CompassGamesの「NATO: The Cold War Goes Hot - Designer Signature Edition 」(以下、本作)は、2021年に米国CompassGames社から発売されたSLGである。テーマは冷戦時代に欧州正面で想定されていた東西両陣営の直接軍事対決。設定年代は1983年と1988年の2種類があり、後者の方がNATOにとって有利である。
本作は、元々1983年に米国Victory Games社から発売されていた「NATO: The Next War in Europe」(以下、旧作)を元に、同じデザイナーが約40年の時を経て再び出版した作品である。1Turnは実際の1日、1Hexは15マイルで、1ユニットは連隊、旅団、師団規模になっている。1Turnのスケールは旧作が2日だったので、その半分になっている。その他のスケールは旧作との違いはないが、旧作は1ユニット=1個師団であったNATO側が、1ユニット=1個旅団となり、NATO側の駒数が大幅に増えた。
基本的な進め方は旧作と変わりはなく、移動、戦闘を繰り返す方式である。予備移動といって予備指定したユニットが移動力の半分までを使って戦闘終了後に移動できるルールが追加になったぐらい。また航空攻撃のルールも旧作から大きくは変わっていない。
旧作から大きく変化したのは、まず化学兵器である。旧作では単なるコラムシフトに過ぎなかった化学兵器が(それでも上手く使えば相当な打撃が期待できるが・・・)、新作では目標Hex内の敵ユニットを直接攻撃できるようになった。これはNATO側の後衛地隊を攻撃して対応移動を妨害する際に威力を発揮する。さらに化学兵器にはある程度の持続性があり、化学兵器が散布されたヘクスでは敵味方問わずその移動を妨害する。だからWP側が散布した化学兵器のため、WP側自身がその前進を阻まれるような事態も起こり得る。また化学兵器の中には持続性の強いものもあり、例えば強持続性化学兵器をデンマークへの橋梁地域に散布すると、デンマークの島嶼部とユトランド半島との間の連絡を阻害することができる。序に言うとNATO軍の中でも米軍は化学戦能力があり、米軍が化学兵器でWP側を攻撃することも可能である。
話は少し戻るが、移動、戦闘システムについて、今回加わった概念に対応移動がある。これは攻撃目標に隣接するユニットが戦闘時に攻撃目標ヘクスにはせ参じて防御戦闘に参加すること。これはNATO側にとって防御の切り札となり得るルールで、逆にWP側はNATO側の反応移動を阻むため、航空攻撃や毒ガス攻撃を全縦深に叩き込むことになる。このあたりの展開は現代戦っぽさが出ていて興味深い。
今回、「戦略的奇襲シナリオ」の1988年版をプレイしてみた。これはWP側が何の前触れもなくいきなり西ドイツに侵攻してくるというNATO側にとっては悪夢のようなシナリオである。しかしWP側も十分な準備をしないまま攻勢を仕掛けたので、兵力が十分ではない。果たして勝利を収めるのはどちらか?
今回、私はNATO側を担当した。
事前移動
このゲーム、WP側の侵攻開始前にNATO側が前進配備を実施できる。前進配備の方法は、西ドイツ、アメリカ、イギリス、オランダ、ベルギーの順番でそれぞれダイスを1個振り、対応する各国のユニットが出目の移動力分移動できるというもの。ただし、固有の移動力を超過した移動はできない。またあくまでも前進配備なので、国境から離れるような移動は禁止されている。さらにダイスチェックは、各国の移動を行う直前に実施する必要があり、それぞれ国別に移動を完了させてから次の国をチェックする方式となっている。つまり西ドイツ軍のユニットは、他国のユニットがどの程度前進できるかを判断する前に移動を完了しておく必要があるのだ。今回NATO側の前進移動ダイスは平均よりやや悪いぐらい。ただし悲観するような値ではなく、十分に前線を再構築することができた。今回の布陣は、部隊を散開させず、可能な限りスタックして守らせた。その意図は、バラバラに配置した場合、強力なWP側戦車師団によって各個撃破されることを恐れたからである。 スタックを組んで守らせたが、
果たしてNATO側の意図は吉とでるか、凶と出るか。
1Turn
WP側手番
1988年5月12日。突然戦争が始まった。世界は驚愕した。昨日までの平和な生活は一瞬で失われた。ワルシャワ条約機構(以下、WP)の攻撃機とミサイル多数が、西ドイツ、デンマーク、イタリア、ベルギー、オランダ、ノルウェー、そしてイギリス本土上空に飛来した。いくつかの街は炎に包まれた。その炎に放射性物質が含まれていなかったのは、不幸中の幸いというべきか。
主戦場となった東西ドイツ国境地帯では、WP軍の前線砲兵部隊が激しい砲撃を浴びせかけた後、戦車部隊が国境線を超えて西ドイツ領内に突進していく。その後方からは歩兵戦闘車に乗車した歩兵が続く。
戦況は全般にNATO側に不利であった。
WP側は序盤から大量の化学兵器(毒ガス)を使用し、NATO側を混乱に陥れたのである。NATO側で化学兵器による反撃が可能なのは米軍部隊のみ。米軍部隊も即座に化学兵器による反撃を実施したが、その効果はWP側の化学兵器戦力に及ばなかった。
さらに序盤に制空権を握ったWP側航空部隊が密集隊形のNATO軍部隊に対して好餌とばかり猛爆撃を加える。WP側はNATOに比べて精密誘導兵器の配備が遅れていたので、航空攻撃の主役は通常型の無誘導爆弾やロケット弾が主体であった。そのためその多くがNATO側防空部隊の犠牲になったが、それでも数をものを言わせたWP側航空部隊は、繰り返しNATO側地上部隊を叩いた。
無論、NATO側もやられっ放しではない。前線航空部隊を出撃させ、密集隊形で進んでくるWP側戦車部隊をA-10サンダーボルトが叩く。ソ連第90親衛戦車師団(10-6-6)が米軍機の攻撃により戦力の半数を失い、バルト正面軍に所属する1個戦車連隊は、西ドイツ空軍機の攻撃で事実上壊滅した。
北ドイツ平原では、ハンブルク南方で西ドイツ軍第3装甲師団の主力を撃破したWP軍第20軍団が国境から30マイル(2Hex)の線まで進出した。その南では、西ドイツ第1装甲師団を撃破したWP軍第3打撃軍が、要域ハノーヴァーに近づく。
フルダ正面では、米第3機甲師団がWP第8親衛軍の攻撃を受けて撃破され、WP軍の先鋒はウルツブルグに迫る。
NATO側にとって明るい話題といえば、デンマーク戦線である。デンマークの奪取を狙うWP軍は、海兵旅団2個と空挺3個連隊を投入してデンマークの首都コペンハーゲンを含むシェラン島に着上陸を仕掛けてきた。しかしソ連第336親衛海兵旅団(3-3-4)は、西ドイツ海軍航空隊のトーネード攻撃機による対艦ミサイル攻撃を受けてバルト海に沈み、その結果、楽勝であったはずのコペンハーゲン攻略作戦はまさかの失敗。デンマーク軍がコペンハーゲンの守備を固める機会を得た。
NATO側にとって失敗だったのは、初期配置でスタックに依る防御を採用したことかもしれない。そのため、航空攻撃や化学兵器の攻撃による損害を増加させた感は否めない。ただ散開させた場合、個々のHexの防御力が弱体化するので、強力なWP側の攻撃で各個撃破される危険性もある。いずれにしても難しい所だ。
NATO手番
NATOは先ほど密集隊形で損害を大きくしたことに鑑み方針を変更。各部隊を広く散開させて相互支援できるようにした。さらに防御スクリーンの後方に予備を配置し、状況に応じて即座に前線にかけつけられるようにした。米軍戦線ではささやかながら化学兵器を使って反撃を実施。さらにフルダギャップでは突出してきたソ連軍独立戦車連隊(2-2-6)を西ドイツ第5装甲師団が包囲反撃し、これを排除した。
つづく