PacWar


「Pacific War」(以下、本作)は、2022年に米国GMT社が発売したSLGである。テーマは太平洋戦争全域で、1941年12月に始まる太平洋戦争を、1戦略Turn=1ヶ月、1Hex=約100マイル、1ユニット=大隊~軍(基本は師団)、主力艦1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦以下数隻、航空機は1ユニット=十数機~約100機というスケールで再現する。

本作は元々は米国Victory Games社が1985年に発売した作品を2022年にデザイナ―自らがリメイクした最新版である。リメイクにあたって基本的なシステムは変更されていないが、いくつかのシナリオが追加され、シナリオの内容にも手が加えられた。潜水艦ルールは大幅に改定され、その他ユニットレーティング等にも手が加えられたという。

本作は太平洋戦争全体を描いたビッグゲームであり、フルキャンペーンシナリオ(1941年12月~終戦までをプレイ可能)の所要時間は約100時間となっている(実際にはもっと時間を要するかもしれない)。しかし本作には多数のシナリオが用意されており、短いものでは15分程度で終わるものもある。本作のシナリオは4段階の構造になっていて、一番シンプルなものがEngagement Scenario。これは真珠湾攻撃の攻撃場面やウェーク島上陸の上陸戦闘等、個々の戦闘場面に特化したシナリオになっている。次のレベルはBattle Scenario。これは珊瑚海海戦やミッドウェー海戦等、1つの作戦を描いたシナリオで、例えば珊瑚海海戦シナリオの場合、日本軍のポートモレスピー攻略部隊や機動部隊の出港から基地への帰還まで描いている。次のレベルはCampaign Scenario。これは数ヶ月に及ぶ戦役を扱ったシナリオで、ガダルカナル島攻防戦やソロモン進攻作戦等といった一連の戦役を描いている。そして最後のレベルがstrategic Scenarioで、これは戦争全域、戦争全体を扱ったシナリオになっている。

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今回プレイしたシナリオは、Campaign Scenarioの1つであるガダルカナル攻防戦。これは1942年8月における米軍のウォッチタワー作戦開始から翌年2月の日本軍によるガダルカナル撤退直前までの約半年間に渡る戦いを扱っている。筆者は連合軍を担当した。

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基本システム紹介

本作は複雑な太平洋戦争を詳細かつプレイ可能なレベルで描くため、ユニークな時間管理システムを採用している。一般的なSLGで利用しているTurnの概念は一応用いられているが、Turnが階層構造になっていて一見しただけでは理解しにくい。そこで本作の時間管理システムを簡単に紹介したい。

まず本作における時間管理の一番大きい単位は「戦略Turn」と呼ばれるものである。1戦略Turnは実際の1ヶ月に相当する。戦略Turnの中に「作戦実施プレイヤー決定フェイズ」というものがある。この時、両軍はそれぞれ密かに指揮ポイントの入札を行い、入札したポイントの大きかったプレイヤーが作戦実施者となって作戦を開始する。

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作戦が始まると、作戦の期間によって異なるものの概ね14~28日の作戦期間が与えられる。そして決められた作戦期間を終えて、作戦期間分だけ日付マーカーを進める。作戦が終了すると、両軍は再び指揮ポイントの入札を行う。そして入札値の大きい方が作戦実施者となり、14~28日の作戦を実施する。

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ちなみに本作では1ヶ月の長さが31日と決められている。だから1ヶ月に複数回の作戦を実行すると、作戦が終了する前に月末を迎える場合がある。この時はどうなるのか?。

作戦中に月末を迎えた場合、作戦を一旦中断し(作戦終了ではない)、新しい月における戦略Turnの手順を進める。そして戦略Turnの手順を終えると、先ほど中断していた作戦を再開するということになる。だから必ずしも戦略Turnが作戦開始の期日と一致するとは限らない。ただし例外として月の途中で作戦実施者を決定する際、両軍とも指揮ポイント入札にゼロポイントを入札した場合、月は直ちに終了し、次の月の戦略Turnに進む。

このあたりの手順が複雑なのでルールブックを読んだだけでは理解し難い面がある。またこのシステムにはちょっとしたバグがあり、劣勢側が作戦期間をずるずる引き延ばすことで優勢側の作戦期間を意図的に短くするような裏技がある。このあたり、例えば指揮ポイントを残したまま月末を迎えた場合、日付を巻き戻す(タイムマシーンのような)ルールが必要かもしれない。タイムマシーンといえば違和感があるが、例えば同時進行的に行われた作戦を個別に解決しているんだ、と強弁すれば、一応筋が通りそうにも思う。
ちなみにこのバグはVictory Games版の頃から存在しており、今回のGMT版では作戦期間の延長に縛りを設けて対応を図っている。これによってバグの影響はある程度緩和されたものの、完全に消えている訳ではない。

作戦の進め方だが、まず作戦実施側が作戦に参加するユニットを活性化し、必要な指揮ポイントを消費する。この時消費する指揮ポイントは、作戦実施者決定時に入札した指揮ポイントと同じにしなければならない。その間、非作戦実施側プレイヤーは、ダイスを振って密かに迎撃態勢を決定する。迎撃態勢には、「奇襲」「迎撃」「待ち伏せ」の3種類があり(連合軍側だけは特別に「空母待ち伏せ」という4番目の迎撃態勢がある)。奇襲が迎撃側にとって最悪で、待ち伏せが最良の結果である。

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作戦実施側は、その後「接触フェイズ」というものを行う。これは麾下のタスクフォースを1Hexずつ移動させる行為で、移動する度に敵の偵察によって発見される可能性がある。接触フェイズでそれぞれのタスクフォースが移動できるヘクス数に制限はないが、移動したHex数に応じて日付マーカーが進められる。例えば5Hex移動した場合には日付が2日進み、12Hex移動した時には5日進むといった具合。非活性化プレイヤーは特定条件を満たすと接触フェイズを終わらせる権限がある。非活性化プレイヤーが接触フェイズを強制終了させるか、または活性化プレイヤーが接触フェイズを自主的終了させると、接触フェイズは終了する。

続いて非作戦実施側プレイヤーが麾下のユニットを活性化させ、接触フェイズを実施する。接触フェイズで移動できるHex数は作戦実施側プレイヤーの移動Hex数と迎撃態勢によって決まる。例えば迎撃態勢が迎撃の場合、非作戦実施側の接触フェイズでの移動Hex数は最大で作戦実施側の移動Hex数と同じになり、迎撃態勢が奇襲の場合は非作戦実施側は接触フェイズで一切移動できない。なお非作戦実施側の接触フェイズに対し、作戦実施側プレイヤーは索敵を行い、もし発見に成功すると、その時点で接触フェイズを終了させることができる。

両軍の接触フェイズが終了すると、戦闘サイクル(Battle Cycle)に移行する。戦闘サイクルは1サイクルが実際の2日間に相当し、両軍のタスクフォースがお互いに移動しながら、航空攻撃、砲撃戦、対地砲撃等を繰り返す。このあたりの手順は一般的な作戦級海戦ゲームと同じである。

そして決められた作戦期間(14~28日)を経過するまでに洋上のタスクフォースは自軍港湾に引き返す必要がある。もし港湾に辿り着けなかった艦船は、追加の指揮ポイントを支払って強引に作戦期間を延長するか(この作戦期間延長ルールが先に述べたバグの根源になっている)、あるいは最悪その場で自沈となる。作戦期間14日というのは思いの外短く、何の計画もなしに洋上をウロウロしていると、あっという間にガス欠で海の藻屑になってしまう。

このように本作は戦略級ゲームでありながら作戦級ゲームの色合いを強く持った作品であり、陸海空の兵力が絡み合う複雑な太平洋戦争を巧みに表現している。ちょっとしたバグが気になる所だが、それでも本作は魅力に満ちた作品であることは疑いない。

つづく



Game Journal 77-ガダルカナル 海空戦南太平洋1942
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