなかった、という評価がどうやら正しい。
とはいえ、米海軍の対空射撃能力、中でも中口径砲による照準射撃能力が英海軍よりも数段優れたものであったことは本書を読めば明らかである。本書を読むと、インド洋であれほど高い命中率を発揮した日本空母の艦爆隊が何故ミッドウェーや南太平洋海戦でその数分の1の命中率しか発揮できなかったか、その理由が読めてくる。英海軍の対空射撃は事実上「当てずっぽう」に近い弾幕射撃であったため、撃たれた側に大した脅威を与えなかったのだ。それに対して曲りなりにも照準射撃を行う米海軍の対空射撃は、急降下爆撃機(それは1機ずつ順番に突っ込んでくる戦法を採用していた)に対して照準射撃を行い得たので、狙われた側にとっては相当の脅威を感じさせるものであったのだ。
本書を読んでわかることは、米英両国が戦前から航空機の脅威を重大なものと考え、その対策に力を注いでいたことである。それだけの努力を注いでも航空機の脅威を完全に排除することはできなかったが、それでもこれらの努力が一定レベルの成果を発揮して艦隊防空の成功に貢献したことは確かだ。本書は艦隊防空の実態を知るためには良い著作であるばかりではなく、艦隊防空について米英と我が国とで何が違っていたのかを知ることができる好著である。
お奨め度★★★★ Fighters Over the Fleet Naval Anti-Aircraft Guns & Gunnery Naval Firepower: Battleship Guns and Gunnery in the Dreadnought Era