190825高熱隧道


近代史における様々な事件を小説の形でまとまた吉村昭氏。彼の作品の1つが「高熱隧道」である。1936年から開始された黒部川第3発電所の建設は、難渋を極め、実に300名以上が犠牲になるという日本土木史上最悪レベルの難事業であった。特に仙谷谷と阿曽原の区間は、摂氏100度を超える高熱の岩盤を有する灼熱地帯で、そこを突破するトンネル工事は過酷そのものであったという。さらに泡雪崩と呼ばれる現象によって冬季宿舎が2度に渡って大損傷し(一度は雪崩対策を施した筈の鉄筋コンクリートの建物が約600m吹き飛ばされた)、それによって100名以上が命を落としている。
本書はそのような困難を極めた工事を小説の形を借りて表現したものである。本書の登場人物は架空の人物だが、そこで繰り広げられた出来事は史実に基づいたものであり、戦前期における土木工事の過酷な実態を我々に示してくれている。
読み物として読んでも勿論一級品だが、史実を考えるきっかけとしても良いだろう。

お奨め度★★★★