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「イゼルローン」(以下、本作)は、田中芳樹氏の小説「銀河英雄伝説」における宇宙艦隊戦闘を戦術レベルで再現するシミュレーションゲームである。本作は、「アスターテ・アムリッツア会戦」「リップシュタット戦役」と続くシリーズ作品の1作で、本作の後に「バーミリオン会戦」が発表され、計4作が発表された。

SF作品なのでHexやTurnのスケールは不明。1ユニットは約800隻の艦隊を表す。例えば「宇宙戦艦ヤマト2199」でバラン星に集結したガミラス艦隊は、約10,000隻ということだったので、12~13ユニットということになる(まあどうでも良い話)。

基本システムはチットドリブンで、指揮官毎にチットがあり、チットを引いた艦隊が移動・戦闘を行う。上級ルールには各艦隊の向きと艦隊行動に関するルールが加わる。艦隊行動には「通常」「突撃」「高速」があり、特に「突撃」は強力だが、敵の攻撃に脆いという弱点を持つ。
戦闘システムは戦闘比で、火力と防御力の比とダイス目で戦闘結果を求める。スタック制限が2枚までとユニット毎の戦闘力に差がないので、あまり大きな戦闘比は立たない。基本的には1-1とか1-2とかいった低比率の戦闘が中心になるだろう。

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「銀英伝」といえば指揮官の能力だが、指揮官は攻撃修正、防御修正、艦隊指揮能力といった能力があり、さらにチット枚数(1Turnに使用できるチットの枚数)がある。例えば本作で最強の同盟軍ヤン・ウェンリー大将は[8-9-9-4]、帝国軍の名将ロイエンタール上級大将は[7-7-9-3]である。
さらに「軍師」ともいうべき参謀ユニットもある。参謀ユニットには、攻撃、防御、艦隊指揮への修正値を持つ場合があり、さらにチットを追加できるものもある。本作の場合、帝国軍は参謀陣が手薄で、唯一の参謀ユニットはロイエンタール艦隊のベルゲングリューン中将だが、ゲーム上は全く役立たずである。一方、同盟軍には優秀な参謀が揃っており、フィッシャー少将とフレデリカ大尉はそれぞれチットを1枚ずつ追加する。ただでさえ優秀なヤン艦隊は、この2人の参謀によってさらに手が付けられない存在となる。

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今回、本作でプレイしてみたのは、シナリオ9「ロイエンタール vs ヤン」。「ラグナロック作戦」の一環として実施されたロイエンタール艦隊によるイゼルローン攻略作戦である。これはイゼルローン要塞の占領を狙った作戦ではなく、イゼルローン要塞を守るヤン艦隊の拘束である。プレイスタイルはソロプレイ。上級ルールと一部の選択ルールを採用した。採用した選択ルールは、「指揮官の特殊能力」「後退隊形」「指揮官の死傷」「指揮官の動揺」である。

なお、本シナリオではイゼルローン要塞の配置ヘクスが3840となっているが、シナリオでは使用しない領域である上、位置関係的にも不自然である。ここではヘクス0830と解釈した。

両軍の方針

まず同盟軍。同盟軍の強みは指揮能力の統一とチットの量である。もともとヤンの能力に加えて、フィッシャー、フレデリカの追加分が加わる。合計6枚。一応選択ルールで「今回ヤンはイゼルローン要塞から指揮をするのでチット1枚減」というルールがあるので、今回はそれを採用し、チットは5枚。それに対して帝国軍はロイエンタールが3枚、ルッツが2枚、ミスターレンネンが2枚で計7枚。枚数では帝国が勝るが、同盟軍はチットで全艦隊が活性化できるのに対し、帝国軍はそれぞれ個別に移動するしかない。従って統一的な指揮能力では同盟軍が上回る。
そこで同盟軍は帝国軍の各個撃破を試みる。散開している帝国艦隊。特に右翼のロイエンタール艦隊をまず叩く。ロイエンタール艦隊は帝国軍最強だが、これを叩けば帝国軍の背骨を叩き切ることができる。言ってみればアスターテ会戦でラインハルトが行った各個撃破戦術を立場を変えて同盟側が企図しようとする訳だ。

対する帝国軍は兵力の優位を生かして同盟艦隊を包囲殲滅する。問題はイゼルローン要塞だが、1艦隊を以て要塞を叩き(レンネンカンプ艦隊)、両翼に展開したロイエンタール、ルッツ両艦隊をイゼルローン要塞の射程距離外を突進させる。さてさてどうなることやら・・・。

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1Turn

帝国軍は全正面からイゼルローン要塞に接近する。特に帝国軍左翼のロイエンタール艦隊の前進が著しい。同盟軍ヤン艦隊は、各個撃破の意図を隠すため一時的に後退したが、ロイエンタール艦隊の突進を見て右翼に前進、ロイエンタール艦隊のと正面から対決する。

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2Turn

ヤン艦隊の猛攻によってロイエンタール艦隊は苦境に立った。兵力的な劣勢に加えて、行動チットの違いもある。ロイエンタール艦隊は早くも全戦力の40%以上を失う。
ロイエンタール艦隊の苦境を救わんとレンネンカンプ艦隊が側面からヤン艦隊を攻撃する。ヤン艦隊の一部は後背からレンネンカンプ艦隊の攻撃を受けることになるが、無敵のヤン艦隊は揺るがない。さらにイゼルローン要塞に近づき過ぎたレンネンカンプ艦隊は、イゼルローン要塞の主砲「トールハンマー」の射程距離に入ってしまった。
恐るべき光の帯が宇宙を覆い、レンネンカンプ艦隊の一部が消滅していく。2回にわたる「トールハンマー」の射撃によってレンネンカンプ艦隊は約2000隻(2.5ユニット)を失った。

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3Turn

「ルッツ艦隊は何をしているのか」

ロイエンタールは叫んだが、時すでに遅かった。ロイエンタール艦隊は撤退を試みたが、艦隊の左側面は航行危険宙域、その他の周辺にはヤン艦隊の分遣隊であるアッテンボロー艦隊が塞いでいる。四方から砲撃を受けたロイエンタールの旗艦「トリスタン」は爆発四散。ロイエンタール上級大将は重傷を負ったが、辛うじて脱出するに成功した。ロイエンタール艦隊は事実上壊滅したのである。

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ロイエンタール




4Turn

勢いに乗るヤン艦隊は、引き続いてレンネンカンプ艦隊に襲い掛かる。さらに「トールハンマー」が炸裂し、約1000隻が宇宙の藻屑と消えた。大損害を被ったレンネンカンプ艦隊はヤン艦隊に抗し得ず、遂にレンネンカンプ大将の決断でヤン艦隊に降伏する。
2個艦隊を失った帝国艦隊は大敗北を喫した。もう1つ、ルッツ艦隊は無傷であったが、殆ど無傷のヤン艦隊に抗し得るはずもなく、最大戦速で後退するしかなかった。

こうして第9次イゼルローン要塞攻略戦は終了した。帝国軍の損害は艦艇18,000隻以上(23ユニット、降伏した艦も含む)に達したが、同盟軍の損害は僅かに1,200隻(1.5ユニット)で、同盟軍の歴史的な完勝となった。

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感想

上級ルールは艦艇の向きに関するルールがあるので、一旦敵に向かうと後退が難しい。だから戦線を食い破られて背後に回ると壊滅するしかなくなる。初級ルールでは方向に関するルールがないので、もう少し柔軟な運用が可能である。どちらかといえば初級ルールの方が遊びやすいかもしれない。

今回のシナリオに関して言えば、帝国軍がイゼルローンの左右に回り込んだのが失敗であった。イゼルローン要塞付近が戦線の弱点になるので、そこを突かれると脆い。ロイエンタールが前に出すぎたので、そこを突かれたのが失敗であった。
さらにトールハンマーの威力もかなり強力である。ルールを読むとイゼルローン要塞が一見弱弱しく見えるが、そこはさすがに要塞である。下手に近づくとトールハンマーによる一方的な虐殺を食らうので、射程距離内近づくのは危険である。帝国としてはイゼルローン要塞にあまり肉薄せず、ヤン艦隊が要塞砲の射程外に出てくるところまで引き付けて戦うのが良いかもしれない。同盟軍が誘いに乗ってこなければどうしようもないが。

本シリーズについていえば、銀英伝の世界における艦隊戦をスマートにまとめた良作といえる。他のシチュエーションも試してみたい今日この頃である。