
『Thatcher's War』(以下、本作)は、1982年のフォークランド紛争を扱ったゲームである。本作は2017年にWhite Dog社より発売され、2024年にBonsai Gamesから日本語版も発売された。
982年に南大西洋で勃発したフォークランド紛争は、局地戦でありながら国際政治、軍事技術、世論の動向が複雑に絡み合った象徴的な戦争であった。アルゼンチン軍による奇襲的な占領に対し、イギリスは遠く離れた本国から大規模な遠征艦隊を派遣し、陸海空の三軍を統合した作戦によって島々の奪還を目指した。この紛争は、航空戦力の質と運用、補給の困難、厳しい天候、そして政治的圧力が戦局を大きく左右した点に特徴がある。
本作はこの複雑なフォークランド紛争をテーマとした一人用シミュレーションゲームであり、プレイヤーはイギリス軍の指揮官としてアルゼンチン軍占領下のフォークランド諸島奪還を目指す。デザイナーのベン・マディソンは史実の細部再現よりも、紛争の本質的な緊張感や戦略的選択をゲームとして体験できることを重視しており、政治的背景や文化的文脈にも触れつつ「戦略的可能性」を体感できる設計となっている。
ゲームシステムは航空戦、海戦、地上戦が密接に連動する構造を持つ。各ターンは天候決定から始まり、SASの特殊作戦、アルゼンチン航空団の行動、イギリス海軍任務部隊フェイズ、両軍の航空作戦および地上戦、さらに政治的影響や整備不良を処理する兵站フェイズへと進行する。天候によって航空作戦が完全に停止する場合もあり、プレイヤーは常に不確実性への対応を迫られる。またアルゼンチン軍の航空ユニットはプールからランダムに引かれるため、毎回異なる展開が生じる。さらにBBC世論レベルや外交といった非軍事要素も勝敗に影響し、紛争の政治性が強く反映されている。
スケール面では、戦略マップと戦術マップの二層構造で表現されている。戦略マップは南大西洋全域を扱い、海域ごとの航空・海上作戦を管理する。一方、戦術マップは東フォークランド島北部の地上戦を扱い、空域や進入ルート、キャンプの位置関係が地上部隊の前進に影響を与える。ユニットスケールは航空ユニットが小隊から数機編隊、地上ユニットが中隊から大隊規模、海上ユニットが単艦または任務群で表現される。1ターンは数日から1週間に相当し、全19ターンで紛争全体を再現する構成となっている。
第1Turn(1982年4月25-30日)
いきなり悲劇が英艦隊を襲った。レーダーピケット任務に就いていた駆逐艦「シェフィールド」にフランス製エグゾセ対艦ミサイルが命中。「シェフィールド」は炎上し沈没する。いきなりの大損害でBBCレベルが一気に爆下がり。やばいよ、これは。第2Turn(1982年5月1-3日)
天候が悪化したため航空戦は起こらなかった。英軍特殊部隊SASがグースグリーン飛行場を襲撃。駐機しているプカラを撃破した。米国がサッチャー政権を全面的に支援する。強襲揚陸艦「イオージマ」がアセンション島に進出し、英空母のバックアップにつく。さらに新型サイドワインダーAIM-9Lが新たに配備され、英空軍のハリアーGR.3がフォークランド周辺に進出した。
第3Turn(1982年5月4-6日)
またもや英艦隊に被害が出た。駆逐艦「グラスゴー」にエグゾセが命中。「グラスゴー」も炎上の後、沈没してしまう。第4Turn(1982年5月7-9日)
このTurnは英軍にとって恵まれたTurnとなった。フォークランド西方の防空戦闘でアルゼンチンのグルボ2個を撃破。さらにチリからレーダー情報提供の申し入れがあった。第7Turn(1982年5月16-18日)
しばらく悪天候が続いていたが、ようやく見せた晴れ間を縫って、いよいよサンカルロス湾へ上陸作戦を敢行した。幸いアルゼンチン空軍機による妨害はなく、英軍は無事サンカルロス湾に上陸した。第8Turn(1982年5月19-21日)
サンカルロスに上陸した英軍部隊は3つのルートに分かれて進撃を開始した。一番北のルートを進んだ第3コマンド連隊の第45コマンド大隊は、アルゼンチン軍の1個連隊とニューハウス付近で遭遇。これを撃破してまずは地上戦での勝利を収めた。第9Turn(1982年5月22-24日)
徴用輸送船「アトランティック・コンベア」にエグゾセミサイルが命中した。搭載していたチヌーク部隊は半数以上が失われ、わずかに1部隊のみがサンカルロスに上陸した。第12Turn(1982年5月31日-6月2日)
イギリス軍が東フォークランド島をポートスタンレーに向けて前進する。南部戦線ではグースグリーンが陥落。中央戦線ではサイモン山を占領した。しかし地上部隊の苦戦や英保守党内の穏健派議員がサッチャー首相を批判し、BBCレベルが6まで低下してしまう。第13Turn(1982年6月3-5日)
補欠選挙で保守党が躍進し、そのためBBCレベルが13まで戻った。この勢いでポートスタンレーを奪回するぞ第15Turn(1982年6月9-11日)
英軍がいよいよスタンリーに近づいてきた。しかしアルゼンチン地上部隊の強烈な反撃を受けて英軍部隊は大敗を喫してしまう。これにより、一時は最高値にまで戻ったBBCレベルが、またもや10まで下落してしまう。第18Turn(1982年6月18-20日)
色々あったが、遂に英軍部隊がポートスタンレーに近づいた。この日、ローマ法王がアルゼンチンを訪問し、戦時ムードに一時水を差された。しかし英軍はそのような動きを無視してポートスタンレーを強襲する。海上からは英駆逐艦「コベントリー」が援護射撃を行う。陸上基地からアルゼンチン軍最後のエグゾセミサイルが発射されたが、「コベントリー」はチャフでミサイルを回避し、目標を失ったミサイルは海に落ちた。艦砲の支援を受けた英軍は2ヶ所から攻撃を実施。成功率は必ずしも十分ではなかったが、2ヶ所とも英軍は攻撃に成功。これによりポートスタンレー包囲を成し遂げた英軍の勝利でゲームは終了となった。
ちなみに、時間切れまでの残り時間は、あと1Turnであった。
感想
本作はゲームとして非常に興味深く、全体として高い完成度を持つ作品である。海戦および航空戦の処理は一定程度抽象化されており、煩雑さを抑えつつテンポよくプレイできるよう工夫されている。一方で、エグゾセミサイルの残弾数管理といった要素は比較的リアルに再現されており、適度な緊張感と史実的な重みをプレイヤーに与えている点が印象的である。また、フォークランド紛争を題材としたゲームは数多く存在するが、本作は適度な抽象化と高いゲーム性を両立している点で、同テーマの作品群の中でも完成度の高い一作であると評価できる。
さらに、ゲーム全体の構造は繰り返しプレイによる多様な展開を強く志向したものではなく、プレイ体験はある程度収束する傾向にある。しかしながら、数回のプレイにおいては毎回異なる状況判断や選択を楽しむことができ、十分に満足感のある内容となっている。
総じて、本作は短〜中期的なプレイにおいて高い魅力を発揮する、バランスの取れた作品である。
[全体像]








