「Baptism by Fire」(以下、本作)は、2017年に米国MMP社が発表したシミュレーション・ウォーゲームである。本作のテーマは1943年2月の北アフリカ・チュニジア戦線。いわゆるカセリーヌ峠の戦いである。
本作はBCSシリーズの1作である。BCSとは、Battalion Combat Seriesの略称で、大隊規模ユニット同士の戦闘を描いたシリーズである。BCSシリーズの基本システムについては、 過去の記事 を参照されたい。
本作のテーマとなるカセリーヌ峠の戦いは、事実上ロンメル将軍が北アフリカで戦った最後の戦いである。最終的には米英軍が勝利したこの戦いは、途中でドイツ軍が質的優位性を発揮し、米英軍を恐慌状態に陥れたこともあった。ティーガー重戦車も登場し、ドラマチックな展開をみせている。そこで、ゲーム紹介に入る前に歴史的背景をおさらいしておきたい。なお、以下の記述は、主にWikipediaの記載に依った。
1942年11月。トーチ作戦を発動した連合軍は、北西アフリカの仏領モロッコ、アルジェリアに上陸。さらにその東にある仏領チュニジアへ進撃してきた。またエル・アラメインの戦いに敗れたドイツ・イタリア軍を追ってイギリス軍が東からチュニジアに接近。東西からの攻勢にさらされた仏領チュニジアの枢軸軍は、危機に陥る。
ヒトラーはチュニジアを守るためにフォン・アルニム麾下の第5装甲軍を編制。強力なティーガー重戦車を含む2個装甲師団がその指揮下に入った。第5装甲軍の先鋒部隊は、1943年1月30日ファイド峠でアメリカ第1機甲師団と自由フランス軍の連合部隊と交戦。88mm砲の集中砲火を浴びせてこれに大損害を与えた(ファイド峠の戦い)。ちなみにこの戦いがWW2における米軍とドイツ軍の最初の交戦と言われている。
2月14日。ドイツ軍第10装甲師団と第21装甲師団がファイド西方16kmのシディブジッドでアメリカ機甲部隊を攻撃する。ちなみに本作はこの時点が第1Turnになる。シディブジッドの戦いはドイツ軍の勝利に終わり、アメリカ軍は一部を残して西方に撤退する。
態勢を整えたドイツ軍は西に向けて進撃を再開し、要域スベイトラを占領。さらに進撃を続ける。一方米英軍は、カセリーヌ峠とシビバ峠に防衛ラインを築く。ちなみにこの撤退戦でアメリカ軍は、将兵2,546名、戦車103両、車両280台、野戦砲18門、対戦車砲3門、そして、全ての対空砲を失った。
ファイド峠、そしてシディブジッドで勝利したドイツ軍であったが、その内実は複雑であった。新たに第5装甲軍の指揮官となったフォン・アルニム上級大将と、ドイツ・イタリア装甲軍を率いるエルヴィン・ロンメル元帥との間に不和が生じていたのである。ロンメルはチュニジアで大きな勝利を収めることで米英軍に大打撃を与えてその進撃をストップさせようとしていた。しかしアルニムはロンメルのような大きな勝利を望んでおらず、より確実性の高い堅実なプランを求めていたのである。
ロンメルはテベッサの米軍補給基地を奪取し、チュニジアに進出する連合軍の補給線を遮断するプランを携えてローマの司令部に飛んだが、そこでロンメルは予想もしなかった事態を迎えることになる。ロンメルの提案したプランは、司令部で修正の上で承認された。それによると攻撃プランは、カセリーヌ峠とシビバ峠の両面攻撃を実施することになっていた。これはロンメルのプランとアルニムのプランの両方を「足して2で割ったような」プランであった。カセリーヌ峠を越えてテベッサへの全力攻撃を企図していたロンメルにとっては正に晴天の霹靂であった。
何はともあれ、2月19日にドイツ・イタリア軍は攻撃を開始した。ドイツ軍第10装甲師団はティーガー重戦車を装備した第501重戦車大隊を先頭にカセリーヌ峠へ向けて進撃。また歴戦の第21装甲師団はシビバ峠を通過して北へ向かった。ドイツ軍のティーガー重戦車と4号戦車はアメリカ軍を圧倒。特にカセリーヌ峠を突破した第10装甲師団は、そのまま北上して要域ターラに迫ってきた。テベッサ陥落も目前と思われた2月22日。
ドイツ・イタリア軍の進撃はここで突如停止することになる。増援で現れたアメリカ第9歩兵師団と砲兵隊がドイツ・イタリア軍の前に立ちはだかったのである。ここに至り、ロンメルはテベッサへ向けた進撃は不可能だと認めざるを得なかった。カセリーヌ峠を巡る戦いはここに終結。しかしチュニジアではなおドイツ・イタリア軍と米英連合軍の激しい戦いが続き、5月半ばのドイツ・イタリア軍の降伏まで約3ヶ月間続くことになる。
とまあ、こんな感じだが、果たしてゲーム上ではこの戦いがどのように表現されているのだろうか。今回は、本作の中からキャンペーンシナリオである5.1 Kasserine Campaignをプレイした。私は枢軸軍を担当した。
1Turn(43/02/14)
本作は、ファイド峠での戦いが終わり、その後に開始されたシディブジッドの戦いからゲームが始まる。枢軸軍の兵力は第10装甲師団のバトルグループが2個、第21装甲師団のバトルグループが2個である。一方、シディブジッドを守るアメリカ軍は、第1機甲師団のCCAと同師団所属の歩兵大隊3個だ。この歩兵大隊が高地に布陣して粘った史実を再現するため、陰謀ルールによってこれらの部隊は保護されている。ドイツ軍の攻勢は、シディブジッドの北方Poste de Lessouda(ルッスーダ)の集落を守る米軍機甲大隊に向けられた。第10装甲師団所属の第501重戦車大隊は新鋭のティーガー重戦車を装備。1943年初頭の段階でティーガーと戦って勝てる戦車は米英軍にはなかった。米軍の機甲大隊は瞬時に撃破され、ルッスーダ集落を抜けたドイツ軍がさらに西へ向けて進撃を続ける。
2Turn(43/02/15)
ドイツ軍は第10装甲師団が攻撃の先鋒となり、スベイトラに向けて進撃していく。またその後方からは第21装甲師団が続行し、シディブジッド周辺をに残っていた米歩兵部隊を掃討していく。動きの鈍い歩兵部隊であっても補給線付近に放置して残せば、補給線を遮断する等の「悪さ」をしないとも限らない。その効果もあってシディブジッド周辺の米軍部隊は全て掃討することに成功した。3Turn(43/02/16)
ドイツ軍は二手に分かれて西へ向けて進撃する。中央の道路は第10装甲師団が進み、南側の道路を第21装甲師団が進む。米軍はスベイトラに集結してドイツ軍の進撃を待ち構える。この時期、ドイツ軍のSNAFUロールに-2のDRMが適用されるので、今一つ元気がない。そのためか、スベイトラを目前にしながら、攻撃を躊躇う。4Turn(43/02/17)
スベイトラの東正面にはドイツ軍第10装甲師団が、南側からは第21装甲師団が迫る。しかしこのTURN、第10装甲師団のGerhdt戦闘団が一時的に戦線を離脱してしまう。このためにスベイトラ前面でまたもや攻撃を躊躇うドイツ軍なのであった。5Turn(43/02/18)
このTurnから枢軸軍のSNAFUロールで枢軸軍に適用されていた不利な修正が解除される。ようやく足枷を外されたドイツ軍装甲師団は、スベイトラに対して総攻撃を仕掛けた。ティーガー重戦車はまだ戦場に到着していなかったが、4号戦車を装備したLang戦闘団がスベイトラに総攻撃を仕掛ける。米第1機甲師団のCCAがスベイトラを守っていたが、歴戦のドイツ軍の前に米軍の抵抗はなきに等しいかった。米第1機甲師団は撃破され、ドイツ軍はスペイトラを占領した。南方から登場してきたドイツアフリカ軍がテレプテを抜けて一気にカセリーヌに突入した。これでスベイトラを守っていた米軍部隊は一気に後方に脅威を感じることになる。
つづく
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