PacWar


「Pacific War」(以下、本作)は、2022年に米国GMT社が発売したSLGである。テーマは太平洋戦争全域で、1941年12月に始まる太平洋戦争を、1戦略Turn=1ヶ月、1Hex=約100マイル、1ユニット=大隊~軍(基本は師団)、主力艦1隻、巡洋艦2隻、駆逐艦以下数隻、航空機は1ユニット=十数機~約100機というスケールで再現する。

今回プレイしたシナリオは、Campaign Scenarioの1つであるガダルカナル攻防戦。これは1942年8月における米軍のウォッチタワー作戦開始から翌年2月の日本軍によるガダルカナル撤退直前までの約半年間に渡る戦いを扱っている。筆者は連合軍を担当した。

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1942年9月

9月6日、9月最初の作戦で主導権を握ったのは日本軍であった。ラバウルから重巡、軽巡、駆逐艦に護衛された3個大隊の上陸部隊がガダルカナル島に近づいてくる。ガダルカナル島には既に米海兵隊の基地航空部隊が進出していたが、ラバウルから飛来する日本機の迎撃に忙しく、接近してくる日本艦隊を攻撃する余裕がない。もっとも、微々たる兵力しか持たない在ガダルカナルの米海兵航空部隊が、強力な日本艦隊相手にどこまでダメージを与えられたかは甚だ疑問があるのだが・・・・。

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日本艦隊の接近を知った米艦隊は、直ちにヌーメアから空母部隊を出撃させる。しかしこの時の米艦隊の諜報状態は最悪の「奇襲」であったため、米空母の出撃は後手に回ってしまう。どうせ艦隊を出撃させても間に合わないのだから、ここは日本軍の好きにさせておいて、後に主導権を取り返して反撃した方が得策だったかもしれない。

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日本艦隊は、米潜水艦の攻撃をものともせずガ島近海に突入した。日本艦隊の艦砲射撃によって、頼みの綱である米海兵師団がまさかのモラル崩壊(確率10%)を起こしてしまう。これはヤバイ。士気の大小が大きくものをいう本作の陸上戦闘において、士気崩壊は致命的ともいえる。幸いにも日本軍が上陸戦で最悪の目である9を出してしまったので米海兵隊の士気阻喪は致命傷とはならなかったものの、それでも日本軍3個大隊によるガダルカナル上陸を許したことは痛恨の極みであった。

日本艦隊が去った後、ようやくガダルカナル南東海域に近づいてきた米機動部隊がガ島上空に攻撃隊を放つ。上陸戦に生き残った海軍陸戦隊相手に爆弾の雨を降らせるも、海軍陸戦隊はモラルチェックに耐えて元気ハツラツ。モラル崩壊した米海兵隊との対比が辛い。

日本軍の作戦が終わったのが9月21日である。ただちに米軍も作戦を発動。ヌーメアから第2海兵連隊を積載した輸送駆逐艦(APD)に重巡、駆逐艦等の護衛を付けて出撃させる。輸送船団はガダルカナル近海で日本潜水艦の雷撃により輸送駆逐艦1隻を失うも、残った兵力は無事ガダルカナル上陸に成功した。

上陸した米海兵連隊はただちに日本軍の守備隊を攻撃。この攻撃は兵力差もあって成功し、日本軍の守備隊は撃破された。

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上陸作戦や地上移動に伴う強制攻撃の発生は、GMT版で大きく改正された部分である。このあたり英文ルールを慎重に読み進める必要がある。筆者が理解した所によれば、地上部隊と戦闘との関係は以下の通りである。
 (1)元々両軍の地上ユニットが同一Hexに存在していて、活性化した地上ユニットが存在する場合は、2つの選択肢がある。1つはそのまま攻撃を実施しBCMを1つ消費すること。もう1つは戦闘しない代わりに活性化した地上ユニットはその場で非活性化状態になること。
 (2)敵地上ユニットしか存在していないHexに活性化した地上ユニットが進入した場合は、戦闘実施が義務
 (3)既に敵味方の地上ユニットが存在しているHexに活性化した友軍地上ユニットが進入した場合は、攻撃する・しないは活性化した側が選択できる。ただしいずれの場合もそのHexに進入したことによるBCM消費が発生する。
ここまでなら問題ないのだが、31.1E項でこのような不気味な文言が出てくる。
「もしいずれかのプレイヤーが強襲上陸作戦を実施した場合、攻撃が義務付けられる」
(If either side is conducting an amphibious assault in a hex, that player’s units must attack regardless of whether the assaulting units belong to the Operation or Reaction player.)

ここで問題になるのは「強襲上陸」の解釈で、23.8.3項によれば、「敵ユニットが存在するヘクスに下船する場合は全て強襲上陸になる」とされている。もしこの解釈通りなら、ガダルカナルに「下船」する部隊は全て「強襲上陸」を行うことになってしまい、特に兵力に劣る日本軍は増援を送り込むことすらままならなくなってしまう。

この点については、Board Game Geek等でも議論されており、既に友軍の存在するHexに下船する場合は上陸戦闘扱いせずに強制攻撃を免除した方が良いのではないか、という意見が多かったように思う。実は筆者もその意見に賛成で、既に友軍が存在するHexに「下船」する場合には上陸戦闘扱いではない方が良いように思う。
この点については、特にガダルカナルシナリオにおいては重要な部分であり、可能なら事前に対戦相手と調整した方が良いと思う。

追記:その後の調査で、上記についてはエラッタがあり、既に味方ユニットが存在するHexへの揚陸時は強制戦闘にならないことが判明した。


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1942年10月

このTURN、日本軍は指揮ポイント65点を得る。史実での「10月攻勢」があった時期で、本シナリオでは日本軍にとって最大規模の攻撃が可能になる。ちなみにその後の指揮ポイントは、11月=30p、12月=15p、1月=15pで、ジリ貧になっていく。

この時期、日本軍は当然の如く大攻勢を発動した。空母6隻、駆逐艦6ユニット(36隻)に護衛された輸送船団がトラック環礁を出撃する。輸送船団には第2師団が乗船しており、さらに精鋭1個大隊、工兵2個大隊が駆逐艦に分乗している。

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この月、連合軍の諜報組織は最悪の状況にあり(4段階のうち最低のレベル1)、迎撃態勢は奇襲になった。米潜水艦が日本艦隊を発見したのはガダルカナル北北西100マイルまで近づいた時であり、既に迎撃の機会を失していた。

日本空母から攻撃隊が発進し、ガダルカナル島を襲う。迎撃戦闘機がこれを迎え撃つが、数と練度に勝る日本空母機の敵ではなく、カクタス飛行隊は大損害を被ってしまう。

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夜になって日本艦隊がガダルカナル島に接近し、激しい艦砲射撃を加えてきた。一度は士気回復した米第1海兵師団が、この艦砲射撃によってまたもや士気阻喪してしまう。えーい、士気値8で本作最強の米海兵隊が情けない。

そして日本軍第2師団がガダルカナルに上陸する。彼らは無事上陸に成功し、島内に橋頭保を築いた。作戦を終えた日本艦隊はガダルカナルから撤退していく。それを米潜水艦が待ち伏せする。空母「翔鶴」「瑞鶴」にそれぞれ魚雷1~2本を命中させたが、両艦共撃沈するには至らず。対空砲火と合わせてレベル2のエリート航空部隊に4ステップ(約60機)を失わしめたのが唯一の戦果であった。

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感想

今回のプレイで一番意識したのは、Victory Games版との比較であった。
まずシナリオについては、指揮ポイントのスケジュールが変更になった。全体的には利用可能な指揮ポイントがやや増えた。これは嬉しい改訂だと思う。従来のVictory Games版では、利用可能な指揮ポイントが少なすぎて史実とはかけ離れた規模のショボい部隊しか運用できなかった。現行版でも指揮ポイントが少なめなので史実規模の作戦実施は難しいが、少しは「裕福な」作戦が実施できるようになった。

ルール的には潜水艦ルールが大きく変わった。本文でも触れたがVictory Games版の潜水艦ルールは個人的に全然評価していなかったので潜水艦ルールの改訂は歓迎すべきところだが、今回の改訂ルールでも潜水艦はまだまだ強力過ぎるように思える。この辺りはキャンペーンシナリオで再評価したい所だ。

それからVictory Games版の違いで大きい点は、新たなシナリオだ。Victory Games版では、戦闘シナリオ5本、作戦シナリオ8本、キャンペーンシナリオ6本、戦略シナリオ2本だったが、現行版ではそれぞれ8本、12本、9本、5本と大幅に増えている。中でもインド洋作戦を扱った作戦シナリオ「Indian Ocean Adventure」、中部太平洋方面での米機動部隊の反攻作戦を扱ったキャンペーンシナリオ「War in the Central Pacific」、そして1942年半ばからスタートする戦略シナリオは興味深い。機会があればプレイしたい所だ。

Victory Games版オーナーにとってGMT版を購入するかどうかは微妙な所だが、価格的には2万円弱とコンポーネントの規模に比して比較的安価なので、購入しても損はないと思う。



Carrier Battle - Philippine Sea 海空戦南太平洋1942
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