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1944年1月。ドニエプル川西岸に進出したソ連軍は、コルスン周辺のドイツ第8軍の両翼を突破。そのまま後方に雪崩れ込み、ドイツ第8軍計6個師団を完全に包囲した。ソ連軍の新たな攻勢に対し、ドイツ軍も素早く反応し、第3装甲軍団、第47装甲軍団を主力とする部隊が、包囲下の友軍を救うべく攻勢を開始した。

The Jaws of Victory(以下、本作)は、1944年1月~2月におけるコルスン包囲戦を扱ったシミュレーション・ウォーゲームである。New England Simulations社が2020年に発表した作品で、1Turnが1日、1Hexが2マイル、1ユニットが大隊~師団規模になる。

今回、本作のシナリオ4「Operation Wanda」を4人でプレイすることになった。このシナリオは、ドイツ第3装甲軍団による突破作戦を扱っている。このシナリオはマップの西半分のみを使用し、Turn数は9Turn。登場兵力は、ドイツ側がコルスンポケット西半分の第42軍団、突破作戦の左翼を援護する第7軍団。そして突破作戦の主力である第3装甲軍団。ソ連側は第1ウクライナ方面軍麾下の第27軍、第40軍、そして第6戦車軍である。

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今回私はドイツ側救援部隊である第7軍団と第3装甲軍を担当することとなった。

前回までの展開は --> こちら

14Turn(2月7日)

Z_Maker_BridgeDemoドイツ軍が勝利するためには、何としてもGniloy Tikich川を渡らなければならない。何故なら残ったVP目標は全てGniloy Tikich川の北岸にあるからだ。とはいえ、大河川を渡河できるのは重装備を持たない徒歩部隊のみ。重装備を渡河させるためには、橋梁を占領するか、架橋する必要がある。

抜け目ないソ連軍は、Gniloy Tikich川に残っていた橋梁を次々と爆破していく。爆破成功率は通常は83%だが、鉄道橋は50%である。1つでも爆破に失敗していれば、万難を排してその橋梁を確保したい所だったが、ここではダイス目がソ連軍に味方した。Gniloy Tikich川に架かっていた橋梁はその全てが爆破されてしまう、ドイツ軍が重装備を川向うに渡すためには、破壊された橋梁を修理するか、あるいは専用の渡河器材を使って対岸に渡すしかなかった。いずれにしても、対岸のソ連軍を排除し、川の両岸をドイツ軍が支配する必要がある。

ソ連軍の守りが万全ならGniloy Tikich川を歩兵だけで渡河するのは相当困難になるはずだった。しかしソ連軍はコルスン包囲に兵力を割いていたため、川を守る兵力が十分ではなかった。その中でも川の流れが東から南に変わるShesterintsy(2526)には、対戦車砲部隊が1部隊で守っているだけであった。ドイツ軍にとってはチャンスである。

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ベーケ戦隊、第16装甲師団の歩兵部隊がShesterintsyを攻撃。奇襲的にここを占領した。あとは橋梁を修理するか、または渡河器材を使って川に橋を架けて、装甲兵力を川向うに送り込むだけだ。

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その後

GE_Bake_11Pz_D512このシナリオは全9Turnのシナリオなので、残りは2Turnである。ドイツ軍はGniloy Tikich川の北岸を1Hex占領する度に1VPを獲得できる。ドイツ軍の勝利ラインは4VPで、既にBuzhankaを占領して2VP確保済なので、あとはGniloy Tikich川の北岸を2Hex占領すれば良い。Shesterintsyは死守ルールを使えばまず確保できるので、あと1Hexだ。

一旦はShesterintsyの北1Hexを占領したドイツ軍だったが、その後に路面状態が凍結し(これまでずっと泥濘だったのに、ここに至って何で・・・)、そのためにソ連側も機械化部隊を総動員して猛反撃を開始する。そのためにShesterintsyの北を守っていた第16装甲師団は川向うに押し返されてしまう。

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結局は最終Turnに特殊渡河器材がShesterintsyに到着。これを使って川を渡った第1SS装甲師団の重戦車部隊が対岸のソ連軍を攻撃。その一角を突き崩してドイツ軍がギリギリで勝利条件を満足した。

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感想

RU_6Tk_5M_233_C514今回は2日間連続例会でのプレイで、プレイヤーは初日が4名(独ソ各2名)、2日目が3名(ドイツ2名、ソ連1名)だった。プレイ自体は2日目の13時前に終了した。セットアップを含めた正味のプレイ時間は12時間である。これだけ書けば比較的プレイし易そうにも思えるが、今回はあまり長考せずに早回しでプレイしたため、長考型プレイヤーが混じるとこの倍以上の時間が必要だろう。
さらに言えば、今回のシナリオは本作の中では中規模シナリオだ。大規模シナリオならマップ2枚構成となり、Turn数も増える。最長のフルキャンペーンでは最大25Turn、ドイツ軍の反攻から始まるミニキャンペーンシナリオでも18Turnなので、1Turnの所要時間を2時間としても(この数値はかなり楽観的な数値と思える)、プレイ完了まで50時間、36時間かかることになる。1日10時間という強行例会でも4~5以上を擁する計算だ。これは対戦プレイは事実上不可能で、VASSALによる遠隔対戦の方がまだ現実的に思える(本作を4日以上VASSALで付き合ってくれる物好きがどれほどいるかは不明だが)。

GE_3Pz_54A_20210ゲーム自体は非常に面白い。ルールは一見複雑だが、コツを覚えれば大したことはない。基本はSPI/TSRのOperation TyphoonやPatton's 3rd Armyの流れを汲む戦力チット方式。チットが戦力ステップの意味も兼ねているので、ユニットのステップ数は最大6と結構多い。そのため本来は「やられ役」のソ連歩兵師団であっても、本作では結構粘ったりする。
もちろん、今から40年以上前のゲームシステムをそのまま採用している訳ではなく、要所で改良が加えられている。まず一番の目玉である戦力チットだが、Patton等の特徴的であった差別化された戦力チットは、本作では部隊のレベルによって一律となった。だからチットの引きでユニットの強弱がつくことはなく、戦力チットの意味は、単に自身の戦力を敵から隠蔽するという意味のみになった。また(これは前作Killing Groundからも採用されていたが)、装甲部隊に戦車の性能差を示すドットが付けられたことだ。そして通常戦闘と同時に戦車・対戦車戦闘が実施され、これは戦力比率ではなくファイアーパワーで解決する。さらに戦車の性能差が通常戦闘のコラムシフトになるので、ドイツ軍のティーガー重戦車などは凄まじい突破力を発揮する(逆に何故か本作では米国製M4シャーマン戦車の評価が低い)。
そして一番の変更点は、戦闘解決方式がMust AttackからMay Attackに変更になったこと。これにより敵に接敵するのが容易となり、さらに戦闘解決に要する時間が大幅に短くなった。ただし、自身に隣接した敵スタックが攻撃目標になっていない場合、自身の攻撃力が半減したり各種効果が使えないといったデメリットがあるので、従来のソークオフ攻撃は有効である。

こういった様々なルールと改造によって、本作は極めてスリリングなゲームとなった。1940~42年の戦いのように装甲部隊が敵の弱点を突破して敵を大包囲、といった電撃戦ではなく、強力無比な装甲部隊が錐のように敵の戦線に穴を開けて突き破るといった感覚だ。ドイツ軍の強力な装甲部隊に対抗してソ連側の対戦車戦術も強化されているので、ドイツ軍装甲部隊も無傷では済まされない。こうして血を血で洗う1944年スタイルの電撃戦を楽しむことができる。

このゲームも機会をみつけて何とかキャンペーンシナリオをプレイしたいのだが、さてさていつになることやら・・・。

4号戦車_コルスン1944




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