正しい核戦略とは何か

ブラッド・ロバーツ/村野将訳 勁草書房

正しい核戦略とは何か 「核戦略」という言葉から多くの人がまず思い浮かべるのは、「いかに核戦争に打ち勝つか」「核兵器でどう相手を威嚇するか」といった、いささか物騒なテーマであろう。しかし本書は、そうした単純な図式に留まらない。「核兵器をなくし、核のない世界を実現すべき」という理想と、「核兵器の保有こそが安全保障の現実的な解である」という現実との間で揺れ動きながら、いかにして安全を担保しつつ核兵器のもたらす危険を減らしていくか――その難題に正面から取り組んだ一冊である。

本書のメインテーマは米国の核戦略である。対ロシア、対中国、対北朝鮮という三つの軸を念頭に、米国がどのような核戦略を採るべきか、また同盟国とどのような関係を築くべきかが体系的に問われていく。著者ブラッド・ロバーツはオバマ政権で国防次官補代理を務め、米国の核態勢見直しを主導した実務家であり、その筆致には政策立案の現場を知る者ならではの重みがある。

扱われる時間軸は、冷戦終結後からオバマ政権までである。米国がソ連という巨大な敵を失い、新たな脅威――地域核武装国、ロシアの再台頭、中国の軍拡――にどう向き合うかを模索した時代の記録として、本書は極めて貴重だ。

しかし、今あらためて読み返すと、本書の世界観はどこか楽観的に映る。著者の議論は緻密で誠実だが、ロシアのウクライナ侵攻における露骨な「核の恫喝」、米国・イスラエルとイランをめぐる軍事的緊張、止まる気配のない北朝鮮の核・ミサイル戦力の増強――これら近年の出来事を踏まえれば、世界は本書が描いた未来図よりもなお悪い方向へと進んでいるように思えてならない。

それでも、いや、だからこそ本書を読む価値はある。著者が前提とした世界よりも厳しい現実に直面している今、米国とその同盟国がどのような原則のもとに核戦略を組み立ててきたのかを知ることは、これからの日本の安全保障を考えるうえで欠かせない出発点となるはずだ。

お奨め度★★★


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