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Red Storm(以下、本作)は、2019年に米国GMT社から発売されたシミュレーションゲームだ。テーマは1987年における東西ドイツ上空における航空戦闘である。ご存知の通り、第2次世界大戦から凡そ半世紀に渡って繰り広げられた米ソ両大国による冷戦は、本物の戦争(熱戦)に発展することなく終結を迎えた。従って本作で扱っている東西両陣営による大規模な空中戦闘は発生せず、そういった意味において本作は「仮想戦」ゲームといえる。

今回は、3番目のシナリオ「RS3:First Strike」をプレイしてみた。開戦劈頭におけるWP軍によるNATO前線部隊に対する航空攻撃を扱ったシナリオである。WP側の戦爆連合編隊が最前線のNATO機械化部隊を攻撃。それをNATOの戦闘機と防空ネットワークが迎え撃つシチュエーションだ。このシナリオは、他のシナリオに比べると規模が小さく、それでいて本作による主要登場人物(戦闘機、対地攻撃機、SEAD機、SAM、対空火器など)が一通り登場するので、入門用として適していると考えた。なお、今回はVASSALによるソロプレイである。

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17Turn

RU_Su25_Sytov戦場に戻って来た米空軍のF-15Aが、爆撃進入コースに入っていたSu-25の正面からAIM-9Lによるヘッドオン攻撃を仕掛けた。1機のSu-25が至近直撃を受けて墜落する。他の2機は爆装を投棄してしまう。
別のSu-25に対しては英空軍のHarrier GR3が襲いかかる。しかし既に爆撃を終了し、身軽になったSu-25は思いのほか手強い。Su-25 1機が撃墜されたが、Harrierもまた1機が失われた。

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18Turn

US_F15_TacoF-15の編隊が攻撃を終えて帰路につくSu-24の編隊に襲いかかった。しかしF-15の攻撃は切れ味を欠き、1機のSu-24を撃破しただけでミサイルを撃ち尽くして戦闘終了となる。

19Turn

UK_Harrier_PostNATO側の最後の迎撃機であるHarrier GR3が攻撃を終了して離脱中のSu-25を襲う。Harrierの30mm機関砲がSu-25の1機を被弾損傷させたが、Su-25の反撃によって戦意を喪失(Abort状態になる)したHarrierは、攻撃終了後離脱を開始する。
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20Turn

NATO側に友軍誤射が発生。Hawk地対空ミサイル(Haew 3)が攻撃を終了して離脱中の米空軍F-15戦闘機を攻撃する。F-15は危うく攻撃を回避する。
一方でNATOのSAMが初めて戦果を挙げた。攻撃を終了して離脱中のSu-25を狙ったHawk地対空ミサイルが、目標の至近距離でさく裂したのである。Su-25は撃墜こそされなかったものの、重大な損害を被ってしまう。

21-24Turn

NATO_Hawk_31離脱を図るWP軍攻撃編隊。それをNATOのSAM部隊が追う。HAWKミサイルの1発がSu-25に命中。1機のSu-25が撃墜された。そしてこれがこのシナリオにおけるNATO SAM部隊唯一の撃墜戦果となった。
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結果

NATO軍戦果

MiG-23MLD 4機撃墜、2機大破、1機中破
Su-24 1機中破
Su-25 3機撃墜、2機中破

31VP(他に搭乗員損失に伴うVPあり)

WP軍戦果

補給廠(主攻撃目標)完全撃破
HAWK 1個撃破
HAWK 1個重損傷
Roland2 1個撃破
Gepard 1両撃破
Harrier GR.3 1機撃墜
21VP

NATOの圧勝

WP軍は損害が多すぎた。とはいってもNATOの戦闘機は強いので、なかなか難しい。このシナリオ、やはりWP側が不利なのかもしれない。

感想

結果的にはNATO側の圧勝となった。WP側のプレイに拙い点があったことは否めないが、それは後に触れるとして、まずは全体のバランスについて述べてみたい。
航空機の性能差によってバランスが大きく偏る可能性があることは指摘せねばならない。大半のシナリオで登場機がランダムに決定されるのだが、例えばNATOで言えば最強のF-15Cと最弱級のF-104、F-5系とではそれこそ天地ほど性能差がある。だから兵力決定ダイスが走らずにヘボい目が出たら、その時点で勝ち目は薄いと考えなければならない。
同じことがWP側についてもいえる。機体の性能差もさることながら、WP側の場合、国籍がソ連の場合と東ドイツの場合の2種類がある。まかり間違って「東ドイツ軍」なんて出してしまったら、それこそ目も当てられない。しかもヘボい機体だろうが、スーパーウェポンくん達であろうが、勝利条件などの補正値は一切ない。F-15でもF-5でも、落とされたら「NATO軍機1機撃墜」として扱われる。

ちなみにこの時は小隊毎に航空機の種類をダイスで判定したが、これはどうやらタスク単位で決めるのが正しいらしい。そのため上記のようなバラバラな編成ではなくなる。確かにエリア88じゃあるまいし、攻撃隊の構成機種がバラバラというのも変だが、これを適用すると益々機種判定のダイスの影響が大きくなってしまう。

そんなこんなで本作は純粋に勝敗を争うには不向きな作品である。勝敗に拘るプレイヤーであれば、もっと競技性に優れたゲーム(例えば「将棋」等)をプレイされることをお奨めする。
「ゲームの楽しみ方は単なる勝敗だけではない」と考えるプレイヤーだけが本作を楽しむ資格がある。ゲームにおける勝敗は単なる物差しに過ぎない。それよりも与えられた状況で如何に最善を尽くすか。こういった所に魅力を感じることができるプレイヤーだけが、本作の魅力を味わう能力をがある。

そう考えると、今回のシナリオでWP軍が勝利できる可能性はそもそも低いと言わざるを得ない。NATO側の初期配置されている戦闘機がF-15、F-16という「最強級」であったのに対し、WP側の護衛戦闘はいずれもMiG-23。機数では優っていても性能面での劣勢は覆うべくもないからだ。
とはいえ、今回のプレイでWP側が「ベストなプレイ」をしたかと言えば、必ずしもそうとも言えない。WP側がもう少し巧妙に立ち回ることができれば、点差を詰めることは可能であっただろう。
まずWP側の失敗としてあげられるのは、整合性のない攻撃プランである。高速のSu-17を前に、低速のSu-25を後から追わせる展開にしたため、第1波と第2波の間に時間的な隙間が出来てしまった。そのため低速のSu-25がSAMの反撃を受けることになって2機の損害を被ってしまった。この損害は、味方の突撃するタイミングをシンクロさせれば、敵の対空火力を分散させ、味方の被害を小さくできたであろう。
対戦闘機戦術で言えば、移動中は可能な限りジグザグに機動し、敵をして正面からの攻撃をし辛くするのも必要であった。スパローなどのBVRミサイルは、正面から攻撃が一番有効である。従って正面ではなく横腹を見せることでBVRミサイルの有効性を抑え込むことが期待できる。

全般的な感想を言えば、Down Townに始まる同シリーズ共通の特徴として、「面倒くさい」点を挙げておかなければならない。特に本作はチャートの枚数が増えたため、プレイ中にチャートを引っ張り回す機会が増えた。どこにどういった項目が記載されているかについて、ある程度慣れておかないと、「チャートを探すだけで日が暮れてしまう」という事にもなりかねない(冗談抜きで)。その上、細かいルールも多く、ルールブックを引っ張り回すだけでも大事である。いずれの問題も「慣れる」ことによってある程度緩和できる問題であり、また「慣れる」以外に有効と思える解決策がないのも事実である。

そろそろまとめに入る。
本作はゲームバランスやプレイアビリティ等ではいくつか問題を抱えており、そういった意味で万人受ける作品ではない。「プレイヤーを選ぶ作品」であることは確かだ。だから私は本作を決して万人には奨めない。
しかしながら本作は複雑な現代航空戦を余すことなく再現した作品である。特に現代航空戦の神髄、すなわち迎撃戦闘機と地対空ミサイルによって構成された統合防空システムと護衛戦闘機や電子戦機等を従えた大規模攻撃部隊との戦いを完全に再現したほぼ唯一の作品である。そういった点から本作は、真に現代航空戦の魅力を感じることができ、またそのための苦難を乗り越える根気を持ったプレイヤーのみお奨めしたい。そのようなプレイヤーのみが本作をプレイする資格があり、また本作の魅力を感じる能力を持った者なのだから。

No pain, No gain.

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