黒い家
貴志祐介 角川ホラー文庫

本書を四半世紀ぶりに読み返した。結論から言えば、やはり面白い。そしてその「面白さ」は、単なる懐かしさではなく、作品そのものの強度によるものだと改めて感じた。
1990年代後半という時代背景は、さすがに今読むとやや古さを感じる。携帯電話やインターネットの扱い、保険業界の描写など、現代とは隔たりがある。しかし、それは物語の核心をまったく損なわない。むしろ、舞台装置が多少変わろうとも、人間の本質は変わらないという事実を浮き彫りにしているように思える。
本書の恐怖は幽霊や怪異ではない。理屈も良心も通じない「人間」の存在そのものだ。善悪の基準を共有しているという前提が崩れたとき、社会的な制度や常識はどれほど無力になるのか。保険制度という合理的な仕組みが、逆に悪意の温床となり得るという皮肉も、今読んでもなお鋭い。
四半世紀という時間を経て再読すると、若い頃とは違う感覚もあった。当時はただただスリリングな展開に圧倒されていたが、今回は主人公の心理の揺れや、日常が侵食されていく過程の丁寧さにより強く引き込まれた。恐怖の描写が派手なのではなく、静かに、しかし確実に追い詰めていく構成の巧みさが際立つ。
そして何より、「人間の本質は変わらない」という実感が残った。社会は変わり、技術は進歩し、価値観も移ろう。しかし、欲望や悪意、そしてそれに対する恐怖は、時代を越えて普遍なのだと気づかされる。
再読に耐えるどころか、再読によってむしろ深みが増す作品だった。四半世紀を経ても色褪せないどころか、今なお読者の神経を静かに締め上げる力を持つ一冊である。
お奨め度★★★
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