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「NATO師団長」というタイトルのこのゲームは、師団長の活動を詳細に再現したSLGだ。基本的は大隊規模の作戦戦術級ゲームだが、そこにスタッフ管理や情報、部隊運用等に関する詳細なルールが加わることで、まさに「師団長ロールプレイングゲーム」とも言うべき難解なゲームとなっている。

今回プレイしたシナリオは、シナリオ30.0「ジーゲンハイン攻囲戦」である。ソ連軍がフルダ峡谷西方のジーゲンハインに空挺降下作戦を実施し、それを米第8機械化歩兵師団が撃破に向かうというシナリオだ。さらに今回はコントローラーを使用したダブルブラインド方式でプレイしてみた。専門のコントローラーが両軍の状況を見て必要な情報をプレイヤーに提示するという、まさに図上演習を地で行くようなプレイスタイルだ。

今回、筆者は米軍を担当した。

前回までの展開-->こちら

写真02

2Turn

攻略目標であるジーゲンハイン要塞付近に航空偵察を行い、ソ連軍の布陣を確認した。予想通りソ連軍は降下してきた2個空挺連隊のうち、1個連隊をジーゲンハイン要塞の守備に回していた。米軍は麾下の3個旅団のうち、1個旅団をマップ北端の警戒のために展開し、残り2個旅団をジーゲンハイン要塞に向けた。
下の写真は第2Turnの米軍Turn終了時点での米軍マップ状況である。ソ連軍についての情報はコントローラーが与える索敵情報に基づいている。ソ連軍のマップには、実際のユニットが配置されていることだろう。

写真03


3Turn

夜になった。米軍部隊は休息をとるべく活動を停止する。しかしそのような米軍部隊に対してソ連軍の砲火が降り注ぐ。「空挺部隊のくせに、なんでそんなに砲撃支援があるんだよ?」と思いたくなるような猛砲撃だ。お蔭で米軍部隊の約半数が安眠妨害されて疲労レベルを回復させることができなかった。幸いなことに、ジーゲンハイン城塞への主攻撃を担当する米戦車大隊は砲撃を免れていたため、安眠を妨げられることはなく、翌朝気分よく目覚めることができた。

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4Turn

このTurn、ソ連軍第11親衛戦車師団が盤外から登場してくる。米軍としては何としても彼らが戦場に辿り着く前にジーゲンハインを占領し、守りを固めておきたい。これまでの経験でこのゲーム、攻撃側に厳しく防御側に優しい。一旦米軍の機械化歩兵大隊がジーケンハインの城塞を占拠し、そこに布陣すれば、いかに強力なソ連戦車部隊と雖も、それを奪回するのは容易ではないだろう。

攻撃に先立ち、敵戦線背後に進出していた米機械化歩兵大隊が後方のソ連軍司令部を襲撃する。空挺師団司令部を蹂躙した機械化歩兵旅団は、他の部隊と共同でジーケンハインを守るソ連空挺部隊を孤立化させた。これでお膳立ては整った。

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ジーケンハイン前面に布陣した米軍部隊がジーケンハインの城塞に猛攻撃を加える。後方を遮断されたソ連軍空挺部隊は、友軍の支援を欠いた状態で、それでも孤軍奮闘する。中世の城塞を利用したジーケンハインの守りは固く、最初の米戦車大隊による攻撃はソ連空挺部隊に大損害を強いたものの、城塞そのものを奪取するには至らなかった。

しかし勇敢なソ連空挺部隊による抵抗もここまでだった。引き続いて攻撃してきた米機械化歩兵大隊の攻撃よりさしもの空挺部隊も壊滅。ジーケンハインの城塞は米軍の手中に帰した。

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「よし、これで勝った」
米軍プレイヤー(つまり筆者)は安堵した。しかしこれが誤りであったことはすぐに判明する。ソ連軍第11親衛戦車師団による猛反撃が始まったのだ。ソ連軍戦車は行軍隊形をとってマップに進入してくる。行軍隊形というのは移動力40になるという本作では最も移動力の大きい隊形である。ただし行軍隊形の場合、相手に攻撃されたら不利な修正が適用されるので、正直筆者はそれほど恐れていなかった。

が、それが間違いであった。

ソ連軍戦車部隊は、40という大移動力を利用し、マップの両端を大きく迂回してきた。道路上から敵がやってくるものと予想していた米軍は完全に虚を突かれた。ソ連軍戦車は米軍部隊のいない間隙を縫いつつ、米軍の後方に一目散に殺到する。そこには無防備な米軍司令部部隊が壱集していたのだ。まず第2旅団司令部がソ連戦車の蹂躙を受けて撃破される。さらに第1旅団司令部もまたソ連戦車の餌食となった。いくら行軍隊形とはいえ、司令部から見れば戦車は強敵だ。対抗できる相手ではない。しかも移動力40である。アウトバーンを使えばマップの端から端まで往復できそうな移動力なので、生半可な防御スクリーンでは止める術はない。他の陸戦ゲームの如く端から端まで戦線を張るか、あるいは司令部を一か所に集めてその周りを友軍部隊で守るしかない。とはいえ前者を行うようなユニット数は元より存在せず、後者についても護衛ユニットの不足や逆に1ヶ所に集まることの不利を考えると、とても採用できない。第一、そんなことをしたらこちらの攻撃戦力を捻出できなくなり、とても攻勢実施になんて覚束ないではないか・・・。

こうして呆然とする筆者の目の前で2個旅団の司令部が瞬く間に蹂躙され、このゲームでの米軍の勝利も消えた。

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感想

まずは今回のプレイをコントロールして頂いた2人のコントローラーに感謝します。プレイヤーが心地よくプレイできるように様々な準備をして頂き、しかもプレイ中は膨大な作業をこなしていただいたコントローラーの方々には本当に感謝したい。

といいつつゲームの話になると、やはり古いゲームということもあり、手放しでは評価できない部分があったのもまた事実だ。細かい点は書かないが、作戦情報レベルの扱いやソ連軍の行軍隊形攻撃などは見直す余地があると思う(後者については、それこそソ連軍らしい縦深攻撃だ、という意見もあるかもしれない)。

システム的にもスタッフの扱いが細かすぎてもう少しシンプルにできないかと思う部分もあった。その一方で実際の戦闘場面はシンプルで、NAWシステムかと思うほどシンプル。このあたり、あえてミリオタする部分を軽く扱ってミリオタを嘲笑するような所が実にSPI的とは思うが、セールス的にはあまり受けないだろう。その点でいえば、本作と同様に司令部の能力を重視した作品であるAir & Armorの方が、上手くデザインしていると思える(後発なので当然ではあるが)。

情報処理システムについても自身の航空偵察や通信能力を作戦情報レベルの上昇とセクター索敵に分割するというルールがあるのだが、これも何を表現しているのか今一つピンと来ない。時間の経過と共に戦っている敵の正体が判明してくるということを表現したいのかもしれないが、直線的に情報量が増加するというのは変に感じる部分だ。

全体的なバランスについても疑問がある。ユニット数に比して戦線が広すぎて戦線を張り切れないのだ。また司令部の重要性に比して防御力が低すぎて、「ゲーム的に」戦うのなら大移動力を利用して敵戦線後方を狙い、司令部を潰した方が勝ち、という展開になりがちである。これはプレイヤーの技量の問題もあるかもしれないが、ゲームとしてアンバランスな感は否めない。

とまあこんな感じで、このゲーム、単純にゲームとして評価すると決して「不朽の名作」として手放しに評価できるものではない。むしろ欠点が目につき、ゲームとしては「欠陥品」と評して良いかもしれない。
とはい指揮統制に重点をおいてここまで詳細にデザインしたゲームは他にはなく、ある意味で究極のウォーゲームの一形態と言うこともできる。今では入手困難な作品であり、プレイする機会も少ないとは思うが、もし機会があれば是非プレイしてみて欲しい。筆者自身も機会があれば再戦したいと思っている。

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