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The Fulda Gap Compass Gamesから2020年に発売されたThe Fulda Gap(以下、本作)は、20世紀後半に起こり得た西ドイツにおける東西両陣営の対決を描いたシミュレーションゲームだ。ご承知の通り、冷戦は東西の直接対決を経ることなく終結したので、本作はいわば「仮想戦」ゲームである。本作の設定年は1985年。場所はフルダ峡谷。かつて東西冷戦華やかなりし頃、米ソ両軍による地上部隊同士の決戦場とみなされていた場所だ。
今回は、本作の4人での対人戦に挑戦することになった。

前回までの展開 --> こちら

1985年8月1日

感想

Maker_Heavy_Barrage 時間の関係その他でこの時点で終了とした。最終的にソ連軍各部隊は東西国境線を突破し、国境から数キロ(数ヘクス)前進した。にしても開戦初日に僅か数キロとは・・・。
モンテリマールの時も感じたが、先にも書いた通り砲撃ルールが苛烈過ぎる。相手が非装甲部隊ならまだしも装甲部隊相手に砲撃だけで前進をストップさせることができるのはやり過ぎではないか。また火災ルールは面倒なだけである。砲撃で簡単に火が付く割に、火災の効果が大きすぎて(500m四方のHexが完全に通行不能地域になる)、所謂「火計」で敵の前進を止めることができてしまう。火災ルールなしでも良いかと思うが、そうなると地形に籠る戦車を排除するのが困難となってしまう。思いつきだが、火災ルールをなしにして、序に装甲部隊は地形効果を得られないとするのはどうか。

地形効果も奇怪であり、全く渡河できない小河川の存在等、移動障害地形が多すぎる。そこへ上で書いた砲兵の効果が加わるので、ソ連軍の突破は甚だ困難になる。とはいえ、単に地形効果を緩めると、今度は米軍がソ連の前進を阻止する手段がなくなり、数に劣るブラックホース(US 11Cav)達は容易に包囲殲滅されてしまう。さてさてどうしたものか・・・。

US_M72LAW_3IB全然使えない対戦車ミサイル(ヘルファイア除く)も違和感を感じる部分ではある。隣接ヘクスでは使えない(最小射程距離を再現するルールとは思うが、500mスケールなのだから隣接ヘクスでも十分撃てるのでは?)上、河川を飛び越えて射撃できない(戦車砲は河川を飛び越えて撃てるのに・・・)。

その他、ルールブックにも重要なポイントが記載されておらず(例えば核攻撃は一切の修正値を適用しない、あるいはATGMで臨機射撃できないといったルールは、ルールブックに記載されていないが、BBGのRuleフォーラムを読んで把握した)、またエラッタが多い。1980年代での和訳ルールブックでもここまで酷くないぞ、と言いたくなる。ネット時代になってルールその他の校正が甘くなっているのでは、と思わずにはいられない。

とまあ色々書いたが、褒めるべき点をば。
まずコンポーネントが素晴らしい(一部カウンターに誤記があるのは困りもの)。フルマップ4枚に描かれた中央ヨーロッパの地形とそこに展開する中隊規模のユニット。それだけでも食指をそそられるのに、カウンターデザインが素晴らしい。所属部隊別に微妙に色分けされたユニットは見ているだけでも楽しい。カウンターシートは9枚にも及び、カウンターを切り落とすだけでも大変だが、楽しい作業でもあった。
また航空戦ルールやヘリコプターのルールもシンプルだが良く出来ている。

全般的な感想としては、「テーマと基本システムが良いのに、味付けに失敗している」というものだった。砲撃、火災、電子戦など、基本システムをぶち壊しにする過激なルールが全体のイメージを悪くしている観は否めない。あくまでも個人(及び我々)の感想に過ぎないが。

現在戦ゲーム(仮想戦ゲーム)を評価する際に難しい所は、「史実」という評価基準が存在しない点だ。ヒストリカルゲームの場合、(歴史に対する個人的なイメージ差があるとはいえ)ある程度は「史実」を評価基準としてゲームを評価できる。
しかし仮想戦の場合「史実」という基準線がないため何がヒストリカルなのかわからない。WW3モノにしてもWP軍がどこまで前進できれば「ヒストリカル」なのかは、そもそも史実がないのでわかりようがない。従ってWPが大突破するのが「正しいプレイ」なのか、それともNATOが国境線をガッチリ守るのが「正しいプレイ」なのか評価しようがない。
つまるところ、ルール等から想像できるデザイナーの歴史観を受け入れるしかない、というのが個人的な結論である。

なお、プレイ中にしばしば参加者の中から「テストプレイしてないんじゃないか」という疑義が発せられたが、BBG等を読むとそれなりの回数(具体的な回数は不明)テストが行われたらしい形跡はある。だからテストプレイヤー達が間違っていたのか、それとも我々が間違っていたのか、あるいは両方とも間違っていたのか、あるいは両方とも正しかったのか、は、今のところはわからない。
ただしデザイン側としても小河川やATGMの問題については理解しているようで、そのまま放置することはないと思う。彼らとしては細かい点での不都合を拙速に修正した場合、これまでのテストプレイで築いたバランスを崩壊させてしまうのではないか、という危惧があるのだろう。それはそれで十分に理解できる話である。
我々としても短絡的にハウスルールに走るのではなく、もう少しデザインサイドの対応を見ていきたいと思う。

追伸:その後別のシナリオをプレイしてみると、工夫すればソ連軍による大突破が必ずしも不可能ではないことがわかった。また上記で非難した不合理なルールについても、個別に見た場合は確かに不合理とも思えるが、ゲーム全体としてみてみるとちゃんとバランスが取れているのが不思議である。
一見不合理と思えるルールだけを取り上げて、
「デザインサイドが無知である」
と短絡的に考えるのは如何なものかと思う(そう思わざるを得ないようなルールも確かにあるが・・・)。まずはルールに忠実にプレイすることが大事だなと改めて感じた次第である。(もちろんルールが気に入らないからプレイしない、というのはプレイヤーの自由である)

追伸2:ATGMや小川の件は、その後ルール修正によって改正されたそうである。

The Fulda Gap The Enemy is at The Gates NATO Designer Signature Edition
幻の東部戦線 機動の理論 The Art of Maneuver: Maneuver Warfare Theory and Airland Battle M1 Abrams vs T-72 Ural: Operation Desert Storm 1991 (Duel Book 18)