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「War and Peace」(邦訳:戦争と平和、以下本作)は、1980年に米国のThe Avalon Hill Game Co(TAHGC)から発表されたナポレオン戦争を扱ったシミュレーションゲームである。デザイナーは、Mark McLaughlinで、本作以外では30年戦争を扱った"Holy Roman Empire"や、太平洋戦争キャンペーン"East Wind Rain"等のデザインでも知られている。
今回、本作をVASSALでソロプレイしてみることにした。選んだシナリオは「解放戦争」。一般には諸国民戦争とも呼ばれる1813年の戦いである。

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シナリオV.解放戦争(承前)

8Turn(1813年11月)

このTurnから冬季になる。冬季は損耗チェックのダイス目にDRM+1が適用される。
フランス軍の手番。損耗フェイズのダイス目は6。フランス軍にとっては最悪の出目である。とはいっても冬季でDRM+1が適用されるので、5も6も変わらないのだが・・・。3戦力以上がスタックしている場所では1戦力、6戦力以上なら2戦力が失われる。損耗によりフランス軍は計10戦力を失った。
フランス軍は主力をエルベ川の西岸に後退させつつ、一部兵力で反撃を試みる。ライプチヒからさらに西へ進んで所謂「西ドイツ」領内まで前線不覚突出していたオーストリア軍別動隊をスールト将軍が攻撃してこれを撃破した。
その北方ではマグデブルグを奪回すべくナポレオン直卒の部隊がスウェーデン軍を攻撃した。指揮官の能力と部隊の士気で勝るフランス軍の勝利に終わり、ベルナドット率いるスウェーデン軍はエルベ川の東岸に追い出された。

連合軍の手番。損耗フェイズのダイス目は2。冬季なので3になる。損耗した兵力はなかった。
連合軍は兵力を結集してエルベ川に向けて進撃。ナポレオンの守るマグデブルグを攻撃する。全力で20戦力近い数を揃えて総攻撃を仕掛けてきた。しかしナポレオンの奮戦でフランス軍はマグデブルグ前面での攻勢を阻止した。なお、この戦いでフランス軍ヴィクトール将軍が負傷・退場していった。
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9Turn(1813年12月)

最終Turnである、フランス軍の手番。損耗フェイズのダイス目は5。冬季DRM+1が適用されるので修正後は6。フランス軍にとっては最悪の出目である。3戦力以上のスタックなら1戦力、6戦力以上のスタックなら騎兵を含む2戦力が昇天する。フランス軍は衛星国の分も含めて計6戦力を失った。
フランス軍は勝利条件を見据えた布陣を敷く。フランス軍にとって本シナリオの勝利条件は、「マップ3にある大都市を1個以上包囲されずに確保すること」とある。マップ3、すなわちドイツ一帯で1つでも大都市を保持すれば良い。フランス軍が目を付けたのは、西ドイツ、エルベ川西岸地区のカッセル。連合軍のスタックを見ると、2戦力以上ならオーバーランを食らう心配がないことがわかる(8戦力以上でスタックしているものはない)。そこで要所はカッセル周辺に2戦力と1戦力からなる5つの部隊を編制し、カッセルに隣接するヘクスにばら撒いた。カッセル周辺に展開したフランス軍の総兵力は8戦力(約4万)。その他の兵力を含めても総兵力は14戦力(イタリア方面除く)に過ぎなかった。これは正面に展開している連合軍兵力の約1/3に過ぎなかった。
対する連合軍。損耗フェイズのダイス目は4で、冬季修正適用後は5となる。連合軍は4戦力を失った。
連合軍は全線に渡って総攻撃を行う。兵力で劣るフランス軍は各所で圧倒され、多大な兵力を失った。しかしエルベ川の地形に拠り、また指揮官の能力に勝るフランス軍もまた善戦した。
結局連合軍はカッセルを取れなかった。勝利条件的にはフランス軍が勝利したことになる。しかし戦いが終わった時、西ヨーロッパに展開していたフランス軍の総兵力は僅か8戦力まで打ち減らされていた。
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結論にかえて

一連の戦いによる両軍の損害(戦闘、損耗、強行軍による)は以下の通りである。

フランス軍:正規兵64戦力、騎兵10戦力、親衛歩兵9戦力、親衛騎兵1戦力:合計84戦力

フランス衛星国軍:イタリア軍9戦力、ナポリ軍2戦力、バヴァリア軍5戦力、ライン同盟軍2戦力、サクソニー軍2戦力、ウェストファリア軍1戦力、ヴュルテンブルグ5戦力、デンマーク軍2戦力、ポーランド軍3戦力:合計31戦力

プロイセン軍:正規兵21戦力、騎兵2戦力、民兵10戦力、同盟国(ヘッセン)軍2戦力:合計35戦力

ロシア軍:正規兵27戦力、騎兵4戦力、親衛歩兵3戦力、親衛騎兵1戦力、コサック騎兵5戦力、同盟国(スウェーデン)軍4戦力:合計44戦力

オーストリア軍:正規兵7戦力、民兵7戦力、騎兵4戦力:合計18戦力

上記を合計すると、フランス軍は115戦力(約57.5万人)を失い、連合軍は97戦力(48.5万人)を失った。想像を絶する数である。

感想

今回、序盤は連合軍にとって苦しい展開となったが、その原因は序盤に勝利点と都市点をフランス軍に多く取られてしまったことにある。特に第1Turnに3個所の決戦に敗北し、ドレスデン、ライプチヒ、ベルリンといった拠点3個所を失ったのが痛かった。第6Turnの同盟フェイズで6の目を出してオーストリアの参戦を呼び込んだが、それがなかったらオーストリアの参戦を引き寄せることが最後までなかったかも知れない。
この戦いの後に振り返ってみたのだが、連合軍にとって第1Turnでのドレスデン、ライプチヒの陥落はほぼ不可避であると考える。そしてそれらの攻防戦で2点の勝利点をフランス軍に献上することもほぼ決定事項と言えよう。
しかし問題はベルリン攻防戦である。第1Turnにベルリンをフランス軍に明け渡す必要はないし、勝利点を与える必要もない。具体的言えば、ベルリンの周辺1ヘクスに3~4戦力からなるスタックで「壁」を作ってベルリンへのフランス軍の接近を阻止する。「壁」は1Turnしか持ちこたえられないが、フランス軍に勝利点を与えることはないし、ベルリンの占領も阻止できる。その結果、ベルリンとブレスラウは連合軍の手中に残るので、連合軍は都市点2点を手にする。フランス軍としてはベルリンに拘らず、Lubeckに集結している連合軍を叩いた方が有効であると感じる。これによってフランス軍は3点目の勝利点を獲得し、北方に対する連合軍の脅威を排除できるようになる。
この段階でフランス軍は勝利点3点、連合軍は都市点2点を獲得。DRMが-1なので、その状態を維持できればフランス衛星国の参戦が期待できる。しかし6月以降は同盟フェイズで連合軍に有利なDRMが適用される。そのためフランス衛星国の参戦は怪しくなる。2Turn以降は同盟フェイズで有利なDRMを得るため、都市点や勝利点を巡るフランスと連合軍との戦いが続くことになるだろう。
とまあ色々考えていると、このシナリオは結構バランス的にも面白く(連合軍が有利か)、かつ史実に近い展開になる面白いシナリオではないだろうか。

本作全体の感想だが、システム的にはシンプルで分かりやすい。テクニカルな面では、同盟ルールが適用される場合とされない場合(シナリオによっては同盟ルールを無視するものがある)で若干異なってくる。しかしそれも難しい内容ではない。要するに適度な「分進合撃」を心がけておけば良い。そういった意味では、本作はナポレオン戦争を扱った古典的な作品ながら、同時代の戦争をシンプルかつ的確に再現した良作だと評価できよう。

ただし損耗ルールがダイス一発で決まるのは如何なものかと思う。6の目を出して10戦力以上が瞬時に昇天したことには唖然とした。

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