200322_陸軍特別攻撃隊


陸軍特別攻撃隊

高木俊朗 文春文庫

いわゆる陸軍特攻隊を扱ったノンフィクションである。文庫本3冊分のボリュームは結構あるので、読み通すのはそれなりにヘビーである。
本書が扱う陸軍特攻は、1944年10月のレイテ戦から翌年1月のルソン島上陸までがメインとなっている。その後に行われた沖縄戦は軽く触れるにとどまっている。
この時期における陸軍の特攻作戦は、戦史に稀に見る異常な戦いであった。まず「特攻」という戦術が常態化したこと。また特攻が強制的に行われ(志願制などというのは皆無で、最初から「命令」により特攻を強要されていた)、いわば「自殺強要」が行われたこと。そして最後はそのような狂気の戦いを演じた司令部が、米軍のルソン島進攻と相まって台湾へ「逃亡」してしまったことである。前大戦中、旧陸海軍は喧伝された「精強さ」とは程遠い戦いを何度も演じ、その恥部を晒したことは今更触れるまでもないが、このフィリピン戦における陸軍特攻こそは、旧日本軍の卑劣さと歪んだ組織の姿をさらけ出した事例だと言えるかもしれない。
本書は旧軍に対して批判的な立場にある著者が書いたモノだけに、旧軍特に第4航空軍、中でも同軍を率いた富永恭次に対して極めて批判的な立場で書かれている。それに対して旧軍関係者からは多くの反発があり、中には「英霊に対する冒涜である」という批判が寄せられたという。しかし筆者は言う。これこそ旧軍に根強く残る権威主義に表れだと。そしてそのような権威主義こそが日本軍部を堕落させ、さらには戦後においても軍部による誤魔化しが横行する元凶になっていると。
本書を読んで、まず筆者の膨大な調査に感服するとともに。筆者の言うようにこの陸軍特攻戦ほど日本軍部、とりわけ高級軍人たちの卑劣さを浮き彫りにした戦いは他にはなかったと思う。しかしこれが必ずしも唯一の例ではなく、インパールやノモンハン、ガダルカナル、さらにミッドウェーの惨敗や海軍乙事件における奇妙な対応等、日本軍における高級将校の堕落ぶりは目に余るものがあった。このような例を見ると、旧日本軍は決して精強な組織ではなく、むしろ抜きがたい欠陥を抱えた腐敗した組織だと思えてならない。

お奨め度★★★★