ソ連軍日本上陸!―第三次世界大戦・日本篇
久留島龍夫 二見書房
本書は、冷戦後期の1979年末という緊張感あふれる時代に書かれた日ソ仮想戦史であり、当時の「第三次世界大戦」への不安や想像力がそのまま封じ込められた作品である。二見書房の「第3次世界大戦シリーズ」の一冊として刊行された背景を踏まえると、単なる娯楽小説ではなく、当時の国際情勢を反映した“時代の産物”として読むことができる。
物語は、中ソ戦争の勃発を契機に、ソ連が日中友好を断ち切るべく日本本土へ侵攻するという大胆な設定で展開する。興味深いのは、全体の約3分の2が戦争前夜の政治・外交・軍事的な動きに割かれている点だ。侵攻の理由づけや国際情勢の変化、日本国内の反応などが丁寧に描かれ、単なる戦闘描写に終始しない“仮想戦史”としての厚みを感じさせる。
後半で描かれる日ソの戦闘は、新潟平野や中部山岳地帯を舞台に展開される。地形を踏まえた作戦運用や兵力配置の描写は意外なほどリアルで、現代の視点で読み返しても大きな違和感がない。1970年代末の軍事知識や戦略観に基づいているにもかかわらず、戦場の空気感や作戦の流れがしっかりと成立している点は、本書の大きな魅力だと感じた。
また、当時の日本社会に漂っていた「ソ連脅威論」や、米軍依存への不安、そして中ソ対立という国際政治の複雑さが作品全体に影を落としている。いま読むと、冷戦期の空気をそのまま吸い込んだような独特の緊張感があり、単なる架空戦記を超えて“歴史資料としての価値”すら感じさせる。
総じて本書は、1970年代末の国際情勢と軍事観を知るうえで非常に興味深い一冊である。戦争描写のリアリティだけでなく、当時の日本が抱えていた不安や危機意識を追体験できる点が魅力であり、今読み返しても新たな発見がある作品だと感じた。
お奨め度★★★