虚の伽藍
月村了衛 新潮社
本書は、バブル期の京都を舞台に、仏教界と闇社会との関わりを中心に描くフィクションである。主人公は、30代前の若い僧侶で、自らが属する宗派の腐敗に心を痛めている。
本書を読み終えて強く残るのは、主人公とその周囲の人々が、誰一人として幸福な場所へ辿り着けないという、救いのなさだ。京都の仏教界と闇社会の癒着という、逃げ場のない世界に足を踏み入れた瞬間から、彼らの運命はゆっくりと、しかし確実に崩壊へ向かっていく。
主人公は宗派改革という理想を掲げながら、正義のために悪を使うという危うい論理に飲み込まれ、気づけば自分自身が最も深い闇の中心に立ってしまう。その過程で、彼を支えようとした者、利用しようとした者、愛した者、憎んだ者――誰もが彼の選択の余波に巻き込まれ、破滅的な結末へと追い込まれていく。
特に印象的なのは、志方の周囲にいた女性たちの末路だ。 彼女たちは単なる被害者でも加害者でもなく、もともと内に秘めていた嫉妬、強欲、執念、承認欲求といった情念が、宗教界の権力構造と結びついたとき、凄まじい破壊力を発揮する。その情念は主人公の運命を狂わせるだけでなく、彼女たち自身をも破滅へと導く。
まるで、誰もが自らの内側に潜む闇に焼かれていくようだった。
最終的に、主人公は自らの理想も、信念も、人間関係も守れず、「何のためにここまで来たのか」さえ分からなくなるほどの喪失を味わう。彼の周囲にいた者たちもまた、主人公の選択と自らの情念の果てに、幸福とは程遠い結末を迎える。この徹底した救いのなさが、物語全体に重くのしかかり、読後に深い虚無感を残す。
『虚の伽藍』というタイトルが示すように、彼らが最後に手にしたものは、壮大な理想でも、宗教的救済でもなく、空虚な廃墟のような結末だった。 それでも、この破滅の物語は、人間の欲望と情念がどれほど強く、そして脆いものかを鋭く照らし出している。
お奨め度★★★