2021年08月
書籍紹介「修羅の翼」
修羅の翼
角田和男 光人社NF文庫
海軍第12航空隊、第2航空隊(582空)、第252航空隊、第201航空隊等に所属し、日中戦争からラバウル・ソロモンの航空戦、1944年硫黄島上空の戦い、そしてレイテ、沖縄等での特攻作戦などに参加し、辛くも生き残った筆者が綴った戦争体験の著作。開戦から終戦まで零戦搭乗員で通し、ほぼ戦争全期間に渡って最前線で戦い抜いた筆者が生き残ったのは奇跡に近い。彼の戦歴は以前に紹介した岩本徹三のそれに似ているが、岩本徹三には一匹狼的な雰囲気が漂うのに対し、筆者はあくまでもチームとしての立場を重視している。従って岩本のように撃墜数の大小に対する拘りはない。(最終撃墜数は9機と伝えられている)本書は単なる戦史ではなく、筆者なりの零戦搭乗員たちに対する鎮魂の意味が大きいように思う。特に筆者自身が特攻隊員となり、数々の特攻隊員たちが敵艦に突入していく姿を見ているので、「死に遅れてしまった」という思いが強かったのかもしれない。さらに筆者は大西瀧治郎が何故特攻という作戦に踏み切ったのか、所謂「特攻の真意」について独特の見解を持っている。本書の主張については、巷間伝えられている大西の戦争継続への行動と相容れないものがあり、個人的には同意し難い。しかし当事者の発言は貴重であり、そういった意味で筆者の主張は興味深いものがある。
お奨め度★★★★
Russian Front(TAHGC)をプレイする【3】
Russian Front(以下、本作)は1985年に米国The Avalon Hill Game社(TAHGC)から発表されたシミュレーションゲームである。テーマは独ソ戦。1941年6月から始まる独ソ戦を、1Turn=1ヶ月、1Hex=25マイル(40km)、1ユニット=軍団(枢軸)~軍(ソ連)の規模で再現する。日本でもHobby Japan社からライセンス発売された。
なお、陸上ユニットの後退ルールについて、日本語訳による解釈から一部混乱を招いているようである。基本的には「常識的な」判断が正しいのだが、日本語訳での「補給源に近づく」という一言が混乱のもとになっている。要するに「真っすぐ行った先に補給源ヘクスが存在する方向へ後退しなさい」という意味(敵の方向へ後退してはいけない)なのだが、日本語ルールを素直に読むと誤った解釈になる可能性がある。対人戦の際には、事前に調整しておくべきだろう(相手が頑固なら、英文ルール(ネットで入手可能)を用意しておくことをお奨めする)。
今回、本作をVASSLでソロプレイしてみた。シナリオは1941年6月から始まる標準シナリオで、ルールは選択ルールを含めて全て採用した。
ここまでの展開は --> こちら
42年6月
戦争は2年目に突入した。天候は晴れである。ドイツ軍は全戦線に渡って攻勢を仕掛ける。とはいえ、1年目のような大規模電撃戦を仕掛ける余力はなく、航空優勢を生かした局所的な兵力優越で拠点を1つ1つ潰していく。北方では、ナルヴァとノブゴルドを占領。さらにナルヴァ近海でドイツ海軍とロシア・バルチック艦隊が交戦。制空権を持つドイツ艦隊が勝利した。
中央戦線ではスモレンスク攻略戦に列車砲を投入。さらに航空機の支援もついてスモレンスクをドイツ軍が奪回した。その南のブリヤンスクでもドイツ軍が占領に成功する。
南方では、ドニエプロペトロフスクを無血占領した後、ドイツ軍はハリコフに前進。航空支援もあって同市を占領した。さらにクリミア半島入口に前進するドイツ軍。ペレコープ地峡では独ソ歩兵部隊同士の激しい戦いになる。それを援護する独ソ両軍の黒海艦隊がペレスコープ地峡の沖合で砲撃戦を演じ、相打ちになって両艦隊とも果てた。
42年7月
天候は晴天。ドイツ軍は攻勢を続ける。北方ではレニングラード東方ラドガ港要地シュリッセリブルク(Schlusselburg RR19)をフィンランド軍最強の4F軍団(5-5-4)が攻撃した。フィンランド軍はドイツ空軍による空からの援護がつき、ソ連軍はラドガ湖小艦隊(2-2-7)が援護する。激しい戦いであったが、結果はフィンランド軍の勝利。レニングラード東方の補給線は遮断され、レニングラードは包囲の危機に瀕した。
南方戦線ではドイツ軍がクルスクを占領。さらに遥か南方ではスターリノを占領。ハリコフ東方でソ連軍3個軍を包囲した。
ソ連軍の反撃。シュリッセリブルクではソ連軍打撃軍(7-5-4)を投入して反撃を行う。先の戦いで壊滅したラドガ湖小艦隊に代わって、オネガ湖小艦隊(2-2-7)を鉄道輸送でラドガ湖に派遣した。再建なったソ連空軍が奮戦して制空権を確保。空と海からの援護下で打撃軍はシュリッセリブルクを奪回した。
別の増援はソ連軍戦車軍(8-6-4)で、2個戦車軍をロストフ周辺の反撃に投入。ドイツ軍戦車軍団と1対1でガチンコ対決。しかし制空権を有するドイツ軍が有利に戦いを進めてソ連軍戦車軍団は大した戦果を挙げずに後退していく。
42年8月
真夏である。天候は晴れ。ソ連軍は再びパルチザンを投入してドイツ側の鉄道輸送を妨害する。それが奏功し、このTurnドイツ側の鉄道輸送力が0にまで低下した。これでクリミア戦線へ列車砲を輸送しようとするドイツ側の意図はこのTurnは頓挫することになる。ドイツ軍はヴォロネシを占領。その南側に装甲部隊を迂回させてドン川西方地域にソ連軍の大規模部隊を包囲した。その中にはソ連軍自慢の戦車軍(8-6-4)2個が含まれている。
ソ連軍は包囲下の部隊を後退させることに全力を集中。さらに後退援護のためスターリングラード周辺に6個軍を増援として投入した。ソ連軍は何とか包囲の輪を突き破って後方へ撤退したが、その撤退戦の過程で多くの兵力を失った。
42年9月
季節は夏から秋に向かっている。ドイツ軍は南方戦線でさらに戦果を拡張したかったが、攻撃の先鋒をなす装甲部隊が補給圏外に出てしまったため、補給線の伸長と装甲部隊の再編に努める。そしてアゾフ海からのロストフへの補給線を遮断するため、タガンログ(I22)とケルチ(E18)をドイツ軍が占領した。さらにロストフの後方にドイツ軍が回り込み、陸上からのロストフへの補給線をも遮断する。ソ連軍はロストフの包囲を破るべく、ショックアーミーで反撃に出る。ロストフ東方で攻撃に転じたソ連第1打撃軍(7-5-4)は、ドイツ第48装甲軍団(7-5-6)を平野で決戦に出る。両軍とも航空部隊を繰り出したが、珍しくソ連空軍が奮戦してルフトヴァッフェを撃退。制空権を得たショックアーミーがドイツ装甲軍団を撃破してロストフへの補給線を啓開した。
42年10月
秋が深まり、早くも天候は悪化してきた。このTurn、北部は泥濘となり、中部南部は雨である。装甲部隊の突破力は失われた。ドイツ軍はなけなしの兵力を集めてロストフ攻略を目指す。列車砲(5-1-2)が運ばれ、ロストフ正面に据えられた。列車砲の威力もあってロストフはドイツ軍の手に落ちた。しかしドイツ軍の戦力も底を尽きかけていた。ソ連軍は再編成のなった戦車軍2個を投入してロストフ東方から反撃を開始する。
42年11月
冬が近づく中、天気の神様は突然ドイツ軍に微笑みかけた。中央戦線全域が晴れ渡ったのである。とはいえ、ドイツ軍に大規模攻勢を仕掛ける力は最早なかった。コーカサス方面へ侵攻しマイコプ油田を目指すドイツ軍であったが、チホレツク(Tikhoretsk D24)まで前進した所で進撃が停止した。クリミア半島では、セヴァストポリ要塞がドイツ軍の手に落ちていた。
ソ連軍は少し早い冬季反攻を開始した。中央ではオリョールとヴォロネシの奪回を図ったが、ドイツ軍の抵抗により失敗。南方では、ロストフ北方に陣取る弱小の枢軸同盟軍部隊を撃破。ロストフへの連絡線遮断を図る。
このTurnで再びVP判定が入る。ゲーム開始時に枢軸軍が支配しているのは計10点(ドイツ5、フィンランド1、ハンガリー1、ルーマニア3)。ソ連領内で枢軸軍の占領した大都市、要塞都市は、ブレスト、ルボフ、ヴィーンヌィツャ、キエフ、ゴメリ、オデッサ、ヴィルナ、ミンスク、ヴィテブスク、リガ、プスコフ、タリン、ハンゴ、ノブゴルド、スモレンスク、ブリヤンスク、オリョール、クルスク、ハリコフ、ヴォロネシ、ドニエプロペトロフスク、スターリノ、ロストフ、セヴァストポリの24ヶ所。さらに補充ポイントがミンスク、キエフ、スモレンスク、ハリコフ、ヴォロネシで計6点、合計40点だ。勝利レベルは"引き分け"。過去の得点を加算すると"S2となり、ソ連軍の限定勝利である。
感想
一旦この時点で終了とする。現時点でドイツ軍の戦力はロストフからコーカサス方面に集中しており、その北側は手薄である。ソ連側が大兵力をモスクワ正面に展開すれば、ドイツ軍の抵抗は困難だろう。下手をすると1944年を待たずして東部戦線は崩壊するかもしれない。今回は初めてのプレイであったので、いくつかのルールミスがあった。一番大きなミスは前回も触れた赤軍部隊の再建制限のルール。他には航空機、艦船部隊の国籍制限。枢軸軍は同一国籍の部隊同士のみが支援できるというルールがあるが、その適用を途中まで失念していた。
初めてのプレイであったが、楽しめるゲームであった。鉄道ゲージの変換ルール等にはやや古臭さを感じる部分もあるが、全般にはプレイアビリティは良好な作品であった。ライバルであるロシキャン(The Russian Campaign)に比べるとプレイ自体が落ち着いており、その分安心して楽しめる作品に仕上がっている。ロシキャンを上回ったかどうかは意見が分かれるが、少なくともロシキャンに比肩する作品だとはいえる。機会を見つけて再戦したい作品だ。
秋田長屋酒場
書籍紹介「世界の艦船:傑作軍艦アーカイブ(11)-空母「赤城」「加賀」」
世界の艦船:傑作軍艦アーカイブ(11)-空母「赤城」「加賀」
傑作軍艦アーカイブシリーズも早11作目。近年はAmazon Unlimitedで無料で読めるので、重宝している。2000円以上と考えれば高いが、無料(実際には月額を支払っている)と考えれば安い。本書は日本海軍の空母では最大級かつ最も初期の艦である「赤城」と「加賀」に焦点を当てた内容である。本書の魅力は数多く掲載されている写真にあり、特に三段空母時代の写真は見応えがある。
記事の方は「赤城」「加賀」の船体、機関、兵装、搭載機に関するものから、もし両艦が当初の予定通り巡洋戦艦、戦艦として就役した場合の評価など、多岐に渡っている。
定価で買うにはコスパが怪しいが、無料に近いと考えればそこそこ読み応えのある内容と思える。
お奨め度★★★