230802_波まくら

波まくらいくたびぞ:悲劇の提督・南雲忠一中将

豊田穣 講談社文庫


波まくらいくたびぞ 太平洋戦史に興味のある方に南雲忠一を知らない人はほとんどいないと思う。空母6隻を有する第1航空艦隊を率いて真珠湾攻撃を成功させ、半年後のミッドウェー海戦で大敗を喫し、南太平洋で戦い一定の戦果を挙げたものの、最後はサイパン島の地上戦で戦死した、まさに「悲劇の提督」というのが相応しい人物である。
本書は、南雲忠一の太平洋戦争での活躍を彼自身の視点から描いた著作である。また太平洋戦争時だけではなく、戦前における艦隊派と条約派の対立、艦隊派の急先鋒としての南雲の活動(井上成美との対立は興味深い)についても相応のページ数を割いている。さらに本書は人間としての南雲忠一についても触れており、特に家族との関わりについては他書では見られない部分である。
また本書で秀逸なのはストーリーの進め方で、太平洋戦争における南雲の活躍を中心に据えながら、その前後に関連する挿話を埋め込んでいる(「宇宙兄弟」みたいな感じ)。この方式は読者を飽きさせないという点で優れた方法であり、そういった意味で本書は「読んでいて楽しい」著作である。
初版出版が1980年なのでかなり古い著作であり、戦史についての部分では明らかな勘違い(サウスダコタの主砲が36cmとなっている等)や現在では否定されている見解(ミッドウェー海戦での運命の5分間等)も散見されるが、些細な点であろう。

お奨め度★★★★


波まくらいくたびぞ ミッドウェー ミッドウェー海戦第1部:知略と驕慢 ミッドウェー海戦第2部:運命の日