「Brazen Chariots」(以下、本作)は、2019年に米国MMP社から発売されたシミュレーション・ウォーゲームである。テーマはクルセーダー作戦。1941年11月、北アフリカ戦線における英連邦軍(連合軍)によるトブルク方面に向けた反撃作戦だ。作戦自体は連合軍の勝利に終わり、トブルクとキレナイカ一帯の支配を連合軍が奪回した。しかし戦いの途中ではドイツ軍優位に進んでいた場面もあり、連合軍としてもギリギリの勝利だったと言える。
本作は、クルセーダー作戦を、1ユニット=1個大隊、1Turn=1日、1Hex=1マイルの規模で描いている。なお、一部のシナリオはブレビティ作戦やバトルアクス作戦等を扱っている。マップはフルマップ3枚でトブルク周辺部のキレナイカ一帯を描いている。マップ東端部がハルファヤ峠、西端部がトブルク包囲網の西外周部分である。クルセーダー作戦はWW2期に実施された作戦の中ではそれほど大規模な戦いではないが、BCSのスケールで描くと結構ビッグゲームになる。なお、カウンターは1000個以上が同梱されている。
説明が前後するが、本作はBCS(Battalion Combar Series)の1作である。BCSについては 以前の記事 で紹介したので、参照されたい。一言で言えば、大隊規模ユニットによる陸上戦闘を詳細なルールで再現したシリーズと言える。
今回プレイしたシナリオは、シナリオ5.8「Operation Crusader(2MAP)」。クルセーダー作戦を再現するシナリオだが、東端のマップは使用しないシナリオである。その結果、マップ東部で繰り広げられておるハルファヤ峠の戦いや、バルディア要塞を巡る攻略戦等は省略されている。
今回、私は枢軸軍を担当した。
状況分析
このシナリオは、トブルクに籠るイギリス軍を、ドイツ、イタリアの枢軸軍が包囲し、その包囲輪の外周から連合軍が攻撃を仕掛けてくるところから始まる。連合軍の勝利条件は、外部からトブルクへ通じる1級又は2級道路沿いの連絡線を確保すること。地図を見ればわかるが、トブルクへ通じる第1、2級道路は、地中海沿いに東西に走る海岸道路とトブルクの南に延びるEl Adem道路のみ。つまりトブルクの東、南、西の3方向に延びている。そのうち海岸道路については、英軍の攻撃開始位置であるトブルク南東部からかなり遠く離れている上、同方面で最強のドイツ・アフリカ軍団(DAK)と対峙しなければならない。一方のEl Adem道路は、守備隊がイタリア軍のみで比較的弱体。無論DAKの機動反撃に晒されることにはなるが、連合軍側からの反撃も可能なので、一方的に叩かれるという展開にはなりにくい。従って連合軍側の主攻性はEl Adem道路に指向されるとみるのが妥当だろう。
従って枢軸軍としては、El Ademに向けて進撃してくるであろう英連邦軍諸隊をDAKの2個装甲師団で各個撃破する作戦を狙うこととした。
1Turn(1941年11月19日)
このシナリオは連合軍の攻勢開始により始まる。最初に攻撃を受けたのは、Bir el Gubiを守るイタリア軍アリエテ戦車師団である。英第22戦車旅団がアリエテ師団に猛攻を仕掛けてきた。アリエテ師団はイタリア軍随一の装備を誇っており、特にその装備する90mm対戦車砲は、伝説のドイツ軍88mm砲に匹敵する威力を誇っている。今回、このBir el Gubiの戦いでは、イタリア軍90mm法が猛威を振るい、英第22戦車旅団のマチルダやクルセーダー戦車を次々と撃破した。英軍の損害は戦車4Step、歩兵1Stepの計5Stepにも及び、アリエテ師団の損害は僅かに歩兵1Stepに過ぎなかったのである。
2Turn(11月20日)
「なんなんだよ、これ。一体」枢軸プレイヤー(つまり筆者)の悲鳴が響き渡る。先ほどの戦闘で大損害を受けたはずの英第22戦車旅団であったが、わずか1回の補充によってほぼその全部が回復してしまったのである。
「これじゃ、賽の河原だよ」
英軍の無尽蔵な補充能力。知識としては理解していても、いざその猛威に直面すると、やはり驚愕を禁じ得ない。
気を取り直して反撃開始。まずはDAK自慢の第21装甲師団が、El Adem南東へ伸びるトレイル上を走っている英Support旅団の後尾を捕捉して一撃を加えた。砲撃と戦車による攻撃でSupport旅団に計4Stepの損害を与えた第21装甲師団は、まずは幸先の良いスタートを切る。
DAKもう1つの雄、第15装甲師団も活動を開始。こちらはEl Adem付近で攻勢態勢に入っている英第7戦車旅団を攻撃する。しかしこちらはダイス目に恵まれず英軍と相打ち状態。補充能力に劣るドイツ軍にとって相打ちは危険な兆候である。
さらにその第15装甲師団を後続してきた英1戦車旅団が攻撃。行軍隊形のまま接敵攻撃を行っていた第15装甲旅団の判断が災いし、計4Stepもの損害を被ってしまう。
先ほど奮戦していたアリエテ師団に対しても新たな敵が迫ってきた。歩兵中心の南アフリカ第1旅団である。砲撃と歩兵による接近攻撃により、さしものアリエテ師団も歩兵4Stepを失う大損害を被った。
3Turn(11月21日)
補充の出目が全く振るわず、こちらの補充ポイントはゼロ。それに対して英軍の補充ダイスは、またもや最高値の6で補充Max。補充能力に乏しい事は分かっていたが、こうもダイス目に見放されると嫌になる。第21装甲師団は英Support旅団に対してなおも攻撃を継続する。ドイツ軍最強クラスの装甲師団の猛攻を受ければ、さしもの英軍歩兵旅団も対抗する術もなく、殆ど壊滅した。
第15装甲師団は英第7戦車旅団に対する攻撃を継続。相変わらずダイス目の悪さに悩まされるつつも、機動力の優位を生かして英軍を包囲する。
アリエテ師団には先ほどの教訓を受けて歩兵部隊を広く散開させて砲撃の損害軽減を図る。その甲斐もあってか、砲撃による損害は1Stepに収まった。
4Turn(11月22日)
またもや補充ダイスに泣かされる。こちらのダイスは最低の1で、補充ポイントはなし。連合軍はダイス5で、ベストではなかったにしてもかなり良い出目である。補充能力に差があることは最初から分かっていたが、悪いダイス目が続くとさすがに嫌になる。度重なる戦闘で、DAK誇る装甲部隊の残りステップ数も心細くなってきた矢先でもある。DAKの反撃。第15装甲師団は、英軍の主力である第7機甲旅団を包囲することに成功。壊滅寸前に追い込んだ。
さらに第21装甲師団は、英第4機甲旅団を攻撃する。相変わらず出目の悪さに苦しむドイツ軍であったが、それでもなんとか第4機甲旅団を包囲することに成功する。
このTurnの終盤に事件が起こった。次Turnの連合軍増援部隊のうち、ニュージーランド歩兵師団がマップ東端の海岸道路付近から登場してくることが判明したのだ。ちなみに同方面を守る枢軸軍の守備隊は皆無で、海岸道路付近にはDAKの兵站部隊が集まっている。ここを潰されたらDAKの壊滅は免れない。この時点で投了をも覚悟した枢軸軍であった。
このまま終わりにするのもお互い悔いが残るので、両者協議の結果、ドイツ軍アフリカ歩兵師団の配置を見直すことに決定。同師団を東側から接近する連合軍に対する守りの配置につかせることで一件落着となった。
本件、明らかに枢軸側のポカミスだが、いきなり自軍の側面から敵が増援で登場してくるのは正直かなり面食らう。他のBCS作品、例えばアラコートでも同様の事が起こるのだが、これはBCSのシナリオの書き方にも一因があると思っている。とにかくBCSのシナリオは、セットアップや増援部隊がわかりにくい。部隊名がテキストで(しかも改行もなしで)延々と並んでいるので、読み解いて、マップに配置するのは一苦労だ。今ならカラフルなセットアップシートや増援シートが当たり前になっているのに、未だに20世紀のような旧態依然としたシナリオ書式に固執するデザイナーの考えは全く理解できない。OCSもしかりだが、早く「21世紀に相応しい」ウォーゲームになって欲しいと思う今日この頃である。
つづく
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