
本作は、2023年に米国LPS社のゲーム付雑誌Against the odds誌58号の付録ゲームとして出版されたもので、デザイナーは戦史研究家としても著名なMark Stille氏である。ゲームシステムは氏の前作であるImperial Sunsetを踏襲したものとなっていて、基本的なシステムはほぼ前作と共通している。
本作には3本のシナリオが用意されているが、今回はその中から一番史実に近いHistorical Scenarioをプレイしてみた。筆者は日本軍を担当した。なお、Clash of Carriersについては、以下の動画でも紹介しているので、よろしければご覧頂きたい。
前回までの展開 --> こちら
4Turn(1944年6月18日夕刻)
ついに米艦隊を攻撃圏内に捉えた。距離300海里(12Hex)。攻撃距離ギリギリだったが、9隻の空母からは稼働機全機が発進していく。その数は400機以上。真珠湾攻撃を上回る大攻撃編隊だ。攻撃隊が狙ったのは、米艦隊の中でも最南端に位置していたTG58.1である。空母「ホーネット」「ヨークタウン」「ベローウッド」「バターン」を中心とし、重巡3、防空巡2、駆逐艦4戦隊(16隻)からなる部隊だ。幸い米艦隊が分散していたため護衛戦闘機はCAPのヘルキャット隊と互角の戦いを演じ、攻撃隊の大半はTG58.1に突入していた。これは大戦果必至。誰もが固唾を飲んで行方を見守っていたが・・・。

その後の展開
攻撃を終えた日本艦隊は、闇夜に紛れて撤退を図る。実戦では考えられないが、ゲーム上の勝利条件を考えれば、このまま全力で逃げるのが日本艦隊にとっては最良の策である。結局日本艦隊は殆ど無傷で戦場離脱に成功し、マリアナ沖海戦は、日本艦隊の「ささやかな勝利」という結果になった。結果
日本軍のVP
・撃沈:軽空母1:10VP・生き残った日本艦隊:正規空母3、軽空母6:33VP
・合計:43VP
連合軍のVP
・航空機2ユニット除去:1VP・合計:1VP
日本軍の決定的勝利
感想
あくまでもゲーム上での勝利だが、勝ったからよかったとしよう。今回米空母はサイパンから9Hexのラインギリギリに布陣していたが、これは愚策だと個人的には思っている。米軍としては日本軍をサイパン近海に引きずり込み、撤退を困難にしてから叩くのが得策。そのためにも決戦は6月19日までひっぱり、そこで史実通り日本軍の攻撃を迎え撃つ。今回の結果の如く軽空母1隻程度の損害は覚悟する必要があるが、一旦攻撃を凌げばあとは全力で追跡すればよい。特に移動制限がなく、かつ足の速いTG58.1、TG58.4なら毎Turn平均1.5hexのペースで距離を詰められる。さらに潜水艦を使って日本艦隊の退路を塞いでおけば、翌20日の早朝には日本艦隊を5~6Hexの距離に捕捉できるだろう。この距離なら米空母機でも十分に攻撃可能距離なので、全力攻撃を仕掛ける。TG58.1とTG58.4だけの攻撃力ならやや不安はあるが、それでも正規空母1隻ぐらいは仕留められるだろう。あるいは複数の艦に損害を与えて足を止めれば、後続するTF58本体による追撃も期待できる。
もし米軍がギリギリの勝利に持ち込むために期待する戦果は、史実よりもやや多い正規空母2隻、軽空母2隻程度の撃沈になるだろう。その程度の戦果を残せば、仮に自軍が軽空母1隻を失ってもギリギリで勝てる。史実よりも厳しいのは、軽空母1隻分を賄う必要があるのと、史実のような「七面鳥撃ち」が本作では再現が難しいからだ。戦闘システムを一瞥した日本軍プレイヤーは、史実のような分散攻撃が愚策であることを一瞬で見分けるだろう。
とまあゲーム上の勝敗を考えれば色々と検討の余地があるが、これがマリアナ沖海戦のシミュレーションかと言われれば、疑問を感じざるを得ない。史実の日本軍がたかが軽空母1隻の撃沈で満足して撤退することは考えられず、もし今回のような結果になれば、当然戦果拡大を求めて戦場に留まっていただろう。しかしゲーム上での日本軍は、今回のプレイ例が示す通り、自身の航空攻撃力が米機動部隊の防空網に対してあまりに無力であることを知っている。だから最小限の戦果でも満足して戦場を離脱するというのが合理的な選択肢になるのだ。
「史実の指揮官が知り得なかった情報をプレイヤーが知っている」
つまるところ、シミュレーション・ウォーゲームの普遍的な命題が本テーマのゲーム化の前に立ちはだかっていたというのが結論ということになるのだろう








