かつてWargameを都会のおもちゃ屋さんで普通に購入できた時代があった。今から約40年前の1980年代のことである。大阪市の中心地にある阪急梅田駅は当時から現在と同じ場所にあったが、その梅田駅のガード下にある阪急三番街、その中にある「キディランド」というおもちゃ屋さんには、当時店頭に姿を見せ始めた国産のウォーゲームに混じって、AvalonHillやSPI、さらには魅惑的な箱絵であったヤキント社のゲームもずらりと並んでいたものである。「キディランド」は、京阪地区中高生ミリオタ達(当時ミリオタという言葉は勿論ない)にとって憧れの場所であったと思う。
店の中でとりわけ高級感の漂う一連のゲームがあった。いわゆるデカ箱と呼ばれているSPI社の高級ゲーム群である。Next War、NATO DIvision Commander、Operation Typhoon、Atlantic Wall等。当時でも1万円以上の価格であったこれらゲーム群は中高生の小遣いで手の届く代物ではなく、何か神秘的な雰囲気を醸し出していた。
あれから数十年。遂にその中の1作を実際にプレイする機会を得た。NATO Division Commander。ゲーム界の重鎮ジェームズ、ダニガンがデザインした現在戦ゲームで、西ドイツ中央部における米ソの対決を作戦戦術レベルで再現している。1Turnは8時間、1Hexは0.5マイル(約800m)に相当し、1ユニットは1個大隊を示している。
「NATO師団長」というタイトルのこのゲームは、タイトル通り師団長の活動を詳細に再現したSLGだ。基本的な部分だけを見ると、本作は大隊規模の作戦戦術級ゲームで、ZOCあり、ZOCからの離脱は原則禁止、移動中に攻撃実施、移動終了後のスタック禁止といったものだ。戦闘解決も1駒対1駒の戦力差方式。砲兵や航空機等もユニット化されておらず、全てポイント制である。基本システムだけを抜き出してみれば、作戦級ゲームとしてはシンプルな部類に入るかもしれない。「あの」SPIのゲームということで、超絶細かいシステムを予想していた筆者にしてみると、意外なほどシンプルなものであった。
が、しかし・・・
本作の「凄み」はそこではなかった。本作は移動、戦闘といった部分ではなく、その管理部分に焦点を当てたデザイン手法を採用していたのである。M60A3とT-72が撃ち合う場面を詳細に再現するのではなく、そのM60A3戦車大隊を実際に戦場に送り込み、敵と戦わせるために必要な管理活動を、これでもか、これでもか、というほど詳しく紹介しているのだ。
本作の中核を成すシステムがスタッフポイントである。これこそが師団長の管理能力そのものを示す数値で、特に重要なのが部隊の隊形変換。各ユニットは移動隊形や戦闘隊形など計13種類の隊形が用意されている。隊形によってユニットの移動力や戦闘力は大きく変わってくるが、例えば行軍隊形から攻撃隊形に変更するだけで多大なスタッフポイントを必要とする。スタッフポイントの総量は絶対的に不足していて、ユニットを常に適切な隊形に変更するに十分な量は全くない。だからプレイヤーは重点に絞って隊形変更するか、スタッフに過重労働を強いてスタッフポイントを捻出するか、あるいは各部隊の自主性に期待してダイスチェックに賭けるか・・・。なんにせよ、師団の運営という「事業」がいかに困難な事であるかをシステムを通じて再体験できるようになっている。さらにいえば、司令部自体もマップ上に置かれているので、司令部自体が砲爆撃や敵ユニットによる攻撃目標になりうる。敵の攻撃で司令部が潰されれば、スタッフの死傷その他によってタダでさえ少ないスタッフポイントが悲惨な事に・・・
情報戦に関するルールの詳細さも本作の特徴だ。盤上に敵ユニットが存在するとわかっていても、そこに砲爆撃を加えるためには索敵を行う必要がある。ここまで行くとまるで空母戦ゲームだが、極めつけはコントローラーゲーム。これは審判を導入したダブルブラインド方式で、偵察しなければ敵情は全く不明である。プレイヤーは偵察機を飛ばして敵を発見する必要があり、あとは自軍ユニットに隣接するヘクスしか見えない。ここまで来ると完全な空母戦ゲームだが、これはどちらかといえば教育用のルールで、実際の軍隊で使用することを想定しているように思う(第一、この方式だとコントローラーは超絶つまらない)。
隊形や疲労について詳しいルールがあるのも本作の特徴で、移動や隊形変更を行ったユニットは疲労レベルが上昇し、疲労を回復させるためには休息をとる必要がある。さらに敵の砲爆撃を受けたユニットは休息できない場合があるので、夜間の「嫌がらせ砲爆撃」が実際に効果を発揮することになる。
他にも電子戦や化学兵器、核兵器のルールもあり、複雑な現代戦の様相を余すところなく再現する。極めつけは師団長個人に関するルールで、これを導入すると師団長が戦況報告を聞かない限り、友軍が発見した敵の情報が師団長に届かないという事態も起こり得る。師団長による前線指揮、師団長の疲労、師団長の死傷などもルール化されているので、ここまで来るとまさに師団長ロールプレイゲームだ。師団長だけではなく師団の副官たちや麾下の旅団長、さらには大隊長の能力もレーティングされており、ここまで来たらもう立派な「師団長ロールプレイングゲーム」だ。面白いかどうかは別として・・・。
シナリオ
今回プレイしたシナリオは、シナリオ30.0「ジーゲンハイン攻囲戦」である。ソ連軍がフルダ峡谷西方のジーゲンハインに空挺降下作戦を実施し、それを米第8機械化歩兵師団が撃破に向かうというシナリオである。勝利条件は、ソ連空挺部隊が占拠するジーゲンハイン城塞の占領で、ゲーム終了時点でジーゲンハイン城塞ヘクスを占拠している側のプレイヤーが勝利する。ゲームの長さは9Turn、つまり実際の3日間に相当する。第4Turnにソ連軍第11親衛戦車師団がマップ東端から登場するので、米軍としてはそれまでにジーゲンハイン城塞を奪取しておきたい。それに成功すれば、勝利にぐっと近づくだろう。
今回のプレイでは、コントローラーを使用したダブルブラインド方式でプレイしてみた。これは米ソそれぞれに専門のプレイヤーを配し、専門のコントローラーが両軍の状況を見て必要な情報をプレイヤーに提示する、というものである。まさに図上演習を地で行くようなプレイスタイルだ。今回、筆者は米軍を担当した。
1Turn
このシナリオは、予めマップ上に配置されているソ連軍空挺部隊に対し、マップ西端から進入する米軍機械化師団が攻撃を仕掛けるという展開になる。通常の陸戦ゲームみたいにガッチリ前線を張るだけのユニットはもとよりないので、主要な交差点だけを押さえた拠点防御するような展開になるだろう。第1Turnの米軍は、ソ連側防衛ラインの弱点を探しつつ、それを拘束しながら主目標であるジーゲンハイン城塞を目指す。前線の2ヶ所でソ連軍空挺部隊との接触報告があった。索敵機動隊形の米戦車大隊がソ連軍空挺部隊を攻撃したが、ソ連空挺部隊の待ち伏せ攻撃を受けて2ステップを失う。戦車と空挺部隊との交戦と雖も、隊形が不整形、支援不十分な状態での攻撃は効果がないことを改めて教えられた。
そこで前線でソ連軍と接触した部隊は、ソ連軍部隊を拘束しつつその後方に回り込むことにした。このゲーム、指揮統制の部分はかなりモダンなシステムを採用しながらも、基本となる移動・戦闘の部分は妙にクラッシックである。NAWシステムよろしく一旦ZOCに拘束されたユニットは、原則としてZOCから離脱できないのだ。
つづく








コメント
コメント一覧 (2)
AHの「war and peace」とか「samurai」なんかをHJが正規販売始める半年以上も前にフライング気味に直輸入してみたり、SPIの「ww3」デザイナーズエディションがシレッと販売ブースに並んでいたり。
でもそういうブツに飛びついても、もちろん日本語訳なんてついてないので、当時の乏しい英語力では歯が立たず、分厚いルールブックを前にして何度も泣く羽目になりました。 買わなきゃいいのに(笑)。
もりつち
が
しました