AH_Trireme_CoverArt


「Trireme」(以下、本作)は、1980年に米国Avalon Hill社が出版したSLGだ。テーマは古代地中海における海上戦闘。ギリシア、ローマ時代に行われた有名な戦い、例えばサラミスの海戦やポエニ戦争でのローマ、カルタゴの戦い、さらにはカエサルが活躍していた頃のローマ海軍が登場する海戦等がシナリオ化されている。ちなみに、タイトルのTriremeとは三段櫂船のことで、櫂を主な動力として行動する軍船である。三段櫂船は漕ぎ手が3段に配置されていて、高速力を発揮できたとのこと。ちなみに、Hobby Japanが和訳した際のタイトルは「ギリシア・ローマ海戦」という、ちょっと素人臭いタイトルだった。

写真01_Trireme


ゲームスケールは1ユニットが1隻の軍用船、距離や時間のスケールは不明だが、恐らく1Hex=約10~40m、1Turn=約20k~60秒ぐらいだと思う。ちなみに軍用船は2つのHexに跨って配置される。

ゲームシステムは比較的シンプルな「フリートゲーム」と本格的な「シップゲーム」に分かれているが、ここでは「シップゲーム」を元に説明する。

ゲームの手順は、移動計画と移動命令が基本となっていて、プレイヤーは麾下の全船の移動を計画し、同時に移動を実行する。移動実行フェイズは5つのインパルスに分かれていて、各船は自身の移動力に応じて移動できるインパルスが決まってくる。例えば移動力2の船は、第3インパルスと第5インパルスに移動可能。移動力5の船は第1~5インパルス全てに移動可能、といった具合だ。

移動中に彼我の船が同じHexに進入すると、衝突又はラム戦が発生する。ラム戦とは、船首部に取り付けられた触角で相手の船に穴をあけて沈めようとする試みのこと。相手の横腹からラム戦を仕掛けるのが有利なので、敵を包囲するような位置取りが重要になってくる。

攻撃手段としては、上述したラムの他に、投石、火矢、ファイアポッドなどがある。特にファイアポッドと呼ばれる点火装置は強力で、これを搭載した船にラム戦を仕掛けられてしまうと、狙われた船は火達磨になってしまう危険があった。

古代の戦いなので、相手の船に白兵戦を仕掛けて戦う方法もある。アイアン・ハンドやコーブスといった特殊な装備を使えば、敵船を捕捉しやすくなる。

他に帆走やオールによる攻撃等もルールもあり、この時代の海上戦闘を余すところなく再現している。

アクティウム(BC31)

今回プレイしたのは、シナリオ9「アクティウム」である。ローマ内戦での戦いで、カエサル亡き後カエサルの息子であるオクタヴィアヌス(以下、ローマ軍)とクレオパトラと同盟したアントニウス(以下、エジプト軍)の間で戦われたアクティウムの海戦を扱っている。

写真02_Actium


実際の戦いでは両軍わせて数百隻のガレー船が戦ったとされているが、ゲーム上では、ローマ軍19隻、エジプト軍15隻が登場する。今回は参加者が7名であり、ローマ軍4名、エジプト軍3名とした。筆者はエジプト軍最右翼を担当した。麾下の兵力は、中型船Quadreme(クラス4)が2隻、Quinquereme(クラス5)が3隻の計5隻である。
なお今回のプレイでは、主催者であるKさんの用意された素晴らしいミニチュア船を利用しての対戦となった。Kさん、ありがとうございます。

写真03


数に勝るローマ軍による包囲を避けるため、我が艦隊は右に変針。敵の頭を抑えるべく機動する。

写真04


そして再び左へ変針。そのままの速度で敵艦隊と正面から激突する。次々と衝突する両軍艦隊。

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激しく戦う両軍艦隊であったが、ローマ軍は、より大型のCt Octares(クラス8)やCt Hepteres(クラス7)である。さらに船乗りの練度でもローマ軍がエジプト軍に勝っていた。筆者麾下のエジプト軍は苦戦を余儀なくされる。

決定的だったのは、ローマ軍の装備する各種新兵器である。特に強力だったのは船首部に搭載されているファイアポットで、これによりラム戦を仕掛けられたエジプト軍の軍船は次々と炎上していった。

写真06


最終的には筆者麾下のエジプト軍は敵船を1隻も沈めることなく全滅。他の戦線で数隻のローマ船を撃沈又は拿捕したものの、全般的な戦況はエジプト軍に非であった。下図はエジプト軍最後の1隻がローマ軍の4隻に包囲されて左右からラム攻撃を食らっている所である。

写真07


感想

惨敗である。敵を1隻も沈めることができず、こちらは全滅してしまった。軽巡で巡洋戦艦に突撃を仕掛けるようなマネをすればこうなる筈だが、正面から突っ込んだのは我ながら無策だったとしか言い様がない。
敵の裏をかくことを諦めて正面から突っ込むという考えは悪くない。ただ、あまりに正直過ぎた。船の大きさが勝敗の決定的な要素になることがわかっていれば、もう少し賢く振舞うことができたかもしれない。例えば敵の主力に仕掛けるふりをして逃げるなど・・・。うーん、ちょっと消極的過ぎるかな?
それにしてもローマ軍の装備は凶悪である。エジプト軍の兵器は投石機と投石兵のみ。なんとか接近戦・白兵戦に持ち込むことができればチャンスがあったかもしれないが、船乗りの練度でも劣っているのでそれもまた難しい。エジプト船が勇躍突撃しラム戦を仕掛けた所で、ローマ船が装備するファイアポットで火を付けられて、あちらこちらでエジプト船が炎上する。これでどないせえちゅうねん?。
まあ史実でエジプト側が大敗した海戦なので仕方がないが。

ゲームとしてみた場合、古いゲームなので粗削りな部分もある。ルールにも曖昧な所があり、今回は火災消火ルールで少し揉めた。詳細はここでは書かないが、火炎攻撃はローマ船の主戦術になるだけに、火災ルールの曖昧な部分は明確化しておきたい所だ。システムもシンプルなプロット方式なので、こういうシステムが面倒だと感じる人がいるかもしれない。
ただし筆者個人的にはこの手のプロット方式は嫌いではない。敵船の動きを予測し、自船を操るのは船乗りになった気分である。さらにWW2の水上艦とは違って兵器の射程が短いので、位置取りがより重要になる。同じAHの帆船ゲームWooden Ships & Iron Men(WS&IM)も名作であったが、このTriremeもWS&IMに通じる面白さがあった。
テーマ的にも古代における海戦というのは面白く、最近ではローマ時代についても日本でメジャーテーマになりつつあるので、そういった意味では現在でも十分にプレイする価値のある作品だと思う。

筆者の学生時代、私のゲーム仲間がこのTriremeを絶賛していた。あれから30年以上の年月を経てようやく筆者も彼の主張を理解できたような気がする。

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