「山崎の戦い」(以下、本作)は、2019年に国際通信社から「コマンドマガジン149号」の付録ゲームとして発売された作品である。本作のテーマは、1582年の山崎の戦い。日本人なら誰でも知っている有名な戦いだ。
簡単に背景を説明すると、天下統一を目前として本能寺の変で斃れた織田信長。その信長を斃した明智光秀と、信長の弔い合戦を企図して急遽畿内に舞い戻った羽柴秀吉。その両者が激突したのが山崎の戦いである。この戦いで勝利した秀吉は、その後天下人への道をひた走ることになり、一方の光秀は敗走中に落ち武者狩りの襲撃を受けて命を落としている。
日本史上有名な戦いを扱った本作は、実はデザイナーは日本人ではない。デザイナーは、フランシス・バンダー・ミューレン氏。名前から推測するとフランス人ぽいが、本当の国籍までは知らない。日本人ではないことは確かだが・・・。
元々はフランスのウォーゲームメーカーであるHEXASIM社から2016年に出版された「Tenkatoitsu」という作品に含まれる1作である。ちなみに「Tenkatoitsu」に含まれている他の戦いは。長久手の戦いと関ヶ原の合戦で、いずれも国際通信社より日本語版が発売されている。
ゲームシステムを紹介しよう。
基本的にはチットプルである。両軍ともダイスを振って命令ポイントに相当する軍勢チットをカップに入れる。それ以外に「強制チット」と呼ばれるものがあり、それもカップに入れるのだが、そのことは後で説明しよう。カップからチットを順番に引き、引いてきた軍勢が命令に従って行動を解決する。ちなみに軍勢というのは、1~3個程度のユニットからなる戦闘グループで、史実での「斎藤利三隊」「加藤光康隊」等である。
ここで「命令」という言葉が出てきた。本作では、軍勢ごとに命令を与えて、命令に従った行動を行う。命令には移動、攻撃、防御、再編成の4種類があり、それぞれ命令によってできること/できないことが決まってくる。途中で命令を変更することも可能だが、そのためにはダイスチェックに成功しなければならない。
先に説明した「強制チット」は、行軍、戦闘、回復、独断専行の4種類があり、戦闘チットは羽柴、明智それぞれ1枚ずつあるので、計5枚の「強制チット」が存在する。これらのチットは、チットの種類と合致する軍勢が全て活性化できる。例えば「行軍チット」を引けば、移動命令下にある軍勢が全て移動できるという案配。
移動システムは一般的なウォーゲームと同じだが、移動力消費がHex単位ではなく、ヘクスサイドで計算する点がユニークである。また与えられた命令に応じて移動力が異なってくる。スタック制限は常時1枚で、移動中や退却時にもスタック制限超過は認められない。
戦闘ルールは一見するとやや特殊に思えるが、戦闘修正が特殊なだけで、基本的にはマストアタックである。練度と兵力数がダイス修正になり、その他状況に応じたダイス修正が適用される。戦闘結果は攻撃側又は防御側への打撃数の形で与えられ、さらに防御側は後退を強いられることもある。
本作を分かりにくくしているルールの1つが戦闘陣形である。これは魚鱗の陣や鶴翼の陣といった戦国時代特有の陣形を再現するためのルールだが、例えば魚鱗の陣を選んでも、盤面のユニットが「魚鱗の陣」になる訳ではない。これらの戦闘陣形は、各ユニットに「突撃」や「機動」といった特殊な行動を実施できるようにするために使われる。戦闘陣形を獲得するためには、命令ポイントの残りを「貯金」する必要があり、戦闘陣形を有効にするには2d6で「貯金」したCPの合計値以下の目を出す必要がある。
他に攻城戦ルール等もあるが、詳細は省略する。
ルールの説明は以上だが、ルールブックを読んでいただけでは分かりにくい個所を少し説明する。
1つは戦闘ルール。ルールの書き方はやや曖昧だが、本作の戦闘システムは一般的なマストアタックである。すなわち攻撃する際にはZOCを及ぼしている全ての敵ユニットを攻撃しなければならない。ただし例外として「強制攻撃ではないヘクスサイド」越えの敵ユニットは攻撃しなくても良い。
戦闘ルールでもう1つ。複数ユニット間の戦闘についての説明が曖昧である。攻撃側、防御側のいずれかが複数の場合の戦闘解決方法についての記載がルールにない。我々は攻撃側が複数の場合は「戦闘支援」として扱い、防御側のユニットが複数の場合、防御側の練度と兵力を合計して適用することにした。この解釈が正しいかどうかは自信がない(明智方に不利に適用される)。
プレイの後、Board Game Geekでのルールのやり取りについて追いかけていると、まさに「複数ユニットが防御している戦闘」というそのものズバリの質問があった。それによると、攻撃側、防御側いずれについても複数ユニットが参加する場合には練度、兵力を全部合計するとのことであった。また部隊の状態については、攻撃側は最悪のもの、防御側は最良のものを適用するとのことらしい。意外と「数の暴力」が有効なシステムなので、ちょっと意外であった。
Combat - multiple defenders
今回プレイしたシナリオについて説明する。
本作には、ロングシナリオとショートシナリオの2種類がある。ロングシナリオは合戦前夜から開始され、両軍が戦場へ展開する所から始まる。全21Turnである。
一方ショートシナリオはゲーム中盤から開始される全11Turnのシナリオである。両軍が既に戦場に展開した状況で開始されるシナリオであり、兵力に劣る明智方は苦しい戦いを強いられることになるだろう。
今回はショートシナリオをプレイし、私は羽柴方を担当した。
作戦計画
ゲームを開始する時にいきなり疑問にぶつかる。それは戦闘陣形についてだ。コマンドマガジン本文記事のリプレイによると、ショートシナリオでは両軍とも戦闘陣形を発動済としているが、ルールを読んでみてもそのような記述は見つからない。今回は「戦闘陣形発動済」(つまり本文記事の記載内容に従う)としたが、ルールの記載漏れがあるのなら改善して欲しい所だ。作戦計画の話をする。ショートシナリオでは、羽柴側が既に天王山を支配し、大兵力を山裾に展開している状況で開始される。このような状況では明智側に勝機は乏しい。羽柴側としては大兵力を生かして順当に勝利を狙っていけばよい。とはいえ、大兵力を効率よく活用するには少々コツがある。そこで順当に勝つ方法を考えよう。
上図はショートシナリオのセットアップ時の状況である。白のユニットが羽柴側、茶色が明智側である。明智側がほぼ全兵力を鶴翼に展開しているのに対し、羽柴側は天王山麓の隘路に秀吉本隊を含む主力部隊が集結しているのがわかる。
この状況を生かして羽柴側は主力部隊を戦線左翼に注ぎ込み、明智側右翼を捕捉し、突破せん滅を図りたい。そして後方の勝龍寺城を狙う。そこで選択した戦闘陣形は「鶴翼」。機動的な攻撃を行うには最適な戦闘陣形である。実際にも盤面の状況が鶴翼に近い形を狙っている所も興味深い。さてさて・・・。
つづく
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